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一夜明けて、
女性陣は部屋付きの温泉で朝風呂を堪能中。
正確には、モルガナさんを除く、ですね。
だってモルガナさん、例のローブを頑なに脱がないし。
つまりは、いつでもどこでも『清浄』魔法オンリー。
まあ、それもまた人生、なのでしょう。
ちなみに俺は、より人生を楽しむため大浴場の方へと出張中。
むふ、大浴場には部屋風呂とはまた違った良さがあるのです。
めっちゃ広々とした場所での、開放感満点の露天天国。
この贅沢、たまらん……
「おはようございます、シジマさん」
「最高ですね、朝風呂」
おはようございます、
……すみません、どちら様でしたっけ。
「ごめんなさい、初対面なのに」
「シジマさんのような有名人さんにお会い出来たら嬉しくて、つい」
「松防砂 樹里遠 (マツボウサ ジュリヲ)と言います」
「ジュリヲと呼んでください」
初めまして、ヤツタカ シジマです。
もしかして、ジュリオさんも召喚者さん?
「はい、エルサニアの勇者くずれです」
「召喚されたその日に城を追い出された"最速放逐記録"のレコードホルダーだったのですが、流石にもう覚えてる人はいないでしょうね」
そんな大変な人生を……
でも、こうして拝見した限りでは、身体に深刻な傷とかも無いようですし、
もうこちらでの生活も順調ってことですよね。
「はい、おかげさまで」
「シジマさんは、こちらの世界で大活躍ですよね」
「お噂はかねがね」
いえいえ、お恥ずかしい限りです。
何故か、巻き込まれ体質のようで……
「その余裕は、ご家族に恵まれたから、なのでしょうね」
「僕も知り合いは多いけど、こちらの世界で家族はまだ……」
「ところでシジマさん、ひとつだけ質問、よろしいですか」
はい、どうぞ。
「元の世界に帰りたいと思ったこと、あります?」
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ジュリヲさんが去ったお風呂で、
ひとり、考える。
俺ってそもそも、こっちの異世界で暮らすことに特化して作られた存在だし、
今さら帰るところもへったくれも無いんだよな。
そもそも、帰るつもりがあるのなら、絶対に結婚しちゃ駄目でしょ。
そんな俺でも、
ジュリヲさんのような普通の召喚者さんが元の世界に未練がある気持ち、
分からなくはないのです。
もっといろいろとお話しを聞きたいですし、
お風呂から上がったら会いに行ってみようかな。
えーと、初対面なのに馴れ馴れし過ぎますかね。
では、女将さんに言伝をお願いして、了承をもらえたら会いに行くってことで。
それじゃそろそろ俺も……
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風呂上がり、フロントに寄って、ジュリヲさんのことを尋ねてみた。
「今、この宿にご宿泊されているお客様は、シジマ様の御家族様だけですが……」




