湖での悲運
今から六年前…。真冬で何人かの子供達が流行り病で次々に亡くなっていた孤児院が重たい空気に包まれて中、私はある出会いを果たした。
と言っても、既に面識はあった。ただお互いに関心を抱かず過ごしていただけ。だからまさかあんな何気ない一言が、後に波紋を呼び起こすとは夢にも思わなかったのだ。
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ザクッ、ザクッ…
雪を踏み分けて森の奥へと入っていく。防寒具からはみ出した顔だけが今にも凍りつきそうで、暇をもてあました孤児のほとんどが息を吐いては白い煙に目を輝かせている。
常時人手不足の孤児院では吹雪の落ち着いた日に薪や蝋の原材料、木の実ならしどを採取させさせられる。
大体は年長者がリーダーを務め、十人から十五人の組分けになる。私は氷死してしまいそうなほどの極寒から少しでも逃げようと体力の消耗を最小限に前に位置付けていた木の実の多い湖の近くに足を運ぶ。
大まかな集合場所を決めれば後は時間内までに個人で行動したり複数で作業効率を図ったり様々だ。
私は何分一人の方が気楽だった為個人行動で通していた。まぁそれが今回は幸か不幸かこんなハプニングに巻き込まれてしまったわけだけど…。
ドボンッ…
大きな物体が湖に落ちる音は、私が初めに聞いた喧騒の音のすぐ後に鳴った。しかも、私の目の前で…。
くすんだ灰色の髪の男の子が、もう片方の子を突き落とした。その子は灰色の男の子に何かと突っかかっていたのをよく見ていた。
灰色の男の子が草木から姿を見せた私に気づいても、一切の動揺を見せなかった。
そんな状況下で私は、心底後悔した。他の子と複数人で行動していれば、喧騒の声に足を傾けなければ、この男に出会うことはなかったはずだ。
そう、オルカ・アデスタントに…。
お互い沈黙が続く。この状況で命の危機を感じているのは私だけ。オルカはその反対にどう始末しようか検討をつけているのだろう。
ここで怯えでも来たら用済みの枠組みに入る。かと言って横柄な態度で虚勢を張ろうものなら即座に抹消対象に分類されてしまうだろう。
うわぁ…、視線が痛い。なんにも感情ないだけに余計怖いんだよー。はぁあ…。
「…戻らないの?」
「…、なぜ?」
無表情が作り笑顔へ戻る。でも私には、全部同じに見える。どんな顔でも、中身がなければ外面に他ならない。
「だって、ようははたしたんでしょ?」
「…何も言わないの?」
ここで『言わない』と言えばモノの見事にフラグ回収。ジ・エンドである。
「なんであなたのことを、わたしが?」
「いや、完全な見当違いだったね」
パアッと人の良い笑みを崩さないのに気味の悪さはぬぐえない。やはり主力なキャラだけあって個性が常識枠から除外されているようだ。
興味が薄れたのか突き飛ばした湖の方へ背を向けた。まだコポコポと空気が浮き上がっている。
そこまで深い水深な訳でもないが、極寒の真冬にそれも何重にも重ねた厚い防寒着を着ていればなおさら踠くのですら体力を極端に消耗する。
うーん、ここで立ち去ってもいいけどそれだとなんか逃げたみたいになるし、今のキャラを押し通すなら少なくとも一緒に観察ぐらいはしないといけないかな…。
嫌々ながら、本ッ当に嫌々ながら歩を進める。そしてちょこんとオルカの隣にかがんだ。