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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第三章 思惑(しわく)は交わる
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大公家でのお茶会

・ 【悪役令嬢視点】です。

 私は今心底後悔している。折角【物語ストーリー】から逃れるためのアイテムを手に入れようとした矢先で一番関わってはいけない人と出会ってしまったのか。そう、私の目の前で機嫌が良さそうに微笑むこの悪魔のような人に…!

 

 「今日は顔芸はしないんだな、エディス嬢」

 「なっ、顔芸とは何なのですかっ…」

 「いや、この間のように百面相ひゃくめんそうを期待していたのだが」

 

 どうやら小公子は見た目以上に失礼な奴だったらしい。今もこうして私が淑女教育でたまわったポーカーフェイスを必死で作っているというのに当の本人は喉を鳴らして笑っている。


 「…それで、私をご招待頂いた理由をお聞かせ願いますか? 私は過去とは言え小公子様を追いかけ回していた身です。今こうして席に座ることすら、許されない立場だと思うのですが」


 「それは過去の話であって、貴方は一度私に謝罪の文を送っただろう。あの時は気にも留めていなかったが、この間の一見でエディス嬢が私に対してなんら思い入れもないことが分かったのだからこうして招待するのも別に問題はない」


 そういうことじゃないんだってば。私が嫌なの! 誰が自分を殺す人の眼の前で呑気にお茶なんか飲めるのよ! そもそもこの間だって私と分かるまでは本気で殺そうとしてたじゃん! 


 今ならゲームの攻略対象と言うだけで現実もそうじゃないことがハッキリ分かる。スチルで見ればあれほど魅惑的に見えたミシェルも、生身の人間として見るならただ絶世の美貌を誇る猟奇的殺人者だ。顔は全てじゃない、はぁずっなんだけどなぁ〜…。


 コクッ…、コク

 こうしていざスチルと同じ光景を見せられるとあながち本当に神が作った人造物と言うのにも納得がいく。ここまで顔が整った人間は拝まなければそれこそ罰当たりというものだろう。


 特にアル真の大ファンだった私からしてみればこの状況はもはやご褒美。それがたとえ容赦なく人を殺す猟奇殺人者だとしても顔に罪はない!


 「私の顔がどうかしましたか?」

 あまりに見つめすぎたのか、絶対分かっているような口調でからかってきた小公子に口論では負けることを悟っていたのか変化球なしのストレートで接することを決めた。うん。私は大人だからね。そう、大人大人…


 「小公子様は本当にお顔が整っていらっしゃるので、お化粧をすれば国が傾く美女が出来上がりそうだと考えていたところですわ。是非お化粧をしてみてわいかが?」

 まるきり嘘である。前言撤回しよう。売られた喧嘩は買う。これが私流のやり方だぁ!


 とんだ不意打ちを食らったミシェルは額にキレ筋を入れつつも笑顔を崩さなかった。すっごくスッキリしたぁ! 美形はやっぱりどんなときでも美形であると証明されたと同時に推しの新たな一面を見れたことで私の気分はすっかり上昇しきっていた。


 「エディス嬢はどうやら()()ユニークなセンスの持ち主のようですね。()()記憶の中に強く印象付けておきます」

 「え、えぇっと…ぉ。それは別にだいじょぅぶ…」

 「なにか?」

 「あ、はい。ごめんなさい」


 笑顔の圧というのはまさにこのことだろう。ミシェルの美形を最大限に生かした笑顔の前に謝るほかなかったのだ。これでまだ子どもというのだから大人になったときは既に手に負えない気がする。


 「あぁ、私が貴方を招待した用件ですが…。エディス嬢、いつから聖遺物のことをご存知でいらしましたか?」

 「…なんのことでしょう。私には心当たりが全くと言っていいほどありませんが」


 咄嗟に否定したはいいものの、あれは絶対に疑っている、というか私が知っていると確信した顔だ。薄ら寒く微笑んで入るが、絶対的な壁を感じるのは思い込みじゃない。この質問の答えで私の処分が決まるのか。


 正直言って、今すぐ帰りたい。()()ミシェル相手に嘘を突き通せる自信もないし、どういうわけか彼もあのアイテムが聖遺物だって知っているし、どう誤魔化せば良いのかすら考えていなかったのだ。

 

 即興で思いつけるわけもなければ矛盾を孕んだものばかりになる墓穴を掘るのは目に見えている。一体どうすればこの危機的情報を切り抜けられるのか。…もういいっそのこと割り切る? でもそれだとリスクが…。


 「先日も申し上げた通り、私は祖父の形見をどうしても取り戻したかっただけです。ですがもう小公子様の手の内にあるというのだからきっぱり諦めています」


 「…それはおかしいですね。エディス嬢、私は一度もあの指輪が聖遺物だとは言っていませんが、何故貴方はそれを知っているのですか?」

 

 ヤバい。やられた。完璧に嵌められたのだ。まんまと相手のかけた罠にかかってしまった私はさながら囚われの兎。気がつけば手を握りしめ冷や汗がびっしょりとついている。


 「それ、はっ…。祖父が教えてくれたのです」

 「はて、何故我が大公家に代々伝わる失われた秘宝が貴方の祖父の形見ということになったのか。それともう一つ。貴方の亡き祖父であるアンヴァージ公爵は創叡時代前にお亡くなりになられていますよ」

 

 創叡時代、つまりは今から二十年以上前ということになる。こんなことならもう少し調べておけばよかった。まさか相手方の方が情報において有利だとは夢にも思わなかったのは明らかに私のおごりだ。


 それにしてもまさか聖遺物が大公家と関わりのあるものだったとは…、私の努力は最初から的が外れていたらしい。これでまさか競り落としていたのなら関係悪化に拍車がかかるのは目に見えていた。


 「…ある情報網から仕入れたんです。その方々の名前は明かせませんが、私は魔法が使えませんので自衛のためと思って手に入れたかったんです」

 「しかし大公家の秘宝だとは知らされてなかったようですね。あの時私に会ったときも驚かれておいででしたし」


 「当たり前です! もし知っていたあのならば絶対に関わっていませんでした」

 「…分かりました。ひとまずはこれで大丈夫です。過程はどうあれ秘宝は戻ってきましたから、エディス嬢の方も潔白らしいですし。ただまだ完璧には信用できませんので、今後一週間おきに招待状を送ります。もちろん、断るなどという選択はありませんよね?」


 悪魔だ。悪魔がここにいる。完璧な貴公子きこうしの微笑みで話す内容がえげつない。つまりは少しでも邪魔になるようだったらいつでも殺せるようにするってことでしょう? 無理無理、絶対無理。


 イヤイヤと断りたいがもし今ここで断ってもさらに疑いが強まりまさかのまさかでジ・エンドだ。私の推し様エゲツねぇっすわ。ちょっとは慈悲を施して見逃して欲しい。


 心の中で泣き言を吐きながら、滅茶苦茶嫌だという態度をぶつけて了承の返事を出す。そんな私の様子を見てミシェルはまた横向いて笑ってるし! あんな奴大嫌いじゃぁ!


 結局この日はこの後も付き合わされたし、最期は若干素で話しちゃったけど別に気にしてないようだったしいいよね。あぁもう、やめやめ。答えの出ない悩みなんて後回しにして、今は明確に分かっている仕事を先に片付けてしまおう!


 よぉしっ、このストレスは全部仕事にぶつけるのだぁー、ぁー、ぁー…!


 こうして私は本来臣下がするような仕事も怒涛どとうの勢いでまとめて終わらせ、成長途中であったグラニッツ商会の規模がさらに拡大したことは言うまでもないだろう。



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