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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第一章 悪役聖女の今際(いまわ)
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【オルカ】という男

 …回想はこんなところだろう。つまり『おじさん』という存在に出会ったことで今の私があるというわけだ。


 だって『おじさん』がいなければ今頃とっくの昔に逃げてた。勝手に転生させて、未来を決められて、過酷な労働を押し付けられて、とんだ貧乏くじを引かされたのに逃げたくないなんて方が馬鹿馬鹿しい。


 だけどおじさんは私を覚えてくれると約束したから、おじさんの生きるこの世界を守ると決めたから、私は死ぬのだ。そう思えば幾分かは、心の重荷も軽くなる。


 今ではもう懐かしい思い出。この時期になるとよくよく思い出す。あの小さな家での一時(ひととき)。こんな無駄に大きくて、中身のない外側だけの神殿よりらずっと空気の美味しかったあの家を…。

 


 「随分と機嫌がよろしいようですね」

 唯一の癒しともいえる記憶に浸っていたのにそれを妨げたのはこれまた懐かしい男だった。


 「お久しぶりですね。オルカ大神官」

 オルカ大神官。『アルティナの真珠』の攻略対象であり、次期教皇として名高い実力を持ち合わせている。


 持ち前の膨大な神力とアルティナ教の影響力で皇女の起こした政策や事件にに大きく貢献するキャラ設定だった。

 神力の濃度を表す銀髪に琥珀色(こはくいろ)の瞳。顔の造形でさえも彫刻と名高いが、彼の本性は蛇のように残忍極まりないことを知っている。


 そして彼とは、私が孤児院にいた頃からの顔馴染みだった。と言っても、彼の印象に良いものなど存在しない。



 「はい。国境戦も終結したのではるばる帰って参りました。それで、遠征前にお約束したこと覚えていらっしゃいますか?」

 「…えぇ。いらしてください」


 手招きして慣れたようにオルカは椅子に座る私の前で頭を差し出さすようにかがんだ。

 それを私はゆっくりと触れて、撫でてあげる。まるで犬を褒めるように。そうすればこの男は内に潜める毒性を完璧に隠して恍惚とした表情を見せるのだ。



 「今回の国境戦は随分と長かったですね」

 撫でている間気まずいのは私だ。私より二歳上の男を、それもオルカを撫でるのに何か当たり障りのない会話をしなければ息ができない。

 だけど何が(しゃく)に触ったのかピクリと喜んでいたはずの動きを止めた。



 「…帝国軍は無能の集まりでした。指揮監督がまともになっていないのに、アレで蛮族と戦おうと思えたのももはや一種の才能では?」


 つまり指揮の人間が無能過ぎた為に普段であれば半年で終わる戦が二年半も掛かったと…。確かにそれは腹が立ってもしょうがないが、その苛立ちをぶつけるのはその指揮監督の臓物だけにしてほしい。



 「そうですか。頑張りましたね」

 私が滅多に口にしない褒美の言葉であっさりと元に戻ったオルカ。全く切り替えの早い男である。これが本当にこの男の全てだったとしたら愛嬌が良く甘え上手な人間だとも思うが、あいにくこの世界はそこまで生ぬるくない。


 オルカ・フィー・アデスタントは近い未来教皇排除のため進んで私を皇家に売り渡すのだから。そうして腐敗が進んだ教会を一掃した後、頂点に君臨し【原作】では見事皇女との結びつきを深める。


 オルカが『聖女』を甘い嘘で騙し、傀儡(かいらい)として操った後でいとも容易く切り捨てた残忍さも、愚かな様を嗤うでもなく無価値なモノとして縋りつく手を『聖女』もろとも投げ払った冷酷さも、全部全部知っていればこの時間ですら苦痛になる。


 いつか私を捨てる男。それどころか売り飛ばす男にどんな機嫌を取られようが、(なび)くわけがないのだ。だけどそれ以前にもっと…、()()は違うのだ。


 思えば初めの出会いから私達は少しおかしかった。なにせ初の対面が、オルカが他の孤児を真冬の湖に突き落としたその瞬間なのだから。


 あのとき私が思ったのは確か、神聖力なのにそれを保持する人間は必ずしも清らかなわけではないんだな、だった。

 それほど私に気付き振り返ったオルカの瞳は、『虚無』に満ちていた。



 「何をお考えで?」

 変なところに目ざといオルカは(いこ)いの時間に私が別のことを考えていたのが気に入らないのか猛獣のごとく鋭い目で私を狙った。



 「…別に、貴方との出会いのことですよ」

 内心の同様を押し隠し今にも震えてしまいそうな声そう口にすれば、オルカはまた喜びを(あらわ)にし存分に私の(ほどこ)す褒美にありついた。



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