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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第三章 思惑(しわく)は交わる
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生誕祭

・ 【悪役令嬢視点】です。

 いよいよ生誕祭当日。私の十一歳の誕生日と共に屋敷ではパーティーの準備と参列者の対応に追われている。


 どこもかしこも最終チェックに(いそ)し回り、下級貴族から順に馬車が到着している。流石帝国に四つしか存在しない公爵家なだけあって参列者の数は有に五百を越えている。


 アイシャから聞いた限り今年の参列者は過去最大らしい。何故かと理由を聞くと公爵との関係が思わしくなく、さらに悪名が田舎にも(とどろ)いていたため参加を見送る大貴族が大半だったとか…。理由を聞いて納得してしまったのが悲しい話である。


 しかし今年は公爵との関係が改善したこと、何より絶大な反響を及ぼしたハンドクリームを販売する商会長ということで注目が集まり、これでも厳選した方だという。


 去年に比べ費用も半分以下になってるし、というか去年までのパーティー費用がおかしいのだ。無駄にゴテゴテに着飾って参列者の目に届かないところまで変なこだわりを持っていたために本来不要なお金を注ぎ込んでいたのである。


 とにかく今日は私の生誕祭であると同時に今後売り出す商品の講評会(こうひょうかい)でもある。地球にあるものがどれだけこの国で受け入れられるかなんた食品に関しては特に気を付けなきゃいけないしね。


 そう言った事情で今回は公爵家一同大変意気込んでいるのである。だって私が一番緊張してるから! 


 皆大丈夫だって言ってくれるけどいわば上司にプレゼンするようなもの。何より個々の感想になるため好みなどで左右されない料理やデザートを出すつもりだ。


 ビュッフェ形式で出される食事のうちフライドポテトや唐揚げ、ペペロンチーノなんかのファストフードを取り入れたのは挑戦だ。


 イタリアンな料理を(しょく)すこの国の人達にとって見たこともない料理食指(しょくし)を伸ばしてくれるかどうか…。うぅ~、やっぱり考えれば考えるほど不安だー。


 本当は刺身(さしみ)やお寿司も用意したかったんだけど、生魚を食べるなんて考えられなかったのかうちの料理長が泡を吹いて倒れたのだ。


 それにそもそも新鮮な生身の魚を輸入するなんて高等技術この世界の魔法を持ってしても難しいらしい。ぐぬぬ、私にも魔法があれば絶対実現できたのに~!


 これは今後の課題にするとして、あとはデザート系だ。私の一推し生ガトーショコラ。外はカリッ、中はトロットロッにチョコレートで埋め尽くされた贅沢すぎる逸品(いっぴん)


 他にもチーズケーキ、クレープケーキ、フルーツケーキ、モンブランにエッグタルトなんて種類は五万とある。その中から今年の春に売り出す五つを提供するつもりだ。


 ひたまず人数分はどれも確保しているが、追加で注文が入ったとき何を何個作ればいいのか未定なため厨房(ちゅうぼう)の者達は一層と緊張した面持(おもも)ちをしている。

 

 そんなこんなで公爵家全体が慌ただしく忙しい中、朝早くから私も別の準備に追われていた。


 まだ朝早い五時である。バッとぬくぬくしていた布団を剥ぎ取られあれよあれよとお風呂に入れられた。


 まだ寝ぼけた頭で身体中ケアされパックやマッサージに一時間半。着替えに一時間、ヘアセットに四十五分とこれだけでもうクタクタである。


 その代わり時間に見合った仕上がりが完成しただけに文句は言えない。しかしまぁ本気で着飾るとこんなにも整っている顔立ちだったのだと再確認したのも良い事だ。


 わざと黄金ではなく白銀の髪飾りにすることで深い夜が演出されどことなく清廉さが(にじ)み出ている。いつもそのまま下ろした髪型だっただけにこうしてまとめるとスッキリして見えるものだな。


 容姿のことで散々な噂を流されていたから少し気が楽になったということもあるのだろう。未だ続々と出席する貴族達をまどから眺める余裕までできた。


 今はもう高位貴族の順だということであと一時間もすれば私の登場となるだろう。窓から見る限り私と同い年の子がちらほらと見える。


 流石高位貴族の子だからか(たたず)まいは随分と育ちが良い。まぁそうでなければこんな場所に連れてこないと思うけど…。


 それに比べ下級貴族の子達は大人がいないところで既に派閥を作っているようだった。恐らく最近増えてきた成金貴族の子供達を取り巻きにして中心にいるのが根っからの貴族の家門のこどもだろう。


 幾ら同じ爵位と言えど貴族の誇りというのはそう簡単に無くならない。それは子供であろうと、代々受け継がれている。


 様子を見ていると成金貴族の子供達は逆らえずにビクビクと怯えるかわざと仮面を被り相手を操るかの二種類に別れているのが分かる。きっとそれが今後の躍進の違いだろう。


 従う者か、従わせる者か。それは何も表面的なものだけでは決して現れない。従わせているようで実は従わせられている道化もあの中には存在するのだ。


 貴族社会の現状を彼らのやり取りだけで理解できたのはある意味得をしたのか。まぁ私には関係のないことだと腰をついていた窓縁(まどぶち)から立ち上がり、ようやく会場へと向かう時間になった。


 コツ、コツ……。


  

 緊張からか心拍数が上がっていくのが分かる。扉の前、お父様がエスコートをする為に待っていてくれていた。


 この扉を開けた先には想像もできないくらいの大勢の人がいるのだろう。その視線の針を受け止められる自信は、正直言ってない。もしかしたらまだ私の容姿を不吉だと忌み嫌う人もいるのかもしれない。


 不安に怯えているのを何処からか感じ取ったのか、お父様は私の手に同じく手を当てて何も言わず背筋を伸ばし前を真っ直ぐと向いていた。

 

 それだけで伝えたいことは全部分かった。私にはちゃんと味方がいて、怖いものは何もない。もし私を貶す人がいようものなら、きっとお父様が守って下さるだろう。

 

 ふぅ…と一つ息を()いて、門番に目配せする。すると途端に扉が(ひら)け、私達はシャンデリアの輝く真下に足を踏み入れた。

 

 「グラニッツ公爵家当主 アウロス・テナ・グラニッツ様及び公女エディス・テナ・グラニッツ様のご入場です!!!」


 私達の紹介と共に集中する視線の嵐。それに一瞬引き下がろうものなら、お父様の力強い手が私を安心させた。


 そうだ。此処にか集まっているのは単なる貴族ではない。今後私の商会の顧客となる大事な『お客様』である。


 そう考えると不思議と頭の中がスッキリとして、真っ直ぐ彼らの目線に会わせることができた。よし、此処からが本当の『商売』だ。


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