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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第二章 【原作】始動
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甘味は毒となり…

 ……イタイ。全身が火に焼けた様に火照っている。肉付きの悪い身体に刺さった凍てつく鉄くずの数々に、こんな扱いをされて尚生きている己の身体を嘆くばかりだ。


 数時間に及ぶ拷問に、心は既に打ち砕かれている。眠ることも許されず、思考は逆行して無に帰っている。



 「ぁ、っあ゛、ぐッ……?!!」

 私がこうして冷たい地面に膝をついている姿をオルカとラクロスはたのしそうに眺めて、たまに棒が貫いた箇所を抉って痛みにあえぐ私をその貪欲な濁った瞳に映している。



 「はぁ…。なんでこんなに可愛いのかなー」

 ラクロスは項垂(うなだ)れる私のあごを力任せに上げてまるで丸ごと食べようとしてるみたいに口を開けてその隙間から牙を見せた。



 「ラクロス、汚れた手で触るなと何度言えば分かるんだ」

 「あー、ハイハイ。ったく嫉妬しっと深い男はモテないよ~?」


 眉間にシワを寄せたオルカからの忠言にパッとラクロスの手が離れた。普通であれば私に触れた時点でオルカの排除対象となる。

 そしてラクロスも、素直に人の言うことを聞くような男じゃない。最悪の二人が手を組んだという事実が改めて私の空っぽな胸に突き刺さった。


 どうしてとか、なんでとか、そんなのもう今さらだ。私の地獄が二倍になった。現実はそんなものだ。

 『宝物』とその口で言うくせに、こんな扱い方しかできない人間の程度は知れる。だけどその程度に私がついていけるかは、全くの別問題だ。

 化け物達の視線が痛い。貪るような、欲するような熱を含んだ視線に私だけが蚊帳の外にいるみたいだ。


 項垂うなだれるのにも首が疲れて、ふと顔を動かすとオルカと視線が合う。私は、その視線を外すことができなかった。オルカがそれを許さないと告げていた。


 そっ…と顎に指が()う。私はそれに反応することなく、気の済むままに口づけを交わした。二人の間に(つた)う糸の引いた唾涎(だえき)。前みたいに強引なものじゃないけど、抗えない何かがあった。



 「っ、ぁ……。んっ…ぁ」

 たった数秒の口づけは息の苦しさを訴えたけど、止められることはなかった。段々と気持ちよさと苦しさが高まり突き詰められる。呼吸に必死になる私とは裏腹に、オルカは私の髪を愛でる余裕すらある。これが経験の差がだとでも言うなら、私はこのままでいい。



 「…、…はぁ。シルティナ…」

 今にも私を食い千切りそうな獣が悶えるように味見に浸っている。どうしよう。凄く眠いや…。息に仕方が分からなくなって、苦しさが募っていたせいか意識に(もや)が掛かり始める。


 このままこのかすんだ意識に流されてしまえばいいのに…。そう思えど私の身体は意思とは相反(あいはん)して芯の奥から(うず)いている。


 いっそ手酷くすればいい。私はそれに怯え泣くだけで良いのだから。たけど、この『甘さ』は嫌だ。私ですら(きたな)(よご)してしまうそれは、到底耐えきれない。



 ……コツッ、コツ。


 終わることのない口づけに終止符しゅうしふを打ったのは、唐突とうとつに響いた階段を下る音だった。一早く異変に気づいたラクロスが中止を呼び掛ける。


 オルカも気づいていたのか分からないけど、少し名残惜なごりおしそうな私の口内から舌を引き抜いた。ようやく真面(まとも)に空気を吸うことができた私は今まで支えられていた分も疲労が溜まってガクンと力尽きる。


 徐々に近づいてくる足音。音は上から鳴り響いている。もしかしたらこの空間は何処かの地下と繋がっているのだろうか。よくよく観察すると扉らしきものはあった。


 それでもこの空間はオルカの神力で隠蔽いんぺいされているため見つけることは不可能なはずだけど、もしそれを読み破る人間がいるならその人の命はないだろう。


 いつになく真剣な(おもむき)で扉を見据みすえる二人を見て、一つ溜め息をついた。また血を見ることになるだろうと、そのときは本気で思っていたのだから…。


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