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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第二章 【原作】始動
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歪な愛情

 「ぁあ゛ぁあ゛あぁ゛ぁ……、うあ゛ぁあ゛あ゛っ。…ぅ゛う゛ぅうぅ」



 夜、誰もが寝静まった深夜に歪な叫び声がその部屋には響いていた。こんなに声を荒げていても、助けに駆けつける気配の一つさえない。何故ならそれが、『当たり前』だから。


 シーツは際限(さいげん)のない涙でぐしゃぐしゃに乱れている。ベッドに押し付けられその上からオルカが首を締め上げ、逃げ場を何処にも失くしたシルティナはただ求められるままに(もが)き苦しんでいた。


 これは普通に首を締め付けられるよりずっと苦しい。それでいて身体的負担も大きく終わっても痙攣(けいれん)が収まらないからオルカが好むやり方の一つでもあった。




 グッ…、グググ…ギッ

 「ッかは?! ぁあ゛ああ゛あぁあぁ……!!!」


 私の首などいつでもへし折れると言うように何の表情も変えずに力が加わった。早く、早くこの地獄の時間が終わることを祈って、私は喉が(かす)れるまで叫んだ。


 この躾行為が終わるとアフターケアのようなものなのか動けない私に変わって涙や涎などを綺麗に拭き取ってくれるけど、そんなことするぐらいなら一刻も早く視界から消えてほしかった。


 それでも視線を動かして睨む気力なんて到底あるはずもなく、都合のよくなった私をオルカはたくさん甘やかした。


 髪を整えたり、指にキスしたり、頬に触れたり、まるで恋人にするようなことをする。その仕草の全てに愛情を感じるものの、それを抵抗のできない状態にして行うことの不完全さに吐き気がした。


 こんなの『愛』じゃない。ただの暴力だ。一方的な愛情に、私の意思の一つも反映されず、繰り返される行為に生産性のなにもありやしない。


 私が睡魔に抗いきれず、泥に沈むように意識を落とすと少ししてようやく気配が消える。そして次に目が覚めたときには昨夜の蛮行(ばんこう)の証拠など消え失せている。


 その事実に、どれだけ私が打ち震えていることかあの男に1mmも理解できないのだろう。この時間が一番虚しくて、やるせないことなど誰にも分かりやしない。


 あの歪な行為をを覚えている者は私とオルカだけ。それなのに、それを証明する証拠を私自身が消してしまうのだからどうしようもないのだ。


 あの夜が消えてしまう。誰にも知られることなく、私達の間にだけで完結してしまうことに果てしない(むな)しさを感じる。

 



 コンコンッ……


 「…入ってどうぞ」

 やつれた顔を直し、無理やりにでも口角をあげる。こんな生活を何年も続けていれば自然と体が反応するものだから面白いものだ。


 「失礼します」

 オルカが来た次の日は決まって私の口数が減る。いつものように些細な行動に褒めることもできない。


 だけど彼らの中にその理由を知る者は何人といるのだろうか。もし全員だというのなら、それこそ救えないや。


 「せいじょ様。おはようございます」

 続けてノースが朝の挨拶に来た。血色も良く、もう既に健康体に戻っている。身長も少しずつだけど確実に伸びてきてその成長に私はほんの少し、口角を(ゆる)ませた。


 「おはよう、ノース」

 朝からノースの元気な様子を見ると、心の持ちようが違う。当たり前のように用意される一人分の食事。私はいつも通りノースが食べている間目覚めのお茶を飲んだ。


 「せいじょ様、大丈夫ですか?」

 「…うん。大丈夫だよ」


 こうしてノースが心配そうに聞く日はいつも決まってあの夜を越えた日だった。ノースが気づいてくれることに歯痒(はがゆ)い喜びを感じつつ、それにいつも同じ応えしか返せないことが苦しい。


 「ノースは最近どう?」

 「僕は昨日やっと剣術の先生にハンデはありですが勝つことができました」

 「十分凄いよ。よく頑張ったね、ノース」


 「はいっ」

 嬉しそうに笑うノースに、汚された私の心が治されていく。でも、都合よく利用しているのは私もだ。こうして無邪気に笑みを向けてくれるノースを、私の我が儘で縛り付けている。


 本当の信頼なんて置いてないくせに、都合のいい時だけいいように利用するなんて、やっていることは彼らと何も変わらない。


 「聖女様。教皇閣下がお呼びです」

 朝食の時間を(さえぎ)ってやって来た報告に、私は一息吐()いてそれに応えた。


 「分かりました。すぐに向かいます」

 閣下からの呼び出しはあのシムルグ討伐の要請以来久しぶりだ。ノースにいい子で待っているよう伝え、数名の神官を連れて閣下の待つ執務室へ足を運んだ。



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