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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第一章 悪役聖女の今際(いまわ)
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馬車の中で…

 

 ガタンッ…、ゴトッ……


 整備せいびされていない獣道けものみちとも言えよう道を一台の馬車が走っている。こんな道を馬車が走るのはあまりにも不自然で、どうせオルカが始めから手配していたものだと分かった。


 そして私たちはというと、あれから一度も言葉をわすことはなかった。だがそれはただの【()()】ではない。


 「ぅっ…、ら…っ゛ぁあぁ゛っぐ!」


 馬車の中に響く(くぐ)もった私の悲鳴。その苦しみ悶える様を焼き入るようにして黄金に映すオルカ。この密閉みっぺいした空間は、すでにオルカのテリトリーだ。


 これでまだ【お仕置き】の内に入らないというのだからもう心が折れかけている。限界の先を越えて失神寸前になったらパッと手を離し、その隙に生存本能からか肺が勝手に空気を吸う。


 それでまた落ち着いたらのときもあれば、たった一瞬の時もある。その不規則性ふきそくせいがさらに私の思考力をにぶらせる。


 西の森から神殿まで馬車でも最低二日はかかる。まだ体感たいかん時間で半日も経っていない。それにこの『準備期間』が終わったとしても、まだ本命の【お仕置き】が待っている。


 開きっぱなしの口から涎がこぼれオルカの衣服に染みを作る。何時間もやられればある程度癖などで慣れてくる。


 それすらも熟知じゅくちしているオルカは頃合いを見て指を喉まで一気に押し込んだ。咄嗟とっさのことにろくな反応も取れず、盛大にえずいて()きまくっている。


 『いや』も『やだ』も『くるしい』も言う暇を与えてはくれない。苦痛から逃れるためにその全てが【快感】に転換てんかんされる。それが何よりの絶望に他ならない。


 苦痛は苦痛のままでいい。…が、いい。苦痛である行為に快楽を感じた時点で、この男の手にちたも同然なのだから…。


 「っえ゛…! っがぇぁ…ッ?! ぉ゛え」


 オルカはもうこの一日表情を殺している。最初のあの笑顔も鼻歌ももうない。私を『苦しめる』こと以外の全てを放棄しているみたいに、彫刻のような顔を眉一つ動かさず非道なな行為を続ける。


 夜が更けた。馬車は進みを止めない。私はオルカの膝の上に頭を置いて気を失い眠りにつく。


 目を覚ました瞬間に私の髪に触るオルカとバッチリ目があった。きっと一睡もしていないのだろうとこんな馬鹿な予想は外れていてほしい。


 「…ふっ、ん~ーー…ッ、っぁ゛え゛…。ん゛ん゛~ーーー~~ッ??!!!」


 鼻と口を同時に押さえつけられ、首を絞められる以上の息苦しさに悶え叫ぶ。


 抵抗して口をほんの少しでも開けば指をねじ込まれる。生理的せいりてきな涙が水溜まりを作って、涎と鼻水も混じってベトベトの感触が気持ち悪い。


 ゆるして…。『ゆるしてほしい』と懇願するように目尻に涙を溜めオルカの服に縋ろうものなら愛おしむように目を赤く蕩けさせ口づけされる。


 このときだけは『苦しみ』から解放される。身体はそれを覚え込まされ、徐々に自ら口づけを迫るようになる。もうどこからがオルカの手中(しゅちゅう)かはわからない。


 「っふぁ…、んっ。ぁつ……んむっ」


 お互いの涎が絡み合い、下に零れた。


 気持ちいい。

 気持ちいい、きもちいい、きもちいい…。身体が(ほの)かに火照っていく。


 散々手酷くなぶられた後のアメはどこまでも甘く、こんなものに縋る他ない自分の惨めさに涙が溢れる。変わっていく自分を認めたくない。もうとっくに諦めていることに、気づきたくはないのだ。


 こんなことなら苦しい方ごずっとマシだったと思いながら、身体はせばむようにアメを享受(教授)し続ける。オルカの瞳は全てを見据みすえて、満足の行く結果に愉悦ゆえつに満ちている。


 与えられるだけのアメに溺れていると、唐突とうとつなムチが始まる。甘さを知ったからこその苦痛が長引き、その繰り返しに精神はむしばまれた。


 最終的に許しを乞う余裕も、泣き縋る力も毛根尽き果てオルカにお姫様抱っこの形で神殿に戻る羽目になってしまった。神殿に馬車が到着したとき、私が感じたのは嘲笑ちょうしょうだった。


 閣下が存命するこの神殿で私に手を出すと言うことは即ち神殿の没落を意味する。今この瞬間をもって、新たな神殿の主が誕生したに等しいのだから…。


 滅多に目にかからない上級神官でさえ同じ階級のオルカに頭を垂れ礼儀を払っている。それは無理矢理のものじゃない。心からの崇拝で覆い隠された礼儀だ。


 そしてこの状況に何ら疑問を抱いていないのなら、『私』の存在は既に周知の事実なのだろう。いくら分かりきっていたこととは言え、表立って現実を見せられれば怒りよりも先に()()が襲う。


 「…ぁはっ。はは、はっ…。あははっ……」


 疲れきった私の身体はもう指一つ動かすことさえ叶わないというのに、あざけるように口角は上がりこの馬鹿馬鹿しい光景に乾いた笑いが止まらなかった。


 悲しいのだろうか。いや、そんな安っぽい感情じゃない。怒りだろうか。それもまた違うと断言できる。それじゃあこの、やりきれない『痛み』は何なのだろうか。


 それを教えてくれる人はもうどこにもいないことに更にやるせなさは増して、私はオルカの腕の中で揺られ神殿の奥に進んでいった。


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