表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第六章 天性の魔性
173/175

嘲笑う挑発

 今になって思うが同じ皇族という立場でありながらこのへりくだった態度はエルネの新たな戦略の一つだろうか?


 まぁ確かに今エルネが私に挨拶に来たことで貴族たちの向ける視線の数が一気に増えたけど、一挙一動が常に監視されているうんざりするほど窮屈な観劇だ。


 ゔ〜ん、確かに始めよりかは遥かに立ち振舞は変わって見えるけどやっぱり決定的な何かが足りないのか今この舞台で私と同じ足並みを揃えるに足りうる人間だとは思えそうにないみたいだ。


 「帝国第三皇女アルティナ・フォン・ラグナロクよ。初めまして」


 私が座ったまま挨拶を返したことであからさまに貴族たちの様子が変わった。本来なら席を立ち彼女と同じ礼を持って応じるのが作法だけど、果たしてそれをする価値が今の彼女にあるのかしらね。


 エルネも一応この無礼を驚いているのか表情が固まっている。その点私はニコニコと片手に持った赤ワインを口に含むまで余裕がある。誰が見てもこの場の支配者は私だ。


 新たに現れた私を牽制することはできずとも印象付けることぐらいは目的にしていたでしょうに、残念ながらエルネの面子が丸潰れただけで私にとって何の痛手もない。


 ふふっ、此処からどう反撃してくるかしら。こういう何気ない社交戦をする機会なんて滅多になかったから柄にもなく心浮き立っている自分がちょっぴり恥ずかしくて、それでいて嬉しい。

 だってこれって私が死ぬこと以外に何か関心があるってことでしょ? それを人間は、生きてるって言うから…。


 「あの…、私ね。貴方と仲良くしたいと思ったの。同じ皇女になった者同士っ、家族になったてことでしょう? 一応年齢的には私のほうが一つ年上だから、お姉様って呼んでほしいの。勿論私もアルティナって呼びた」

 「却下よ。馴れ馴れしく人の名前を呼ばないで頂戴? お・姉・様」


 年下だなんて、これでも前世含めたらおじさんの年齢以上になる私にそれを言ってしまえば元も子もないだろう。それに普通に考えて下の名前を大して仲も良くないつい最近系譜を連ねただけの人間に呼ばせるつもりは毛頭ない。


 まぁ私も私で皮肉ってお姉様と言ってしまったけど、ちゃんと意味は伝わってるわよね?


 確認の為エルネの顔を見てみると思わず笑ってしまいそうなほど嫌な顔をしていた。そう、あれだ。まるで小さな子供が自分の価値観が合わず嫌いになった人間に見せる、なんとも単調な表情だった。


 「まぁ、お姉様。表情管理がなってなくてよ。あ、確か皇室入りする前は貧困街スラムで暮らしていたんですっけ。それは何とも、()()()()()()ですこと」


 嘲笑を含んだ小さな笑いで相手の気分を逆撫ですれば、エルネはグッ…とグラスを握る力に手が入った。なんだ、グラスの中身をぶちまけてしまえばもっと面白くなったのに。流石にそこまでの度胸はない、か。


 冷静にエルネの様子を分析しながらあんまり虐めすぎてはこれからの楽しみもなくなってしまうと私からこれ以上何も言うことはなくエルネも気概を失ったのか最初のときとは随分暗い表情で席を離れていった。


 「…お疲れではありませんか?」


 エルネが去って数分。会場の動きを見つめるのにも飽きてきたときに後ろに護衛するユス卿から声がかかってきた。私は椅子にもたれてるからずっと立って護衛してるユス卿の方が疲れてるとは思うんだけど、ユス卿に限ってそれはないか…。


 それにしてもおじさんの様子を見てみると私には大人しくしておけと言っておいた割には随分絶好調で悪徳貴族達を威圧して一人で楽しんでるのはズルい。む〜、ユス卿さえいなければ…と全く悪くないユス卿にまで責任転嫁が来てしまった。


 もうこうなったらユス卿をちょっと虐めるぐらい別にいいよね。だって私置いてけぼりだし!


 「あら、お気遣いありがとう。でも全然よ。ユス卿が監視しているせいで思い切り遊ぶことができないんですもの」

 「陛下からの勅令ですので」


 全く持って融通どころか機械のようなユス卿にちょっぴり悪戯でもしたくなってきた。ここまで皮肉が通じないとなるともう実力行使で行くしかないよね!


 「ねぇ、ユス卿って踊れたかしら?」

 「嗜み程度には…」

 「ふ〜ん、じゃあ踊ろっか」

 「は……?」

 「ほら、行こっ?」


 わざわざユス卿の手を引っ張ってパーティー会場の中心ホールへと歩く。丁度次の曲に変わるまでに位置に付けたのは良かった。

 専属騎士の服装は一般の警備兵とは異なるし一見正服にも映るからあんまり違和感はないだろうし、問題は本人のダンス技術だろう。


 自慢をすれば私のダンス技術は中々のものだと自負している。

 何事も完璧を叩き込まれてきた聖女教育は主賓とのダンスを踊れるだけの技術を欠かすことがなかった。中にはダンスの名国ともされる南の諸外国の相手だって一度や二度ではないのだ。


 次に流れる曲は振りの数は少なくとも体力技術共に繊細さを必要とする難易度高めなもの。だからホールに踊る準備をしているペアの数は先程の曲と比べて半分以上減った分人の目はよく集る。残った人達はそれなりに通な人達で有名だろうから、必然的にミスがあればいつも以上に目立つ。


 「殿下、私はダンスをしたことがありませんが」

 「でも見たことぐらいはあるでしょう? 大丈夫、私が教えるから貴方は私に合わせて」

 「…殿下に恥をか欠せることになってしまうかもしれません」

 「平気よ。その時は私を嘲笑った貴族の首を皆刎ねてしまえばいいだけだもの」

 「なるほど…。承知いたしました」


 わぁ…、そこだけ一切躊躇がないわね。やっぱりどうにも忠犬属性の強いユス卿だけどまたそこが何とも可愛く見えて仕方がないのだから私も結構な親バカだろう。


 「この曲はある程度繰り返しでテンポも一定だけど恐ろしく速いのが特徴。それだけ相手との呼吸合わせやリズムが重要になってくる。ほら、始まるわよ」


 演奏者達による音楽が流れアップテンポから入ってくる。それから徐々にバイオリンが音を重ね、速さは増して踊る者達の体力を奪っていくのだ。

 私は今日おじさんから身体強化の魔法を掛けてもらってるから平気だけどそれでもユス卿に教えながら合わせるだけで手一杯だ。肝心なユス卿はと言うと…、


 「ステップ、ターン、ターン…。そう、ホント呑み込みが速いわね」

 「殿下のご教授の賜物です」

 「私ほぼ指示してるだけなんだけど、これは煽られてるのかしら?」

 「???」

 「はぁ…、そもそもユス卿にこんなこと言うほうが馬鹿だったわね」

 「殿下は馬鹿ではありません」


 グイッ…といきなり強く引っ張られて顔の距離が近くなる。

 普段一定の距離を取っているユス卿の顔をこんなにも間近に見たのは初めて思わずマジマジと見つめると恥ずかしくなったのかユス卿の目線が私から逸れた。


 あはっ。思春期の男子みたいに柄にもなく照れちゃって可愛いの。

 出会った当初は凄く大人びて見えたけどこうして見ると私とそこまで年の差は感じられない。むしろこの女性の扱いなさから見れば年下…、っと、流石に可愛そうだったかな…?


 「ねぇ、どうして目を逸らしたの?」

 「申し訳ございません。主との距離を見誤ってしまいました」


 曲が続く中で私達は踊りながら会話を続けていた。と言ってもユス卿から返ってくるのは何の面白みもない事務的な会話だけでさっきみたいなことはしなくなったけど…。


 「ユス卿は、特別な人を作らないの?」

 「私にとっての全ては殿下と皇帝陛下です。それ以上も以下も存在いたしません」

 「…全く朴訥ぼくとつをそのままにしたみたいな性格よね」

 「朴訥…」


 前世の言葉で馴染みがないのか暫く悩んでいたみたいだけど、その顔さえ真面目過ぎて面白かった。曲が終わると一斉に拍手が湧き起こる。最初に見た数よりホールに残ったペアが少ないってことは途中離脱も結構あったのかな?


 その拍手をする貴族の中に一人、一際私の目を引く存在がいた。

 こんなに大勢いる中でも一瞬で分かった。この眩い光の世界で、貴方の色は一番温かくて優しいから…。


 気づいた瞬間に彼のもとまで一気に駆け寄って、それこそ尻尾があればブンブンと振り回していたであろうはしゃぎ様だった。

 

 「陛下。待っててくれていたんですか?」

 「あぁ。見事なダンスだった。娘の新たな才能を見せつけられたよ」

 「あらあら。それは嬉しいお言葉ですこと。ですが先程の陛下のダンスを拝見する限りまだ未熟さが目立つばかりですわ」


 そう口では言いつつもおじさんに褒められて内心有頂天に舞い上がっているのでご機嫌MAXである。

 さっきからにやけて止まらない口角を戻すので必死だというのにこれ以上褒められては役を演じるのに支障をきたすレベルである。


 するとそこに私達の空間に水を指すわけでもなく自然と馴染みこむかのごとく近づいてくる一人の人間の存在に気付いた。

 不思議なのは彼が帝国人と似通った顔立ちであるというのに彼の来ている衣服は全く似か寄らない異国の特徴的なものであるということ。


 「お二人の仲睦まじやかなお時間に水を指してしまい申し訳ございません。ですがどうかそのお話し合いの中に私も入れてもらえないでしょうか」


 流暢とは言えないものの確かな帝国語を気兼ねなく話す男の正体に嫌な気でもしていたならば、この時私のあてにもならない直感が冴え渡っていたのであれば、これから起こるであろう()()も免れることができたのだろうか。


 そんな風に未来の自分が絶望的な後悔を呟くことも知らずに、この瞬間に私達の運命を捻じ曲げるであろう存在との対面を果たしたのだ。



 アルティナは結構な策士?なので冷静に状況を客観視しながら食べれる美味しいところは全部持って行く派です。なので言葉遣いの変化なども一種のキャラ付けですね。


 さぁ、新しく登場した新キャラは一体どのような役割を果たすのでしょうか。

 その真相はだいぶ遅れての判明にはなりますが超重要なキーパーソンではあるのでお是非お楽しみに!


 ※ 朴訥…飾り気がなく無口なこと。素直で素朴なこと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ