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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第六章 天性の魔性
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悪女 VS 悪役令嬢

 「帝国の太陽、皇帝カフス・フォン・ラグナロク陛下、並びに帝国の星であらせられます第三皇女アルティナ・フォン・ラグナロク殿下のご入場です!」


 NameCallmanネーム・コールマンの張り上げた声とともに扉が開かれた瞬間に感じる、強烈な好奇と疑惑の目。

 おじさんが目線で大丈夫かと聞いてきたけどむしろ懐かしさを覚えて高揚するまである。その様子を見て察してくれたおじさんんは呆然とする貴族の前で私を丁寧に座席までエスコートする。


 その慣れた手つきと言ったら疑惑を疑う程だったけどもとの才能って言ったらもうそれ以上何も言えないよね。だっておじさんだし。


 まだ口をはくはくとさせたり表情管理の追いついていない貴族達に向かってにこりと微笑む。すると可笑しい程に慌てだす者も多数、動揺を感じさせないのはおそらく高位貴族として教育されたものだろう。


 ひとまず最初の印象はこんな感じでいいかな?

 どうせ皆登場のときに目を奪われて関心は持ってるはずだし、後は適当に粉を撒いておくだけだから楽々〜。ふんふふ〜ん♪


 「………〜〜〜を以て帝国の繁栄が約束された時代にそなた達のより強固な活躍を願う。以上だ。これより建国パーティーの開会を宣言する。皆各々楽しむが良い」


 私が暇つぶしに遊んでいる間におじさんはさっさと建国を祝う口上を述べて乾杯を終えた。いやいや、…ちょっと待って。普通もっと長いよね? めちゃくちゃ一分にも満たない時間だったよ!?


 本来なら有り得ないことだがこの暴挙ももう貴族らは慣れきっているのかスルー。おぉう…、なんか暴君に振り回される臣下ってみんなこんな感じなんだね。

 ちょっとした同情を禁じ得ないおじさんの暴君っぷりだったけどそういうお茶目なとこも可愛いんだから仕方ないよね。うん…。


 早速遠い目をし始めた私とは対象的に皆が乾杯を済ませたことでようやく皇室楽団による音楽がホールに流れる。こういうパーティーの最初のダンスは一番身分の高いペアっていうのが相場だけど今回はどうなるんだろう?


 序列で言えば皇族の誰かってことになるんだけど、おじさんはダンス踊らないって有名だしなぁ。おじさんが嫌なものを私が無理にしたくはないからそうなれば必然的にエルネ達のペアに…、


 「踊らないのか…? アルティナ」


 …ん? あ、あれ…? 

 パチクリと瞼をもう一度開けても私の目の前には明らかにダンスを誘っているであろうおじさんの手が伸ばされている。


 その視界の端でファーストダンスに向けて動こうとしていたエルネ達も鳩が豆鉄砲食らったような顔してるし…。いや、分かるよ? だっておじさんが当然この中で序列一番なんだからなんで行かないんだ?っていう顔も分かる。

 

 でも、でもさっ!? おじさんダンス好きじゃないって言ったじゃん! 去年当然のようにあの二人に任せてたの一応情報として知ってるよ!

 だから皆『はっ!?』て顔してるんだよ!? も〜ッ゙、この無表情破天荒我儘っ子…。


 「謹んでお受けいたしますわ。陛下」

 

 内心のツッコミを何とか覆い隠した優雅な笑みで差し出された手を取りヒールが躓かないように注意して階段を降りる。何気にヒールを履くのも今世で初なので若干のぐらつきに慣れないな。


 私達がホールの真ん中に着くと互いが礼を取って止まっていた音楽が始まる。

 私は元から教養として習っていたのとユディットの徹底教育によって見るには耐えるものに仕上がってると思うけど、やっぱりおじさんは別次元にいるのだろう。


 私の姿勢が不安定になると自然に支えてくれたりターンがしやすいようにサポートに徹してくれる割に振りは完璧よりも完璧でぶっちゃけこれはどれだけ相手が良くてもおじさんには見劣りすると思う。

 

 緩やかなテンポで流れる幻想的な名曲は私達二人だけを残してまるで世界が止まっているように、周囲を見渡しても不思議なくらい誰も微動だにせず私達を見つめている。

 

 今の私に感じているのは胸が踊るような高揚感か、それとも蜃気楼のような幸せの香りか。

 少なくともあの冷たい檻の夜とは隔絶した世界に身を置く安らぎには違いがないと笑った。まるで昔々に憧れた童話の中のお姫様みたいに誰よりも美しく光り輝いて…。



 …〜♪、♪♬♬♫

 

 無事一曲目のダンスを私達が踊り終えたらまた演奏が始まり、皆続々とペアを組んで並び始める。

 おじさんは事前に話し合った計画通りに席に戻り、残った私は一人でグラスを持って高位貴族の集まる場所へ向かって歩いていく。


 さてさてどうやって喧嘩を吹っ掛けようかな〜。一部頭の悪いやからのような考えでウロチョロしていたら何もしなくても視線が集まるのを感じる。

 品定めをするような、身体中針で突いてまで欠点を粗探しするようなそんな下賤な目。


 この気持ち悪いぐらいに集まった視線の中で前の私 (シルティナ)はずっとお人形みたいに微笑んでいた。可愛くて大人しい、誰からも愛される綺麗なお人形さんを徹底して演じていた。それが全てだという絶対的な強迫観念を拭うことなど、あのときの私では到底不可能だったから。


 …でももうそんな役は演じなくていいの。私を縛っていた鎖は、全部おじさんが振りほどいてくれたから。私の仮面は全部おじさんが壊してくれたから。


 今も先程のおじさんとのダンスを思い出すだけでにやけてしまう顔を何とか保って案外簡単に今回の目的の一つとも言える標的を見つけることができた。

 彼女もまた、私を見つめている。この会場内においてそれはさして珍しいことではない。ただ彼女が他の人間と一つ違うのは、それが疑心の織り交ざった強い警戒の瞳であるということだけ…。


 「初めまして。貴方がエディス・テナ・グラニッツ公爵令嬢かしら?」

 「…帝国の星、第三皇女殿下にご挨拶申し上げます。ご存知いただけて御光栄にございます」

 「あら? 第三皇女殿下なんてやめて頂戴よ。アルティナでいいわ。結構気に入ってるのよ、この名前」


 エディスの態度を見る限り少なくとも友好的じゃないことだけは分かる。

 それでも互いに社交辞令程度の会話は息をするよりも早くできてしまうのは長年において染み付いた習慣みたいなものだろう。


 だけどどれだけ会話を交わそうと決して歩み寄る姿勢が一抹とも見られないのならそんなものするだけ無駄というものだ。

 どんなに気安く接しようと瞳の奥に光る警戒の色が消える予兆もないのだから懐柔は当初の予定通りないな〜…。


 一応エルネの友達みたいだし突然現れた私に警戒を持つのは当然なんだろうけど…。違うんだよね? エディス。貴方が私をそんなに警戒する理由はそんな稚拙なものじゃない。


 乙女ゲームでは存在するはずのない「()」が現れた。決してあり得るはずのないErrorに貴方はわざわざ情報ギルドまで動かして調べ上げようとしたみたいだけどそれも全部ユス卿が処理してくれたから情報はなかったはず。


 ねぇ、エディス。もう既に原作を逸脱したことも知らないで貴方はまだ固執し続けるのね。とっくに原型の崩れた「乙女ゲーム」という世界を、どうして貴方は守りたいの?


 エルネの為? ヒロインが愛される世界を、悪役が破滅する未来の為?


 一度貴方を殺しかけた分際で何を言っても情状酌量の余地にはならないんだろうけど、私は少しだけ貴方を哀れに思うの。

 それだけ満たされて、あれだけ愛されていて、それでも不安を感じてしまう貴方に同情するの。不幸を知らないから幸せを感じられない貴方に…。


 「アルティナ殿下はどういった経緯で陛下とお知り合いになられたのですか?」

 「…あら? 何故それを貴方如きに話さなければならないのかしら? おかしいわねぇ、陛下の私事を公爵令嬢如きが聞くなんて」

 「ぁ…っ、申し訳ございません。失言しました」

 

 エディスが慌てて頭を下げたことでより一層私の評判は落ちただろう。中々にいい感じだ。

 それにしてもまだ前世の生易しすぎる性格が抜けてないなんて、よくここまで貴族として生き残れたものだ。こんな簡単に頭を下げれば自分に非があると認めたも同然なのにそれさえ分からないなんて…。


 「次はないわよ。今後は言葉に気を付けて話しなさいな」

 「…はい。申し訳ございません」

 「第三皇女殿下、これ以上私の婚約者を虐めるのはやめていただけますか?」


 失望に近い無価値のモノに向ける言葉を送っているのに間に割り込んできた男は、確かエディスの婚約者だっけ?

 にこりと微笑んではいるけど目は笑っていない。それどころか此方への牽制と敵意に満ち溢れてる。婚約者を公の場で理不尽に辱めたことへの対応としては完璧なんだろうけど、こっちとしては良い火付け役なんだよな〜…。


 「あら、貴方誰かしら? ごめんなさいね、私どうでもいい人の名前なんて覚えていないの。それで、皇女の話を遮った貴方は一体誰かしら?」

 「あぁ…、ご挨拶が申し遅れました。大公家当主ミシェル・ラド・ヴェルノースです。しかしやはり、有力貴族の名前すら覚えて置かれないとは、皇女殿下にはまだまだお勉強が必要なようですね。それとも、派手に着飾ることしか脳がないのですか?」


 流石、エディス以外には容赦がない男だ。完全に嘲笑うかのような私へのこの態度も大公家の当主という立場だからこそできるのだろう。ていうかもはや遠回しとも言えないド直球の皮肉である。

 別にこれでこの男にすり寄ってもいいんだけどそれは私が嫌だからしない。おじさんも嫌がってたし。しなくてもいいことはわざわざする必要はないしね。


 始めは私が優勢に始まったこの勝負も今ではこの男の登場で完全に逆転され周囲は好奇の目で固まっている。これで私がたじろいで逃げていく姿を見たいんだろうけど、残念。貴方達は私の計画の一部になってもらう計画なの。


 男は私がわなわなと怒りに震える姿を次に想像したのに全くその様子もなく終始冷ややかであることから違和感を持ったのだろう。何か私に問いかけようと口を開いた瞬間、周囲が一気にざわついた。

 目に見えて道を開ける貴族達に、彼はその扱いを当然のように悠々と私達の元まで歩みを進める。


 …全く、文句のつけようもないぐらい素晴らしいタイミングだよ。おじさん。



 アルティナは元々聖女として広く外交を勤めていたのでエディスのことで分かる通り社交場でのこととなると一層他者に対して厳しくなる節があります。

 

 しかしその例外として皇帝があげられており理由としてはそもそも社交の必要性がない人に上手いも下手もないそうです。確かに何事も全て一人で解決できるほぼほぼ人間離れしている皇帝に人付き合いとかは…、ねぇ。ないわー(笑)。


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