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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第五章 新たな生
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聖女と皇族騎士

 ・【ユス卿】視点です。

 聖女様との出会いから数日。まず最初に今まで上手く隠蔽していた実力を対外的に広めた。


 具体的には陣列を組んで取り組んで掛かる魔物の討伐を単騎でこなし、自らを激戦地への配属へと変え戦果を上げるなど少なからずこの功績が上層部の人間にも伝わるように暴れたと言えば分かりやすいだろう。


 そして思惑通り配属を変えて一月も経たない内に皇室騎士団長ヘルメス・ディ・レグナント卿直々に皇室騎士第一団への引き抜きが行われた。


 軽い会話と一騎打ちの試合で決まった異動だったが、やはりと言うべきか代々皇室騎士団として剣を司る家紋である団長は化け物じみた強さだった。

 

 たぶん、今まで自分が戦ってきた中で一番強い人間だ。

 だけど勝てないかと言われるとそうでもなく、手段を選ばず訓練場を瓦解に化していいのであれば相打ちぐらいには持っていけたかもしれないという強さだった。


 一度きりの剣のやり合いで意外にも気に入られたのか時間が空いているときはそれからも相手をしてもらったが、徐々に打ち込める回数は増えていき三ヶ月程で最低五分は持つようになっただけでも前進だろう。


 それと任務をこなす上で名誉叙爵を受け【ラグナス】という性とともに小さな領地を貰ったが特に管理できる暇も能力もなかったので傭兵団の頃のツテを使って適当な人間に経営させている。


 これを機に貴族社会へ身を乗り出そうなどとは夢にも思わなかったし今はとにかく実績が欲しかった。功績を上げれば上げるほど、聖女様へと近づけるという望みを抱けたから…。


 特段会って何をしようとも思ってはいなかったが、何か彼女に助けが必要なとき支えになれるだけの力があればよかった。


 聖女様にはずっと、幸せでいて欲しいと願ってしまった。身の程知らずも甚だしいが憂いよりも切ないあんな顔はもう二度とさせてしまいたくはない。


 その一心で打ち込んでいた騎士団としての仕事が功を奏したのかあの魔物大騒動スタンピードから約半年後、聖国使節団の護衛騎士として同行することが決まった。


 魔物討伐のような過酷な仕事ではないが護衛対象は国家の要人である為に慎重にならなければならない任務。第一団は貴族出身の人間が多いためこうして護衛の任務はしばしばあったが自分に回ってきたことは初めてだった。


 仮にも傭兵団出身という経歴に傷がある私生児、とっくに調べ上げられた情報だろうがこれだけでも騎士団の中では腫れ物のような扱いを受けていたのだ。

 一体どういう思惑かとそれとなく団長との模擬試合中に探りを入れてみた所単純な人手不足だったらしい。


 帝国の威信ということもあって聖国から大神官が使節官として赴いた以上此方もそれと同等の対応をしなければならないが本来護衛任務に当たるはずの騎士が他の任務で重なった為消去法で選ばれたんだという。


 そんな理由であるのなら納得せざるを得なかったが、内心は浮足立っていたのかもしれない。

 もう時間も早いことであれから半年が経った。その間に一度もお目に掛かることのなかった聖女様にもしかしたらという淡い期待があったのだろうか。


 まさか、あんな形での再会になるとは思いもせずに…。








 


 ######


 聖国に着くと護衛を請け負っていた要人はすぐに教皇閣下との対談に入り、機密裏のものであるため一部の護衛以外は適当に神殿内で時間を潰していいとのこと。


 騎士団の中で団長に次ぐ実力を持っていたとしても経歴としてはまだ新人の自分には当然信頼なんてものは薄い。

 

 よって思わぬ自由時間が与えられた為神殿内を散策することにした。他の騎士達は聖騎士らとの親睦を深めたり剣を混じ合わせているがそんなものに興味はない。


 身内とも言える自団の交流ですらまともに行えていないというのに神殿の騎士と仲を取り持とうとしたところで一瞬のものになるだろう。それならば偶然聖女様を見掛けるという微かな望みに賭けた方がずっといい。


 小一時間ほど神殿内部を歩くと大体の構造が把握できてきた。

 地図などと情報の起源になるものは勿論ないため自力で情報を集めるしかなかったが中々に神殿自体が巧妙な作りになっており僅かに不自然な空間が存在することからある程度の隠し通路などは予測できる。


 コレがいつ役に立つかは定かではないが、何事も情報から始まることは重々理解しているので知識として持っておく分には申し分ないだろう。


 結局聖女様の影も気配も感じ取ることはできなかった為にもうそろそろ戻ろうかと考えていたそのときだった。微かに聞こえた、悲鳴のような言葉にもならない声。


 まだ幼い子どものものだろうか。空気の波として伝わるその声は耳を済ますごとに酷くなっていった。そしてその声を、自分はよく知っている。

 過去に見慣れたものとはいえ、神殿内では絶対に犯してはならない戒律に背くであろう行為だ。特に、聖女様が管轄とする本神殿では…。


 素知らぬ振りをして神殿との衝突を避けるのはこの場で最も最善の方法だと頭では理解していても、ふと足が止まった理由を探すのにそう時間は掛からなかった。


 声のする方へ近づけば近づくほど、より鈍い悲痛な叫びが広がる。


 だが不思議なことにその声に含まれるものは抵抗など一つとしてない、【服従】だった。

 その一般的行為でないであろう()()として助けを乞う声など一抹たりとも聞こえては来ない。


 一体どれだけの年月を飼い慣らされてきたのか、聖女様の住まう崇高な神殿に巣食ったうみが存在すること自体不快に思えた。


 「ぅぁぁぁぁぁ゛。yだぁ…ぁぁっ、xt」


 扉にノックを鳴らす直前、ようやく聞こえた微かな抵抗の声。

 ただひたすらに身をよじるような、自分を害するこの世界全てを拒絶するかのようなそんな小さく弱い悲鳴…。



 コンコン…


 数回ノックを鳴らしても返事はない。しかしめっきりと消えた中の音が返事のようなものだろう。

 出方を伺っているのか扉が開くことはなくともまだ微弱ながら震える息遣いが聞こえる。おそらく騒がないように何らかの脅しを受けているのか。


 「…誰だ」

 「帝国騎士第一団所属、ユス・ラグナスです。聖女様と面会の約束を昼刻からしていたのですが、此方にいらっしゃますでしょうか」


 …子供の声。しかし今の声の主ともう一人以外に他に誰かいる気配もない。

 予想外のことに多少驚きはしたがそれもスラムではあまり珍しくないことだ。ひとまずは強引にでもこの扉を開け中の状況を確認することが優先だろう。


 またしばらく沈黙が続く。

 神殿の内情はあまりよく知らないが、貴族の次男等がよく上級神官として迎え入れられることはある。すると考えられるのは排他主義的な貴族と孤児出身の下級神官辺りか。


 「此処に聖女様はいらっしゃらない」

 「…ですが、とある神官から此方に入っていらっしゃったと報告があります」


 所属を明かしてもこの対応ならまず中級神官以上の身分であることは確かだろう。

 それにしてもこの落ち着き様、もしかすると厄介な立場の人間かもしれないが一度手を出してしまった問題をそう簡単に捨てることもできない。


 ひとまず強引に押し入る理由として聖女様の名を使わせてもらう他がない。教皇閣下は今現在対談中であり神殿内であとに引けを取らない身分の人間と言えば聖女様以外存在しないのだから。


 「…私が用件を聞こう」

 「申し訳ありません。帝国に関する機密情報ですので、一刻も早く聖女様へのご拝謁を願います」

 「後にしろ。此方の用件が先だ」


 聖女様の代打を名乗れるだけの人物。これはもう面倒事が確定案件だったが、どうやら相手も余裕が削れていっている。まだ隙はあるようだ。


 「では、一度部屋に入室してもよろしいでしょうか。最初に約束を取り付けたのは此方です。それとも、帝国を軽んじていらっしゃるのでしょうか」

 「………少し待て」


 長い沈黙の後、此方へ放たれていた殺気が鳴りを潜めた。まるで不自然な程に…。するとやはり中で何か行われているのだろう。また不快な気配が漂ってくる。



 ガチャ…、キィィ


 そして暫くして扉が開いた直後、自分が見た光景を今でも自分は信じられるだろうか。口からでまかせで吐いた言葉が、現実となるようなことなんて…。


 「…、…お久しぶりです。卿」


 先ほどの悲鳴の持ち主でも、返事を返した声の持ち主とも違う。となれば聖女様は勿論存在するはずのなかった第三者となる。しかしそんなことが有り得るだろうか…。


 「お久しぶりです、聖女様。ところで、先程の声の御方は」

 「…彼は他の仕事があると言って、まだ部屋にいるそうです」


 聖女様が嘘を吐いていることはすぐに分かった。もうこの部屋の中に他の人間の気配はしない。すでに隠し通路か何かで身を隠した後だろう。


 だが聖女様が何故そのような人間を庇うのか、その理由が未だ分からない。

 当然自分如きがその至高な考えを理解できるとも思っていないが、それでも神殿に不利益と為るような存在をのさばらせるような御方でもないはずだ。


 そしてもう一つ。この部屋にもう誰もいないとしたら、あの悲鳴の持ち主は誰だったのか。

 聖女様がわざわざ助ける価値がないと見越した者であるのなら分かるが、もし他に何か決して他言できない理由があるのだとしたら…。


 「そうですか。…では、早速応接間に案内して貰えますでしょうか?」

 「勿論です。お約束の時間から大幅に遅れてしまい申し訳ありません」


 約束など端からないというのに即興で合わせられるあたり聖女様は年相応以上に頭の回転が良い。

 そう思う一方で、まるで一刻も早く自分をこの場から遠ざけようとしているようにも見えたのは考えすぎか…。


 聖女様の案内についていく中で、恐れを滲ませた心臓の鼓動が耳に強く聞こえる。あの小川のように凪いでいた鼓動が嘘のように、濁流に近い高鳴りだ。


 驚き、困惑、戸惑い。…いや、疑心なのか。何が理由なのか定かに知ることはできずとも、聖女様が自分に決して好意的でないのは確かだろう。


 一体何が聖女様をこのような状態になるまで陥れさせたのか。

 その答えは自分が考えうる限り最も最悪な形として返ってくることになろうとはこの時はまだ知らずに、静寂の中に聖女様の吐息だけが妙にハッキリと聞こえた。



 ちなみに聖騎士と交流しないのは自団で既に敬遠されている上にある程度の実力を認識し相手になる人間がいないと悟ったからです。


 一応戦闘狂の部類では在るので互角程度の人間がいれば手合わせをしていました。

 しかし残念、そんな有能な人材は全てオルカの下へ流れているので結果的に聖騎士は残り物の詰め合わせみたいなものです。

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