表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第五章 新たな生
137/175

独学の魔法


 「最近妙に仲良くないか…?」

 「……?」

 

 唐突に投げられた問にもぐもぐとおじさんの隣でおやつを頬張っていた私の手がピタリと止まる。


 何を言っているかと思えばおじさんは私の横でお茶を注いでいるユディットに視線を向けたのでなんとなく理解した。


 ん〜…、でもそうかな? 別に普通だと思うけど。たまに私から近寄ることはあれどさして喋ることもなければまだ私声出ないし。


 頑張れば声を出すこともできるけど存外喋らなくても不自由にしないので努力する気は毛頭ない。必要になればやろうと思うぐらい。


 そんな私も最近はちゃんとできる子になってきてたまに部屋で神術や魔法の練習をしている。別に暇を持て余したとかじゃないからね。


 治癒や支援系統はもう身体が覚えてるのか【封印】の聖遺物でずっと使ってなくてもすぐにできたから面白みと言えばあんまりない。


 魔法は神殿で【聖女】に就任してから一回も使ってないから感覚ほぼないけど。魔力放出するだけならエディスを殺そうとした時にやったけどあれは魔法の分類には大雑把にも入らないやつだから。


 そう言えばあのオルカが刻んだ刻印もいつの間にか痕が消えていた。数日経っても催淫状態にならないのを不思議に思ってたら消えてたんだよね〜。

 もしかしたら【封印】の聖遺物を壊す際にその余波で消えたのかもって言うのが私の楽観的な結論。それ以外だったらろくでもないから考えたくないし。


 それに最近はおじさん忙しいみたいで来る日数も減ったしその分ユディットに構うのは仕方のないことだ。魔法なら教えてくれるし本人のセンスも抜群で懐いちゃったんだもん。


 神術と魔法で何が違うかと言えばやっぱり属性だろう。神術は主に治癒で魔法は攻撃型の種類が多い。他はそこまで違いはないと思う。


 魔法で治療するのは結構治り方がグロいんだよね。神術が自然治癒の究極的促成だとすれば魔法はほぼ怪我をした箇所を生やして埋めてるようなものだから見た目にもよると思う。


 ゲーム感覚で言えば光属性と闇属性?みたいなもの。光属性の方が神聖ってイメージだけど実際生活の基盤になってるのはどの国も聖国を除いて魔法に他ならない。


 割合的にはやっぱり魔力を持つ人口の方が圧倒的に多いしだからこそ神力を持つ人間は神殿に帰属させられるからね。


 でも魔力だって誰でもが持ってるわけじゃない。ほとんどが貴族だしそれは血統的に明らかに有利だからだよね。魔力を維持するために何代にも渡って政略結婚なんかで繋いできただろうから。


 たまに私やオルカみたいな血統関係ない孤児でも発現することはあるけど、それは本当に稀なケースだ。前代の聖女は確か大神官の身内だったって言うし、孤児が聖女になるケースは過去に1、2度程しかない。


 だから就任当初は何かとイチャもん付けられたな〜…。今となっては可愛いものだけど、見ない内に何人かは姿消してたらかたぶん裏で処理したんだなっては思う。


 表向きとはいえ慈愛の神を祀る神殿の内部は腐りきってるっていう最大の皮肉だよね。あの場所で行われてることこそ禁忌でしょ。


 「お嬢様、魔力が乱れてますよ」


 おっとっと、いけないいけない。今はユディットと魔法の練習してるんだった。またあの忌まわしい記憶に引っ張られて膨れ上がってしまった魔力をゆっくりと奥に押し込んでいく。


 ふとしたときに外に出てくるから気を遣うんだよね。魔力量は確かに大事だけどあんまり持ってても使いようがない時は結構面倒くさい。


 ド派手にパァッと使っちゃえば楽なんだけど後を考えるとそういう訳にもいかない。だって丸腰になるようなものだもん。


 たとえ神術や魔法を使わなかったとしても媒介を通さずそのまま力をぶつけても一応攻撃にはなるしね。でもそれは私みたいなチートみたいな神力と魔力量を持つ人間だけ。


 一般的な魔道士とかはそんなの絶対にやらない。一発で空になっちゃうもん。言わば一万円で一円を買うぐらいの勿体なさって考えれば分かりやすいかも。


 前にユディットに魔法を習う時素養で何処までできるかテストしたことがあったけど、あの時魔力放出だけやったら馬鹿みたいに怒られた。


 そんな命を粗末にするようなことするなって。魔道士にとって魔力は替えの効かないものだから魔力が底を尽きた時点で命を失うと同義語だ。


 でもだからって怒ることはないと思う。その日は一日中すねてへそ曲げたし口も聞いてやらなかった。まぁもともと聞いてはなかったんだけど。


 「そうです。そこから右手の手のひらにも魔力を集めて」


 今は何をしているかと言うと二重魔法を習ってる。高位魔道士でも一握りしかできないというものだけどそれは単純に魔力量とセンスの差だ。


 左で火炎の魔法を創って右では水槍の魔法を創る。具体化したイメージと集中力さえあれば圧倒言う間にできてしまう自分の才能が恐ろしいわ。


 「素晴らしいです。凡人は魔力回路の複雑化や術式の崩壊などで失敗しますがお嬢様に限ってそのようなことは有り得ませんね。本当に至高の主に仕えることができて至上の歓びにございます」


 重い重い。普段は非の打ち所のない完璧な侍女なのにたまに壊れるから分かんないんだよなぁ。それに盲目的過ぎるその忠誠心がどこから来てるのかも気になるし…。


 いつもにこにこ笑顔だけどきゃいきゃいと喜ぶ姿はこれはまたギャップ萌えというか何と言うか…、可愛さの前にはどんな疑いだって小さなものだ。


 魔法の訓練を始めてから四日。神力回路と魔力回路が別だからまずは錆びた魔力回路を潤滑に回すことから始まった。


 高密度の魔力を全身に巡らせて、身体の熱を高めていく。何回か詰まったこともあったけど最終的には成功したから後は魔法を本格的にユディットから習うだけだった。


 ひとまずは日常魔法と護身用の簡易的な魔法。それを一日で学び終えれば高出力の魔力を最小の負担で扱う術式の説明と組み立て。これを応用してからの実践。


 魔力量はあれど体力がからっきしな私は身体に負担が掛からないように毎日一時間の訓練だったけど、それでも飛躍的に強くなったと思う。


 死角からの攻撃でもオートで防御できるようになったし、魔力網という独自の魔法(?)も創った。

 これは魔力を極小の糸にしてそれを編み込んで強度を引き上げ攻撃防御どちらも可能な万能型タイプの魔法で、実質私以外再現不可能という特異性を持つ。


 だって魔力を具現化すること自体が阿呆みたいな魔力量を消費するしそれを形状化して操るとなると凄まじいほどの集中力と制御能力が求められる。


 下手をすればそのまま形を保てなくなった魔力が辺り一面に散らばって霧散するか最悪魔力爆発でも起こしてしまう。常人の考えを持っていれば挑戦どころか発想すらない未開発の魔法。


 でもそれだけ利便性や有用性においては他に勝るものはない。長々とした詠唱や術式はいらないし魔力網で結界を作れば無効化されたり壊れたりする可能性なんて0だ。


 攻撃となれば変動的な動きも勿論できるし魔力自体に酸の属性を付け足せばより攻撃力は跳ね上がる。

 魔法無効や物理攻撃無効の結界でもその結界を維持するための魔力を無効にするためにはいかないから魔力網は入れて実質無敵!


 消費する魔力だって私の魔力保持量からしたら広大な海から小さな池ぐらいの水と取り出すようなもんだしね。私は大金をはたいて小さな飴一つを買うリッチなんですよ。


 おじさんに渾身の魔法を見せたら凄い褒めてくれたし、たくさんアドバイスも貰えたから今日は更に改良してみようかな。


 まずは編み込み方の改良でもっと緻密に素早く、それと効果で相手の魔法の術式を喰らう性能も追加することができれば最高なんだけど…。


 それをするには圧倒的な知識の実践不足なんだよねー。

 無理やり喰らえば術式が不完全なまま留まって暴発する危険性もあるし咄嗟の判断で僅か数秒で繰り出される魔法に対処することなんてほぼ不可能だ。


 これが今後の課題として残るとして、防御面では言う事無しなんだけど攻撃に切り替える時がまだ難しい気がする。


 やっぱり慣れもあるんだけど攻撃するときに全体的なイメージ像が全くと言って思い浮かばないのだ。

 魔力網で編み込んだ膜を自分の座標を軸とした円状に張り巡らす、これだけで防御は完成する。だけど相手を傷つける、攻撃するというのに魔力網だけではどうもイメージが難しい。


 万能型の魔法も使い手によって千差万別とは言え他にも対策考えなくちゃかなー。

 ぶっちゃけ攻撃するだけなら剣とか弓の方が分かりやすい。前世の記憶を持つ私からしたら超常現象で人が死ぬというのもファンタジー感が強すぎて現実に投射できていないからだ。


 ある程度理解はしてるものの納得できないというかなんというか、先入観が抜けきれていない弊害だろう。


 鋭い刃を向けられれば傷つき、心臓に弓が刺されば死ぬ。そのぐらい単純な方がずっと分かりやすいのに、この世界は選択肢が多すぎて取捨選択に迷う。


 これは保留だなと思いながら今日の訓練は終了する。訓練の後何がいいかって言うとやっぱりおやつタイムなんだよなー。もぐもぐ…、うん、安定の美味しさ。


 そして忘れない内に卵にも力を注いで、日課ともなったお昼寝タイムに突入する。

 8cm前後だった卵はいつの間にか10cmと大きくなってるし、最近は内側から光の点灯でその日の気分を知らせてくれる便利なシステムだ。


 あまりにも順風満々な、何不自由ない望み焦がれた生活。

 誰にも侵されることのない、踏み躙られることのない自由を手にした私は本当に少しだけ、気を緩めていたのかもしれない。


 この身体に染み付いた悍ましい烈火をおざなりにし、今ある幸福に身体を浸して、()()()()を薄れさせていた。


 その代償が何処に行くのかなんて考えることもなく、手に入れた自由に酔いしれるように…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ