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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第五章 新たな生
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愛しい駒鳥

・ 【オルカ視点】です。

 初めて処夜を迎えた日、乾ききっていた心に泉が湧いたかの如く歓喜と愛おしみに溢れた。


 昨晩無理をし過ぎたのか恋人は今もなおすやすやと夢の中に眠っているが、さらり…と手の平ですり抜ける髪の一本でさえ自分の所有印が付いた気がする。


 この時をどんなに待ち望んだことか。夢の中のお姫様は知る由もないだろう。どんなに躾けを施しても、拷問を繰り返しても意志を折らない最高の俺の宝物。


 どこを触れても甘い嬌声を吐き、ナカの締まりを良くするシルティナは天性の淫靡さを持ち合わせている。そしてそれを自覚していないところが何よりの才能だ。


 このまま蜜月を永遠に過ごしていたいが、控えていた部下からの報告に名残惜しくもベッドから起き上がる。


 「ペリオン王国に動きがありました。主軸はラティバン伯爵です」

 「……折角の一時に横槍を入れた愚か者には相応の代償が必要だろうな」


 アルティナ教を主教とした海産物を財源としたペリオン王国。前々から主流貴族の密輸や脱税などの裏は多々あったが、とうとう派手に動き出したか…。


 全く合間の悪い人間だ。もしこれが別時であれば正当な手続きを通して監獄にぶち込みでもしたものの、いずれにせよタイミングが最悪だった。


 些か機嫌が悪く、早朝の報告だったが為にそのまま馬でペリオン王国へ向かう。国二つ挟んだ距離であるため加速の神術を馬に付与すればものの二時間少しで目的の場所に着いた。


 ラティバン伯爵。限りない守銭奴でここ数年影で傭兵団を結成していた。海産物の中でもかなり値の張る岩塩の密輸及び脱税で莫大な財を築いた男。


 国王も頭を悩ませるのがその狸のような尻尾の巻き方だ。

 痕跡を消し、帳簿を偽装することに関して頭の切れるためおおやけに捜査しようと証拠を集めきれず、代々王家に仕える名門貴族であるために強引な手出しもできない。


 まさに目の上のたんこぶ。本来であれば大神官である立場で首を突っ込むようなことではないが、この男がペリオン王国の実質的権力を握るとなると後々面倒事になるのだ。


 大神官の傍ら組織を作る上で必要不可欠となる金。私兵を作ったとして受ける依頼がなければ組織を回せない。そこで取り付けた王室の影としての仕事。


 だがあの男が権力を握れば真っ先に外部となる組織を切るだろう。

 自身の傭兵団で周りを囲い、遂にはアルティナ教を廃する可能性が高い。奴自身熱心な信者でもなければ教典と真っ向を行く拝金主義者だしな。


 頭が切れる、故に緩みきったペリオン王国の諜報が厄介になる。大陸の情勢を知っておくべき為に諜報が困難になるとそれだけで損失はデカい。


 だからなるべく懸念要素を消しておきたいというのが本音だが、あの男は此方の監視に勘づいたのか予想よりも早く行動に移した。


 どうせ殲滅するつもりであることに変わりはないが、気分というのは時に重大な要素だ。そして今の俺は、処夜の翌朝に恋人を放置してこんな片田舎まで来ることとなった元凶によほど苛ついているらしい。


 朝っぱらから伯爵の邸宅へ侵入すると無駄に統率の取れた傭兵連中を嬲り殺して伯爵の待つ寝室へと向かう。一応身バレ防止用にローブを羽織っているが、血が着くごとに脱ぎ捨てたくなる。


 本来であればシルティナと甘く語らう時間を、何故こんな蛆虫共に時間を割かねばならないのか。騒動で目を覚ました伯爵が最期の抵抗か果物ナイフを手に持つがその前に肩を外す。


 とっとと殺してシルティナの元へ帰りたいが、帳簿の置き場所を聞き出さねば一律に処理できない。うめき声か絶叫かが交じった雑音を上げる伯爵にもう片方の肩も外した。


 「帳簿の隠し場所を言え」

 「…ッぁが! その、声は……ッ」


 耳障りな声に続いて耳を削ぎ落とす。シルティナの愛らしい啼き声とは比較するのも烏滸がましい程の金切り声に機嫌は更に低下し顔面を殴打した。


 「御択はいい。お前に不要な箇所は消してやるから五体満足な内にさっさと吐け」

 「ぉが、ッぐぅ…!! だれ、がァアぁあッ」


 どうも吐く気のない伯爵に爪を剥ぎ、指を潰し、身体の関節を全部外してやる。口と舌さえ残しておけばあとは何をしても構わないのだから、苛立ちを解消するための体の良い道具だ。


 腹を切り裂いて内蔵を引きずり出すかと次の工程を考えていた時、これ以上は耐えきれなくなったのか伯爵が泣いて許しを請う。


 全く、抵抗するつもりならその気概の少しでも見せれば良いものを…。

 ここまで呆気ないとむしろ物足りなさすら感じる。シルティナが耐えられたこの過程を四十も過ぎた大の大人が泣き言を上げるとは。


 伯爵の吐いた場所まで髪を掴みそのまま引き摺って行く。情報通り帳簿が見つければ後は丸焦げにでもして焼死体の一つとして片付ければいい。


 残りの証拠隠滅は適当な手駒にやらせ、即刻神殿へと帰還する。この時点で昼を過ぎていただろうか。汗を流し神官の服へと着替え部屋へ戻ると既にシルティナの痕跡は消えていた。


 一体何処へ行ったのか。部下の証言から庭園へと向かう。

 どうも危機感がないのかはだけた薄い服一枚で部屋を出たシルティナに内心腸が煮えくり返りそうだった。


 昨夜あれ程俺のモノだと分からせたつもりだったが、全くと言っていいほど足りなかったらしい。

 確かに処夜の翌朝に傍を離れた自分にも責はあるが、だからと言って学習しないシルティナには煮え湯を飲まされる。


 とにかくシルティナの姿を見た人間は後で全員処理するとして、ようやう見つけたシルティナは声を掛ける間もなくふらりと倒れる寸前だった。


 「随分と軽率な格好をしてるね。シルティナ」

 「………ォ、ルカ」


 床への衝突を免れなかったシルティナを途中で抱き抱える。年齢以上に軽い身体、この身体で昨夜俺を受け入れた事実が堪らなく胸が弾む。


 何故ここにいるのかとでも疑問を言う以前にいつもの覇気を失ったシルティナの様子にまるで俺色に染まったようで気分が良い。


 あれ程尊大に偽っていたシルティナの内側に初めて傷をつけたのだからこの舞い上がるような気分も嘘じゃないだろう。


 しかし、報告にあった通り本当に薄着だな。いつも厚着をしているせいか余計そう見える。俺でも滅多に見ることのない姿を有象無象の人間に見せたと思うと、一度本気で殺したくなってきた。


 「そんな格好を俺以外の奴らが見たなんて、嫉妬で今にも殺しそうだ」


 さて、どうこの機嫌を取ってもらおうか。シルティナの反応を見て決めようと考えていると、思いがけずもシルティナが自ら胸の内に収まった。


 あまりに自然なその行動に、心臓の鼓動が高まる。シルティナにとって何気ない行動でも、俺にとってはシルティナが恋人として受け入れた大きな第一歩だ。


 「………nさむい」


 我儘なお姫様はそのまま胸の内ですり寄りそよそよと眠りに着く。


 困ったことだ。どう機嫌を取ってもらおうか考えていたのに気づけば手玉に取られていたのだから、これが惚れた弱みと言うやつか。


 上機嫌で鼻歌を刻みながら愛する飼い鳥を無事鳥籠へと戻して、その細い足首に一体どんな足輪が映えるだろうかと思考をあぐねるまでそう時間は掛からなかった。















 ######


 シルティナが下手に目移りすることのないよう掛けた刻印が災いした。


 まさか恋人として結ばれてたった七日足らずで友好国リベアの国境戦への要請を受けるとは思わなかったが、どうせあの老いぼれが手を回したのだろう。


 今まで何かと使えると思って生かして置いたがこうも邪魔するとは本格的に排除するのも視野に入れておくか。


 そして俺が国境戦で戦っている間にアイツ等らが好き勝手にし、シルティナを共有する羽目になったのだ。機会さえあれば殺したいのはアイツ等も同じ。所詮は同族嫌悪に過ぎない。


 帝国の件だってそうだ。イアニス・フォン・ラグナロクが勝手にシルティナを唆し、今まで関心を持つことのなかった帝国の建国祭に参加することになった。


 帝国に対してだけ何故か忌避感を覚えていたシルティナがどういう心変わりかいくら駄目だと身体に思い知らせても意志を曲げなかったのだから確実にそこにシルティナの目的があるのだろうと分かった。


 あの男にしか分からないシルティナの弱み。それさえなければ影で消すぐらいなんてことなかった。


 あの馬鹿は裏社会で地位を確立し派閥を抱えるだけに手を出した後にリスクを考え半ば見せかけの相互不可侵を結んでいるが、あの男は斬首に処された先帝の息子。


 ろくな後ろ盾もなければ本人は戦場ばかりで派閥の形成もない。せいぜい駒を動かして静観するだけ。内密に処理してもアルティナ教団への影響は少なく、実質的被害もない。


 だがあの男には俺達でさえ知らないシルティナの弱みを握っていた。どれだけの拷問を施そうと、絶対に口を割らないシルティナが持つ唯一の弱み。


 それが帝国と関係があるならばと自分がパートナーになることを条件に承諾したが、やはり有象無象の視線がシルティナに当てられる様は幾度見ても虫酸が走る。


 出来ることならば生涯閉じ込めておきたいというのに、存在するだけで人間を魅了するシルティナはそれを許さない。


 パリン……ッ


 グラスの割れる音が響き、次にシルティナに目を向けたときには既に時遅かった。一瞬目を離した隙に何があったのか、表場でミスをすることなどあり得なかった失態。


 床に染み渡る赤ワインが服に手をつけても、ある一点から決して目を逸らさないシルティナに声を荒げ名前を呼んでも依然として視点を外さなかった。


 何に怖れを抱いたのか、後ろに無意識に下がろうとしてテーブルに手を付き止まったまま意識を失ったシルティナ。誰が俺のモノに手を出したのか、怒りだけが頭を冴え渡る。


 この衝動をどう解消すればいいのか、会場にいる人間全員を殺し尽くしたい激情に駆られながらも深く息を吸う。今やるべきことを冷静に考え、シルティナを横抱きにし皇帝へと進言した。


 このような席でなければシルティナの意識を一瞬でも奪った皇帝など惨殺する凶行にでも及んだが、今はシルティナの回復が先だった。


 「…聖女に【藍の間】を貸し出そう。この度の騒動は帝国の落ち度だ」

 「いえ、そのような配慮は結構です。帝国内でこのような騒動が起きた以上一抹の危険がある皇城にこれ以上聖女様を置く気もありません。聖女様は私共が責任を持ってお預かります」


 本来建国祭中泊まるはずだった部屋もさっさと荷物を片付けて、先日まで貸し切りにしていたホテルの一室を延長して借りる。


 人の口に戸は立てられない。今回のことがあった以上明日からシルティナが建国祭に引き続き出ることはないだろう。

 

 だが今はそんなことよりも…、あの皇帝とどのような関係であったかその口から聞かなければこの激情は到底収まりそうにない。


 深い昏睡状態に陥ったシルティナを無理やりにでも起こしてもいいが、一度起きれば加減などできそうにない為シルティナが起きるまで待つ。


 どんな夢を見ているのか、ベッドに一筋の涙を零すシルティナの細首を締め殺してやりたい。


 俺の嫉妬など知らずに他の男を想い夢の中で泣く愛狂おしい恋人の目覚めの時は長い。


 まるで人形ドールのように整った美しい顔で俺の心を弄ぶ憎むことなどできるはずも無いこの駒鳥を、果たしてどうしてやろうか…。



 

 シルティナ以外はほとんど(てか全部)塵としか思っていないオルカ。

 ちゃんとシルティナだけが特別な様子です!

 というかこの話だけ見れば完全にヒロインを攻撃した皇帝に激怒する男主人公になっとるwww


 ちなみにラクロスとイアニスに至っては名前すら口に出したくない程の嫌いぶり。基本的に人に関心を抱かないオルカだけどこの二人だけは日常的に殺意を覚えてるよ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] シルティナ2重人格にびっくり! さらい深い設定があったなんて! [気になる点] シルティナが覚醒した時に近くにいた3人は どれくらい肉体と苦痛を味わったのか知りたいですね。 魔法で軽減して…
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