表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第四章 【悪役聖女】の末路 
120/173

幸せの記憶

 建国祭初日で気を失うという醜態を晒してから翌日、私達は元々建国祭の期間中皇城の一室に泊まる予定だったのを取り消してそれまで宿泊していたホテルを延長して借りることになった。


 運び出していた荷物はトンボ返りで無駄になってしまったけど、これ以上おじさんに関わることを避ける為にはそれが一番だ。


 それと昨日は私が倒れて毒殺未遂も視野に入れて一旦パーティーは中止になったらしいけど、また今日も変わらずに行われるらしい。

 一応聖国の代表として私の代わりに必ず出席しなければならないオルカは酷く苛立った様子で夕方頃には皇城へ向かっていった。


 別に他の代打を立てることもできたけどそしたら昨日の件でまた帝国と溝を深めることになるだろうし、私の次に地位の高いオルカが参加しなければならない状況だったしね。


 「…けほc、…っ」

 

 そして私はと言うと、ベッドから起き上がれずに昨夜からほとんど丸半日オルカに抱かれていたせいで喉が乾ききって痛みを覚えていた。

 私が許した(?)と言えど途中パーティーの準備を急ぐ神官の声がなければ一生抱き潰されて腹上死でもしそうな勢いにドン引いてる。


 思えば私から肌を許したのって初めてだったし、オルカの潔癖癖を知るなら私との行為が初めてということになる。その割には内容がえげつなかったけど、昨夜は本当に経験のないうぶな少年の様だった。


 昨夜の情事を思い出しては腰の痛みと関節痛が襲うけど、一度吹っ切れれば簡単なことだ。


 私は昨日確かにオルカを受け入れたけど、それは()()()()時間稼ぎに過ぎない。

 

 私の本当の目的は、【原作】の時系列通りに皇帝カフス・フォン・ラグナロクに殺されること。それまでは受け入れた振りをして、時が来れば温存していた力で彼の元まで行けばいい。


 随分と中途半端になってしまうかもしれないけど、それでも時と人が揃えば同じようなものだ。所詮一人の人間が完璧を追求した所で無駄なのだから、ほんの少しの可能性にでも賭ければいい。


 例え私がどれだけ力を溜め込んだ所でオルカ達を殺すには及ばず、逃げ出せたとしても一日も掛からず連れ戻され遂には私から神力を全て奪うような禁術にまで手を染めるかも知れない。


 だから私には、たった一瞬でいい。私がおじさんの元まで逃げて、その手によって殺されるぐらいの時間があれば他に何もいらない。


 考えればおじさんが私を覚えていなくても、最後におじさんの胸で死ぬことができるならそれはきっと十分に幸せなことだろう。

 だから贅沢は言わない。【原作】で私が死ぬまで、後二ヶ月。それまで死ぬ気で自我を守り抜いて、死んでみせるんだ。


 「随分と激しくヤられたようだな、シルティナ」

 「……ィアニス。令嬢レディの部屋にノックもなしに入るだなんて礼儀も忘れたの?」


 全身の疲れでベッドから動けなくなっている私を魔法の痕跡もなしに窓から部屋に入ってきたイアニスが見下ろす。魔力の残滓もないとなると、また他の得体の知れない能力の何かなのか。


 声の調子は戻ったものの、到底イアニスを相手にできる状態ではない。勿論この部屋には世話付きの神官の一人もいないし、私は服も着ておらずシーツで身体を覆っているだけ。


 「そう怒るな。それで、…俺のプレゼントは気に入ってくれたか?」

 「…あぁ、貴方だったの。気に入ったかって? えぇ、もちろん。こんなに衝撃的で胸糞の悪いプレゼントは初めてだったわ」


 イアニスは元々おじさんの存在を知っていた。だけど何故知っていたのか、私は知らず知らずの内に考えることを止めていた。


 だから不意を突かれたのだ。まさかこの男の身内だからなんて、そんなの考えても分かるわけがない。そしてこの男はそれを最悪の形で私に伝えた。

 私の希望を知っていて、わざと目の前で握りつぶした。全ての中心に自分がいるのだと刻みつけるかのように…。


 「可哀想に…。唯一心を許した相手は俺の義理の父だ。俺を憎むシルティナはさぞショックだったんだろうな」


 すり…とイアニスの手が私の頬に触れる。手が大きいせいか、私の顔が小さいのか片手ですっぽりと収まった様を見て一つ疑問が解けた。


 あぁ、なるほど…。イアニスは私が何故おじさんが皇帝であることに喪心したか知らないんだ。確かに一度冷静に考えれば【原作】の知識を持っていないイアニスにそこまでの考えを巡らせることはできない。


 別に私はおじさんが誰と関わりを持とうとずっと想い続ける自信がある。だっておじさんはおじさんだから。九年前私の心を救ってくれたことに変わりはないし…。


 でも私を忘れるなら話は違う。おじさんに覚えてもらえなかったら、【原作】通りだと私は永遠に大罪人として汚名を被ったまま語り継がれることになる。


 そして【原作】通りにならなかったとしても、私はオルカ達の記憶の中で一生の慰み者として生きていくことになる。死んでまで私を殺したくない。


 せめて、自由に笑って生きていた証が欲しい。おじさんに望んだのはただそれだけだった。

 他に一緒に逃げて欲しいとも、このまま家族になりたいとも言わなかった。私が望んだのは、人として与えられるべき最低限の尊重。ただ、それだけ…。


 「可哀想…? どうして? 愛されもしなくせにどうにか私の関心を引こうとする貴方の方がよっぽど惨めで可哀想じゃない」

 「…そんなに煽って抱き潰してほしいのか? シルティナ」

 「そうだとしたら?」

  

 いつもは拒絶と嫌悪だけを向ける相手が突然と受け入れたとき、人と言うのはあまりに単純だ。自分の有利になるよう状況を操って楽しんでいたイアニスは、私が偽りまみれの笑みを見せただけで魅入られた。


 可哀想? どうして哀れまれなきゃいけないの? 私は私の意志でちゃんと生きて、考えて、自分を貫いてるのに。貴方達こそ、自分の考えもろくに持てない可哀想な人達じゃない。


 「んっ……、ふ…、ぁ。ちゅ…っ」

 

 絡まるような口づけとともに、腰に手が添う。引き寄せられ更に奥まで侵入を許すと、つい先程まで満たされていたはずのはらが疼いた。


 ベッドの上で響く甘い嬌声。帝国で最も格式高いホテルで名称されるからなのか、情事が夜まで続いてもドアは沈黙を貫いた。まぁそれも織り込み済みでオルカが予約したんだろうけど…。


 「ッく、はぁ……、シルティナ…ッ」


 まるで初恋の人を抱くかのように甘く切ない行為に、私は数時間前のイアニスの言葉を思い出してひねくれたことを思っている。


 ねぇ、おじさん…。貴方を想って、貴方の義理の息子に犯される私をそれでもまだ愛してくれる?

 こんな獣に等しい醜さを誇る私を、高潔な貴方は許してくれるかな…?


 この捻じ曲げられた関係をどう終わらせればいいのか、いつ始まってしまったのか。誰に許しを請えばいいのか、誰も教えてくれないんだから答えも分からない。


 でもたった一つ確実なのは、もう私があの純粋なまま雪を踏み歩いていた頃には戻れないということだった。何せ自分で変容を受け入れたのだから、戻れない崖へと怖気も知らず進んでいくのだから…。


 ふっ……と数時間の行為の果てに意識を失った私をそのまま帰ってきたオルカが引き取ったらしく、建国祭の期間中はほぼ外出することもなくホテルの中で一日を過ごした。


 そしてやがて建国祭も終わりへと近づくと荷物をまとめはじめ、来た道をまた馬車で走り続ける。その間誰も邪魔することのない馬車の密室で終わりない蜜時を過ごしながら、私達は一週間掛けて帰路についた。


 カツン…、カツン……


 神殿に着くとすぐ革製の靴の音がよく響く地下までお姫様抱っこで抱えられていく。行き先はもう分かってるのに、どうしてか此処を進んでしまったらもう二度と元の世界に戻れない気がした。


 これから地下に閉じ込めるのは三日や一週間なんかじゃない。もっと長い期間。それこそ私が老いて死んでしまうまでかもしれない。

 オルカの足が一歩踏み出すごとに光の精度は落ちて、この暗闇に誘われるような奇妙な感覚に襲われる。 


 堕ちた私を歓迎するかのようにようやく辿り着いた扉を開くとほのかに彩りを照らす部屋に怖気づいたのかぎゅぅ…っとオルカの服を握りしめた私を、そのままベッドのふちに下ろして床に膝を着くオルカ。


 見た目だけ見ればお城の中で囲われたお姫様に求婚プロポーズする騎士に見えなくもないけど、実際は捕らえたお姫様を弄ぶ卑劣な悪党だ。


 「シルティナ。愛してるよ」


 …これが本当に好かれ合って結婚した夫婦の処夜であれば感動的な場面なんだろうけど、私の左手の薬指に嵌めた指輪はむしろ完全な鎖の様にしか見えない。


 まぁ何かしらの能力は付与されたものなんだろうけど、どうせ外すこともできないのだから考える必要なんてない。考えないことが私の幸せに繋がるんだから…。












 ######


 人間としての尊厳を失い犯されて、喰らわれて、ずたぼろになった身体をなお弄ぶ獣達に耐える日々は並大抵のものじゃない。


 想像していたよるずっと怖くて、苦しくて、吐き気だけがまだ自分を正常足らしめる救いだった。そして誰のものかも分からない体液まみれの身体をお湯で洗い流し一人になればいつも涙を袖に濡らした。


 ベッドで絡み合う男女。シルエットだけ見れば体格の良い青年が無力な少女を組み敷いているようにも映る。だけど実際にその事実を知る人間は私達以外に存在しないのだから誰も咎められはしない。


 逃げられないよう圧倒的な力の差で腕を押さえつけられて、無理やりナカを暴かれる怖ろしさの中で私は藻掻もがいてる。私の唯一。私が初めて愛した人。私を初めて裏切った人。ねぇ、おじさん…。


「どぅして夢を見せたの……?」


 貴方の優しさが、期待が、希望が、…今までの何より痛い。

 

 初めから幻と知ってさえいれば、ここまで傷つくことも嘆くこともなかったのに。 

 ボタボタと涙を流し、それに反して心はすっかり冷めきっている。貴方の中途半端な優しさのせいで私はもう壊れそうだ…。


 「ぁ゛…、っイ゛!、あぃァ゛…ッ゙??!」

 

 いくら割り切ったと嘘を偽っても、その心の本心では刻みつけられた傷跡の痛みに胸を焦がしている。こうやって獣達のよろこぶ悲鳴を上げて、私をこんな男達に差し出す元凶となった彼を恨んでいる。


 貴方がいなければ耐える必要なんてなかった。貴方がいなければ生きていたいなんて思わなかった。貴方がいなければ…、私はまだ壊れずにいれた。


 もう何日朝陽を浴びていないか、数えるのも諦めた。朝と夜の区切りがない分、私にとって怖ろしい夜が永遠と続いている。


 ギィイ……と重鉄の扉が開く音は饗宴きょうえんの合図となり、囲まれた獲物はその役割を忠実にこなす他生き残る術はない。


 ランタンだけが淡い橙色に光って、私の肌に吸い付くように重ね合わさった大きな手が恐怖と快楽で身体を縛った。


 あぁ…、私は今日もこの男達に抱かれるのね。吐き気を呑み込んで、息を殺して、夜を明かすのね。するりと脱がされるネグリジェが合図とばかりに私の身体を無数の蛆虫(うじむし)が這う。


 いつになったら終わるのかしら…。私が『私』を失えばこの感情ごと消えるかしら。だけどそれをするには、あまりに幸せな記憶が奥底に溜まってしまって心が痛い。

 

 ねぇ、誰か…。誰でもいいの。たった一度だけでいいから、誰でもいいから…、私をタスケテ。心がこれ以上摩耗してカタチを保てなくなる前に…。



 えぇ〜っと、めちゃくちゃ情緒不安定です。

 表現的に頑張ったんですけどたぶんこれが限界で、強気なシルティナと弱気なシルティナでおかしくなってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ