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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第四章 【悪役聖女】の末路 
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後ろめたい嫉妬

・ 【ヒロイン視点】です。

 いよいよ幕を開けた建国祭一日目は、色とりどりの花で皇都中を埋め尽くし国民の喜びと帝国の繁栄がそのままに反射されていた。


 去年はまだ社交界デビューを果たしていなかったからエメラルド宮から周りの慌ただしさをただ眺めるだけだったけど今年はその中心を担う存在になっている自分に改めて驚いている。

 

 朝早くの起床を済まし会場の最終チェックを行えば続々と下級貴族から入場が始まり、その間に着替えやメイクを行う。

 友好国からの香油は髪に艶感を出し、桃のような淡いピンクの口紅を仕上げに塗ればたちまち出来上がったお姫様。


 「まぁ! 本当に皇妃様にそっくりなお姿でお美しいです、皇女様」

 「ありがとう、ミリーネ。前にお母さんの肖像画を見て、ずっとこのデザインのドレスを着てみたかったの」


 ドレスはお母さんの肖像画から似せてこの日の為に特注したもので花をモチーフにしているためか髪にも花の髪飾りが散りばめられ綺麗にまとまっている。

 私自身も確かに肖像画と似てると思うのだから、ミリーネの感激振りも相当なのだろう。


 パートナーとしてヘルメス卿が付き添ってくれて、その大きな手は私の不安を何処かへと投げてしまうのだからこんなに心強いことはない。


 「ヘルメス卿、今日はありがとうございます」

 「いえ、皇女殿下のパートナーという栄誉を与えてくださり喜ばしい限りですよ。それに、今日の装いはいつも以上にとてもお綺麗です」

 「ふふっ、本当ですか?」

 「はい。会場中の皆が皇女様に見惚れていますよ」

 「ヘルメス卿も冗談ができるんですね」

 「う〜ん、冗談ではないのですが…」


 確かに孤児だった頃と比べれば遥かに綺麗になったとは思うけど、私なんかがそんな視線を集めることなんてないのは十分じゅうぶん分かってる。

 

 それに今日精一杯お洒落をしたのは、たった一人に見てもらうため。他の誰が見ようと、彼に見てもらわなければ何も意味なんてない。


 彼が入場するのは最後だと思うからそれまで時間はあるけど、先に皇族としての努めを果たさなければならないし折角のパーティーも楽しむ余裕なんてないや。


 ダンスは陛下が開会の言葉を述べた後にしか始まらないからこの時間は貴族同士の交流を深める場だと思って皆が派閥を組む中、私は過去に何度か付き合いのある令嬢のもとへ向かう。


 「エリナ令嬢。お久しぶりです」

 「エルネ殿下! あの節は本当にありがとうございました。殿下のお陰で無事彼に完成した刺繍を渡すことでができて、彼もとても喜んでくれました」

 「私だけのお陰ではありませんよ。エルネ嬢が一生懸命に練習された成果です。その姿を見て、婚約者の方への深い愛が此方まで伝わってきましたから」

 

 こんな風にこの一年である程度立場を確立できたからかスムーズに話をできたときもあれば、やっぱりまだ少し距離を感じる人ももちろんいる。


 特に一回り年の離れた伯爵や子爵と言った人にはまるで舐め尽くすような視線を向けてきて気持ちが悪いから、そういう時は決まってヘルメス卿が間に入ってくれて事なきを得たりする。


 最近まで本当に知らなかったけどヘルメス卿はなんと侯爵家の出身だそうで既に御兄弟が当主の座についているそうだけど本人の地位はやっぱり高いらしい。

 皇室騎士団団長から罷免された今でも彼を見下すような貴族はいないことから影響力も相当なんだと思う。


 パーティーが始まって一時間程経過し、そろそろエディス達も入場してくる頃かと思ったそのとき。あるペアの入場に会場から音が静まった。


 聖国の権威の象徴。就任以来決して帝国に来訪することはなかった秘匿の存在。その事実も相まって噂から形どられた神秘的な偶像。


 一見してその噂は誰もが出鱈目だと鼻で笑うものだったけど、今日彼女の姿を見たものは口を揃えて言うだろう。

 噂は決して誇張されたものなどではなく極めて正確に彼女の存在をたらしめるに相応しい言葉だった、と。


 この大陸中公式的にたった一人しか存在しない、【聖女】様。真白のベールを被り、黄金の刺繍の入った仮面を顔の上半分に付けた彼女の素顔を見た者は誰もいない。


 だから彼女の存在が気に入らなかったり噂好きな人間は大抵素顔が醜いからだと言う。歴代の聖女様はちゃんと顔を晒して活動していたらしいから。


 だけど見る人が見ればそんなのあり得ないことだと確信するのだろう。彼女の一体どこを見れば醜いと吐き捨てることができるのか。

 むしろそのあまりの美しさを抑える為だと言われたほうがまだ納得もできるというものだ。


 このパーティーには聖女様の参加を知って急遽参加を申し出た貴族だっている。わざわざ遠い辺境の領地から赴いた者だっているのだ。


 神力を持った神官を魔物討伐や戦争の際に派遣し救われた領地は一つや二つではないだろう。だからそんな教会の実質No.2の座に座る彼女へ感謝の気持を伝えるのは自然なこと。


 聖女様は一度会場全体を見回して、彼の手に引かれながらゆっくりと階段を下りていく。

 その一挙一動が会場の貴族皆に固唾を飲ませ、まるで陛下に似た威厳を感じるのだから流石伊達にアルティナ教の権威を握っている方じゃない。


 そしてそんな聖女様に付き従う、私の恋人。…オルカに綺麗だと褒めてもらう為に頑張った装いも、聖女様を一目見た後では恥ずかしさだけが置いてけぼりにされる。

 あんなに綺麗な人の隣にいて、私みたいなのが綺麗だと思われるわけがない…。


 チクリとまた胸に針が指して、顔をうつむける。オルカはただ自分の役目を果たしているだけなのに、これ以上変な気持ちにはなりたくない。


 早くパートナーの付き添いが終わることを願っていると更に周囲がざわめき立ったのを感じて何が起こったのかと顔を上げたその先に見えた光景は、私の心を更に抉るものだった。


 オルカがぐっと聖女様に顔を近づけていて、角度が違えば二人がキスしたかのように見えなくもない光景に胸が張り裂けそうになる。


 「……心配ありません。折角の建国パーティーなのですから、日頃懇意にしてくださる方ともご挨拶に伺わなければなりませんしね」

 「そうですか。ではどうか、無理はなさらないように」

 「はい。オルカ大神官はいつも私の体調を慮ってくれて、本当に兄のよう心強いばかりですね」


 遠くからだけど少なからず聞こえたその会話には体調の優れない聖女様を支えてオルカが支えてあのような状況になったことが分かった。


 それは私以外の人達にも聞こえていたようでなんだ…と残念がる人もいればほっ… 、と息を吐く人もいる。


 前者は噂好きな同年代の令嬢で、後者はオルカに陰ながら恋慕している令嬢達だろう。

 

 聖国の使節団として皇城に顔の出すことの多いオルカはその容姿のずば抜けた良さから隠れファンクラブがあると以前リディア嬢から教えてもらったことがある。


 だけど私は、そんな彼女達の反応とはどれも違っていた。変な意味なんてないと分かっていても、聖女様の言った通り家族としての優しさだと分かっていても、それでも私は一刻もこの場から離れたい。


 まるでこの中で自分一人がのけ者だというように言われている気がして、こんなに人で溢れているのに孤独を感じて息が詰まったように感じるから…。



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