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裏ルートの攻略後、悪役聖女は絶望したようです。  作者: 濃姫
第四章 【悪役聖女】の末路 
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愛の方向性

・ 【ヒロイン視点】です。

 オルカと正式に交際を開始してから数週間。あれから何度かそう頻繁ではないけどデートを重ねたり、お揃いのペアネックレスを買ったりした。


 オルカは毎回のことだけど紳士的で誰もが羨むパートナーだからそんな彼の隣に立つ自分に少し気圧されることもたまにあるけど、その度にそっと手を添えてくれるオルカの思いやりが嬉しかった。


 「そう言えば、そのイアリングはいつもつけてるけど何かの魔道具なの?」


 それは特に気に掛けるでもなく、ふいに出た問いだった。あるデートで古い骨董品のお店に立ち寄ったとき、店内の品を見て回るオルカの耳に揺れるイアリングがふと気になったって聞いたこと。


 思い返せば私とのデートの時いつも見掛けていた黄金の長方形型のイアリング。それは不思議と片耳にしか付けられておらず、デートの度に服や小物を変えるオルカが唯一肌見離さず身につけているものだった。


 「いえ、これはある特別な方から頂いたものです」

 「特別な、…人?」


 その言葉に気に掛からなかったと言えば嘘だけど、私が不安に思ったのはそんなことじゃない。そう言ったオルカの表情が、今までに見たことがない程愛しみに溢れていたから…。

 まだ私には明かしていない彼の奥底に、その人がいるような言いようのない漠然とした不安が私の心に巣食う。


 「エルネが気にするような人じゃありませんよ」

 「そ、そうだよね…。ごめんね」


 私の不安を感じ取ったオルカが優しく宥めるけど、もうその瞳にさっきみたいな感情はない。仕草や言葉は殊の外優しいのに、それに感情が伴っているかなんて私には分からない。


 それにもしかしたらこれは私を心配する言葉じゃなくて、線引きをされたのかもしれない。私が関わっていいものではないと、その優しい仕草からは想像もできない明らかな警告。


 その後も無事デートを楽しんだけど、私の心には見えないくらい小さな穴が空いた。針の先端にちょんとつついたぐらいの穴。

 

 だから私は気づかない振りをして、無理に問い詰めることをしなかった。それがこの幸せを維持する最適な方法だと信じて疑わなかったから。

 いつしかその目を背けた穴が私の心を破りめちゃくちゃにしてしまうなんて、考えもせずに…。













 ######


 そんな出来事があった数日後。オルカは突如として私に連絡を届けた。『会いたい』という旨の内容に、私の心ははやる。

 今まで私からデートに誘うことはあっても、オルカから連絡があることは少なかった。だからそんな嬉しい気持ちで舞い上がって、宮に訪れたオルカの言葉に思わず言葉を失った。


 「…すみません、エルネ。突然ですが神殿に帰還することになりました」


 天気は曇天で、雨も強く振っている中土砂降りで宮まで馬を走らせてきたオルカ。少し潔癖とも言えるオルカが分け目も振らず駆けつけてくれたことを知って、嬉しいような心配なような。


 彼の妙に真剣な表情にこれから言われるであろう言葉を予測して、そして案の定悪い報せが告げられてしまった。もし今オルカが神殿に戻ってしまえば、次に会えるのはいつ頃だろう…。


 「そんな…、っ! まだ滞在期間はあるはずじゃ」

 「教皇閣下から至急の要請なので、私の代理となる者が明日こちらに来ます」


 淡々と告げるオルカだけど、不意に白銀の髪から滴り落ちる雨水が彼の本当に気持ちを教えてくれる。この事実をいち早く伝えるために、私の元まで来てくれたんだ。

 手紙で伝えれば早かったのに、私と会う為だけにこの大雨の中を…。


 「次は……、いつ会えるの?」

 「少なくとも建国祭までには戻ってくるはずです」

 「あと二ヶ月も…」


 建国祭の準備は細々ながらこの時期から行われている。あと一月ひとつきもしたら本格的に準備に取り掛かって私も何か駆り出されるかもしれない。

 だから会う頻度は今以上に減っていただろうけど、それでも一度でも会えるのと会えないのでは見えずとも高い壁がある。


 「心配は入りません。私は役目を果たして、また帝国にお戻りします」

 「戦場に赴くことは、ないんだよね…?」


 教皇閣下からの至急の要請だなんて、何処か戦場にでも派遣されるのだとしたら今は会えない不安よりオルカの身の安全の心配だ。

 エディスから聞いた話で強いとは分かってるけど、いつ死んでしまうか分からない戦場にオルカを行かせたくない。


 「それはないと思います。恐らく神殿内部で何か大神官でなければ対処不能な問題が起こったのでしょう。戦場に派遣されるのであればその旨の連絡が来ますので」

 「…そっか。それじゃあ、気をつけてね」


 オルカの後に続いて来た補佐官と見られる人が何やら焦っているようで、もう彼が去らなければいけないのだと気づいた。

 ここで長々と引き止めても、迷惑を掛けるだけだよね。だから…、私はちゃんとオルカを見送ってあげんきゃ。


 水で滴った顔で私の瞳を数秒と見つめた後、未練などさもないようにひるりと背を向けそのまま馬に乗って駆けていったオルカを見えなくなるまで見送った。


 














 ######


 皇女として大々的に行う公務の一つとして建国祭で開かれるパーティーの準備を忙しなく執り行うこと残り数日。


 確認しなければならないことは全て終わったけど、それでもやっぱり不安が残る。

 初めてのことだしナターシャの助けも沢山借りてようやく一通りの準備が揃ったのに、当日になるまで何が起こるか分からない緊張感にドキドキして最近はあまりよく眠れていない。


 それは建国祭の準備の件もそうだけど、数週間前にエディスの言っていたことが頭から離れないのも一つの原因だと思う。

 最近ではようやくお父さんの側に人を付けられたけど、それでもお父さんが常に傍に置くのはユス卿だけで詳しいことはまだ分からない。


 今でこそお酒に浸っていても公務は完璧にこなしていることから臣下も何も言えずにいるみたいだけど、そんなんじゃ先にお父さんの身体が壊れることくらい皆分かってる。


 そんな様子だから皇城内は皇位継承の派閥争いが拡大し、敵家紋同士の対立も増えている。それはウィルス殿下もあの話通り本格的に動いているようで最近は度々あった連絡がパッタリと減った。


 絶賛ウィルス殿下と対立中の第一皇子は顔を見せることもなく全部を貴族たちに任せてまた魔物討伐に赴いているようで、その周辺に住む領地の人々から絶大な指示を得ているという。

 少なからず身体の弱いウィルス殿下にはできない戦略なのだろう。


 血統か素質か。第一皇子も前皇帝の息子であるため血統で言ったらたしかに正統なものだけどそれでも文句をつける貴族がいるのは先代の皇帝が現皇帝、つまりはお父さんの手で処刑されたからだ。


 虐殺の限りを尽くした狂帝の血筋というだけでいくら皇帝としての素質を持とうと認められない皇子。一方で身体は弱いながら大国を治められるだけの知略を持ち現皇帝の血を引く皇子。


 何方も完璧でありながら片方では欠点を備え持つ。端から見れば同等に皇位に付く資格があるとも思えるが、今の皇帝を見ればそんな妥協した考えは許されないんだと思う。

 私のお父さんは欠点などつけようのない、まさに超越した【完璧】を具現化した人なんだから。


 戦場の最前線に立ち自ら兵士の鼓舞する存在となってたった一人で大陸制圧を成功させたソードマスター。そしてその制覇した大陸を一切の不備なく運用する政治的手腕。

 貴族の派閥でさえ全てに目を通し、犯罪率を前年度の1割にまで抑え込んだ。


 私は帝王学として学んだものに、お父さん以上の素晴らしい皇帝は初代皇帝以外にいないと教えられた。まさに生きた【英雄】。お父さんの存在が、軍一つに相当するという噂も脚色とは言い難いほどの存在感。


 そんな人の跡を継ぐとなれば、世間の目だってそれは厳しくなる。お父さんは無欲な人で今まで私利私欲の為に政策を行ったことは一度もない。


 清廉潔白を形どったような人だから、国民も安心して支持できる。毎年の支持率は歴代の皇帝の中でも初代皇帝と共に最も高く、その上外交までも問題ないとなればこれ以上の人はいない。


 今後の国の行く末を左右することでもあるから皆慎重になるし、自分の利に繋がる方向へどうにかして結びつけたいと考えている。


 かくいう私も一応皇位継承者には変わらないんだけど、まだ二人と同じ土台に立つには能力を示せていない。


 せいぜい皇族の一員として尊重されるぐらいで、まだ確かな成果を示している二人と違って何も成し遂げていない私はお父さんの意識の片隅にも存在してないんだと思う。


 そんな明らかな事実が、胸を少し締め付ける。

 ……オルカがいなくなった途端またお父さんに構ってもらいたいと思うなんて、ズルいなぁ。


 自分でも分かってる。私はただ、誰でもいいから愛してほしいだけ。本物の家族というのに憧れ続けたせいか、おかしいぐらいに執着し続けている。


 いつかはちゃんと区切りをつけなきゃいけないのに、まだもう少しだけって…。

 自分を甘やかして、後に引くチャンスはいつでもあったはずなのに気づいた時には第一皇女のようにいつか立つ瀬すら無くなっているかもしれない。


 愛されたいからと方向性を見失って今自分を大切にしてくれる人達を失くすぐらいなら、いっそ手に入らないと諦めてしまえば済む話を私はいつまで抱えるつもりなのか。


 もっと大人になればこの気持ちにもちゃんと別れを告げられるかもしれない。その時は、本当に愛した人がきっと隣にいて支えてくれるはずだから…。


 だからそれまでは、まだ父を求めるこの幼心おさなごころを殺さずに生きていよう。皇女として立派に役目を果たして、せめてあの宝石のような深緑の瞳に映ることのできるように…。

 


 建国パーティーには各国の要人も参加するため最低でも一ヶ月前から準備を始めていたエルネ。ちゃんと主人公として周りの助けを借りながらも何とかやり遂げるよ!


 だけどな、う〜ん…。何ってたってあのシルティナが初登場だもん。そうすんなりと終わるはずもないよね〜…。うん、頑張れ!

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