「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
無口でポーカーフェイスな彼
私の彼は無口でポーカーフェイスだ。
「ただいま~」
仕事に疲れてへろへろで帰ってきても、お疲れさまとやさしく抱きしめてくれる……なんてことはなく。
「あのね、今日会社で嫌なことがあってさ……」
愚痴を聞いてもらおうと思っても、興味なさそうにご飯まだ? と聞いてくる。
掃除洗濯、食事の用意、全て私任せ。私はあなたのメイドかっていうの。
まあ、私の家だし、手伝ってもらうとかえって大変なことになるってわかってるから、そこは諦めているし、期待もしていないけれど。
食事中も終始無表情、無口でポーカーフェイスだから、ご飯が美味しいのか美味しくないのかすらわからない。残さず食べてくれているからマズいってことはないとは思うんだけど。
もう少し反応があるとモチベが全然違うんだけどな。
「明日休みだし、どこかへ出かけない?」
と誘っても、寒いから出かけたくないらしい。
一日中ゴロゴロしているなら、ちょっとぐらい付き合ってくれても良いじゃない。
そう言いたくなるけど、そこは惚れた弱み。悔しいけど仕方ないと思っている。
元々一緒に暮らそうと誘ったのは私だし、彼に嫌われてしまったら立ち直れない自信がある。
家に帰ったら彼がそこに居る。それだけで私は十分幸せなのだ。
「あんたも相当モノ好きよね……私は尽くしてくれるタイプじゃないと駄目だわ」
中学からの親友はそういって笑うが、私はどちらかというと尽くされるのは苦手かもしれない。
自由気ままにしていて欲しいし、尽くすのは嫌いじゃない。むしろ必要とされている気がして満たされるのだ。
「ただいま~」
ある日、帰ったら家の中に彼の姿が無かった。
全身の血がサーッと引いてゆく音が聞こえる。
まだ遠くへは行っていないはず。
近くの通り、近所のお店、立ち寄りそうな場所を必死で探した。
「なんで……なんでいなくなっちゃうの……?」
何か怒らせるようなことをしただろうか? 気付かないうちに不満をためていたのかもしれない。
「お願い、私を一人にしないで」
公園のベンチに座り込んで泣いた。
一人夕食の準備をする。
気まぐれな彼のことだ。お腹が空けばひょっこり帰ってくるに違いない。
玄関から声が聞こえる。
ドアを開けると彼が居た。
『なああん』
「お帰り……心配したんだからね」
そっと抱き上げ部屋の中へと連れてゆく。
「ねえ、美味しい?」
彼は無口でポーカーフェイスだ。
でも……尻尾は正直だ。
私は猫派である。そして親友は犬派だ。