表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

§1.4. 秘めた恋心

 別れ際のシナモンの香り。真っ先に思い出したのは、志穂のことだ。

 志穂はチャイだったりアロマだったり、香りの良いものが好きだ。最近の朝はチャイを飲んでくることが多いみたいで、会うとふわりとシナモンの香りがする。昨日の呪いと、同じ匂いなのだ。

 珍しい匂いじゃないし、偶然だと思うけど……


 今日も朝は志穂と待ち合わせてから学校に行く。だけどその途中でなにか訊いたりはできなかった。だってなんて訊けばいいんだろう。「志穂って、華のこと殺したいほど憎んでたりする?」って? いくら仲良くてもそんな質問してきたらそれはヤバい人でしょ……


 教室に着く。しばらくすると、華も登校してくる。


「おはよーりっちゃん」


「華!」


 華の声にバッと振り向く。首の痣は……さらに進行してる。顔色も少し悪く見える。もちろん呪いも消えていない。華の後ろで暗い紫色の球体がふわふわと浮かんでいる。


「大丈夫、華……?」


「大丈夫だけど、少し息苦しい、かな……昨日もよく寝られなかったし……」


 華は首のあたりをさすりながら答える。どうしよう、あまり猶予がないように見える。どうしたら……


 やきもきしたまま、どうすることもできずその日の授業を過ごす。普段どおりの授業なのに、やたらと時間が長く感じられる。

 午前中が終わり、昼休みが終わり、午後の授業も終わって放課後になる。

 クラスのみんながバラバラとまばらに部活に向かったり、帰り支度をしたりする。


「ねぇ、華」


 華の方に目をやると、まさにその瞬間、華がバタリと机に突っ伏すように倒れる。


「華っ!」


 私は慌てて華に駆け寄って状態を確認する。

 首の痣が濃い。模様の手のひらが喉にかかって、やっぱり首を締めているかのように見える。華の背後の呪いも、一回り大きくなっている。

 華の呼吸は細く、息苦しそうだ。


 保健室に……いや救急車を……とも思ったけど、どちらにせよこの状態をどうにかできるとは思えない。

 華を治すには、呪いを祓うしかない。でもこんな規模の呪い、正体がわからないままじゃ……


 そう思っていると、視界の端で教室から出ていく影を捉える。志穂だ。蒼白な顔をしている。

 ……嘘でしょ。


 信じられない、というか信じたくなかった。

 この状況で駆け寄ってくるならともかく、逃げ出すように駆けていくのはありえない。この状況で逃げ出すなら、それはこの呪いに関してなにか知っているということにほかならない。


 華をこのままにしておくのが気が引けて、一瞬追うべきか悩む。だけどここに居ても私ができることはない。志穂がなにか知っているなら、問い詰めなくちゃいけない。

 そして志穂が華を呪った主だというなら、間違っても逃がすわけにはいかない。


 廊下に出るとすでに志穂の姿はない。だけど匂いは残っている。志穂はいつも香りのいいものを好む。最近はシナモンの香るチャイ。私の鼻なら、数秒前にここを通ったばかりのその匂いを追うことは決して難しくない。


 階段を一段とばしで駆け下り、志穂を追う。一階の廊下で姿を捉える。


「志穂ッ!」


 私の声を聞いて一瞬振り返ってこちらを見た志穂は、曲がり角を曲がって姿を消す。

 だけど運動なら私が志穂に負けることはない。曲がり角を曲がってすぐ、渡り廊下で志穂に追いつく。

 その肩に手をかけ、振り向かせる。そのままぐいっと壁に押し付けるように詰め寄る。


「なんで逃げるの、志穂」


「…………」


 志穂は目をそらしたまま答えない。


「じゃあ訊くけど。華にかかってる『呪い』のこと、なにか知ってるよね? 教えて」


「……これのこと?」


 志穂はポケットから一枚のカードを取り出す。変哲もない白いカードに、手書きでびっしりと模様が描かれている。そしてそこから、暗い紫色の靄が滲み出している。

 ――間違いない、呪いはここから生まれたんだ。


「ホントに、志穂が華のことを呪ったの……? なんで?」


 志穂を壁に押し付ける手に自然と力がこもる。


「……痛いよ、律」


「答えて! なんで華のこと呪ったのか!」


 志穂からカードを取り上げて、ビリビリに破いて捨てる。


「無駄よ。破っても燃やしても、そのカードは戻ってくる」


「今訊いてるの、そういう話じゃないでしょ。なんで華のことを呪ったのか、何をこのカードに願ったのか、訊いてるんだけど」


 目を伏せたままの志穂を睨みつける。


「……答えたくない。私が華さんを呪ったのはホントのこと。だけどその理由は、律には言えない」


 ギュッと強く拳を握りながら志穂が答える。


「答えてくれないと、華が死ぬかもしれない。志穂は、華のこと、殺したいの? 殺したいから呪ったの?」


「違っ……私だって、そんなつもりじゃ……」


 志穂が慌てて目を上げる。その目線を正面から捉える。


「なら、答えて。華との間に何があったの?」


「――ッ」


 それでも唇を噛み、志穂は答えようとしない。


「――そっか。私は華のことも志穂のことも友達だと思ってたけど、志穂にとってはちがったってことだよね。なら、もういい」


 なら仕方ない。こうなったら私がどうにかするしかない。

 志穂の肩から手を離し、背を向ける。


「待って……!」


 振り向くと、志穂がポロポロと涙を流している。長い付き合いだけど、志穂が泣いているところなんて、初めて見たかもしれない。


「話す。全部ちゃんと、話す。一生話さないつもりだったけど――華さんは私にとっても、友達だから」


 ――よかった。志穂はちゃんと、私の知ってる志穂だった。


「うん。聞かせて?」


「話す、話すから――」


 志穂は大きく息を吸う。


「あのね、まず……華さんとの間に何かがあったわけじゃなくて……」


 志穂は大きく深呼吸を繰り返す。

 っていうか、華との間になにかあったわけじゃないならなんで……


「あのね、律。私、律のことが好きなのよ。誤魔化さずに言うなら、恋愛対象として」


「えっ」


 え……?


 志穂は頬をわずかに朱に染めながら続ける。


「だから、私はあなたのことが好きなの。そういう対象として見てるし、あなたのこと独り占めしたい。ずっと一緒にいたいし、いてほしい。そういう気持ちがあるって、言ってるの」


 ちょっと話が急すぎてついていけてないけど……


「それって、いつから……?」


「多分、ずっと前から。だけどこれが恋愛感情なんだって気づいたのは、ここ数年」


「志穂、でも私――」


「――言わないで」


 志穂は私の言葉を遮って続ける。


「言わないで。わかってるから。律のこと一番近くで見てきたのは、私だから。律が私のことどう思ってるかも、よくわかってるつもり。

 ――だからホントは私も言わないつもりだった。この気持は一生秘めているつもりだったんだけど」


 志穂が弱々しく笑う。


「それは――ごめん」


「謝んないでよ。惨めになるでしょ。

 話、続けるけど。私はあなたのこと、独り占めしたい。だからあなたが他の女の子と仲良くしてれば、嫉妬だってする。

 華さんがあなたと仲良くしてるのを見て、羨ましかった。なんの気兼ねもなくあなたに触れたり抱きついたり……正直に言うなら、妬ましかったわ!

 華さんは気軽に律に触れるけど、私にはそれはできない。だって私はそういう意味で、あなたが好き。そんな女にベタベタ触られたら、気持ち悪いでしょ……?」


 志穂の目は本気だ。本気で真っすぐで……だからこそその感情は、強い。


 「――もちろんそんな感情ぶつけられたって困ることもわかってるわ。わかってるから、自分できちんと処理するつもりだった。

 このおまじないはね、ネットでみかけたの。ほんとに効果があるなんて思わなかったから、今の自分の気持を吐き出せば少しは楽になるかと思って、手を出した。

 自分の気持ちに整理をつけるためのものでしかないつもりだったのよ……」


「つまり……そのカードに、華への妬み嫉みを吐き出し続けた……?」


 志穂がコクンとうなずく。

 だとすれば……とんでもないことだ。呪いというのは自然に発現するものではあるが、カタチを与えるためのきっかけがあればそれは何倍もの速さで、何倍もの大きさに成長する。


「志穂はさ、私が昔から形のない『なにか』と戦ってきたこと、薄々気づいてたでしょ?」


 志穂がうなずく。

 さっき破いたカードがひとりでに集まり、修復されていく。そこからにじみ出るように、華に憑いていた呪いの本体が呼び寄せられる。


 志穂がそれを見て目を見開く。

 ああ……やっぱり見えてるんだ。


「これがね、そう。私は『呪い』って呼んでる。人の負の感情から生まれ、人を害するもの。

 昔から、私には呪いが見える。私が時々大きな怪我をしていたのも、これと戦ってきたから。

 そして志穂が作り出したこれは華に取り憑いて、殺そうとしている。

 ねえ、志穂、自分がなにをしてしまったか、わかる……?」


 志穂は身を震わせる。


「私、華さんを殺したかったわけじゃ……」


「知ってるよ。でも間違った方法で吐き出された気持ちは、こうして形を持って、簡単に他人を取り殺す」


「ごめんなさい、私……」


 志穂は大きく息を吸う。そして吐く。私の目を真っ直ぐ見据えて、言葉を続ける。


「律、あなた今、これと戦ってきたって言ったわよね? つまり、これと戦う方法があるのね? ――教えて。私、何をすればいい? 自分のしてしまったことの、責任を取らせて」


 志穂はギュッと拳を握り、背筋を伸ばして毅然と私を見ている。

 よかった。志穂は……志穂だ。意思が強くて、頭が良くて、頼りになる、私の幼馴染だ。


「ありがとう。でも志穂ができることはないんだ。でもその言葉だけで、私は頑張れるから……だから、あとは私に任せて」


 カードを中心に渦巻いていた呪いが、濃い塊を形成する。

 まだ『名付け』てもいないのに、これだけはっきりと形をなす呪いは初めて見る。それだけ強力な呪いだということだ。


「ウタ姉! カナデ姉!」


 大声で名前を呼べば、二匹(ふたり)は一目散に私のもとに駆けてくる。姉さんたちはリードくらい自力で外せる。

 姉さんたちは私の両側に陣取り、低く唸りながら呪いを威嚇する。


「呪いを祓えるのは、ウタ姉とカナデ姉だけなんだ。私も、その手助けしかできない」


「ウタさんとカナデさんが……?」


 志穂の疑問に私は短くうなずきを返す。


「やるよ、ウタ姉、カナデ姉。この呪いを祓う。

 この呪い……つまり、志穂から生まれて華を呪う、『自縄自縛と嫉妬の板挟み』の悪感情の呪いを」


 はっきりとそう口にしたことで、呪いに名前が与えられる。名前を与えられた呪いは姿を変えていく。暗い紫色の球体だったその呪いは、卵がひび割れるようにしてその内側から本当の姿を表す。


 巨大な紫色のバラと、それを取り巻く大量の茨。バラの部分だけでも私が両腕を広げたよりも大きいし、そこから伸びる茨は私の腕より太い。

 その茨が触手のように蠢き、時折ムチのように地面を叩く。


 これまで見た呪いの中で、間違いなく一番強い。多分志穂の感情だけじゃなくて、それに似た嫉妬の感情を周囲から吸い続けて成長したんだろう。特に華自身で生み出してしまった呪いの残滓を吸ったのが決定打になったと見える。


「さて、どこから手を付けるべきか……」


 カナデ姉が足元にすり寄ってくる。その首筋を軽くなでてやる。言いたいことはわかる。


「うん。外側から少しずつ削っていくしかないか。お願いね、ウタ姉、カナデ姉」


 姉さんたちはガウッと小さく吠えると、両側に散開して呪いの茨に飛びかかる。


 その牙で茨を噛み付くが、当然その際に棘に刺されて小さなキズを負う。ウタ姉とカナデ姉が傷を負うたび、同じ箇所に私も傷を負う。すぐに顔や首の周りは傷だらけになる。


 しかし、呪いの方には全然ダメージを与えられていない。この呪いが持つ茨は全部で十本。一本一本が太く、食いちぎるには二度三度深く噛み付く必要がある。しかし一本の茨にかかりきりになれば、すぐに残りの茨がそうはさせまいと襲いかかってくる。

 姉さんたち二匹(ふたり)に対して茨が十本。とにかく数が多すぎる。もちろん茨を攻略しないと、本体と思しき花部分には近づくことすらままならない。


 襲いくる茨を躱す、噛み付く、すぐに離れる。その繰り返しで、ウタ姉もカナデ姉も徐々に消耗していく。姉さんたちはよくやってくれている。なにかないか、この状況を打開できるような、なにか……


 そうしているうちに、ウタ姉が茨の強烈な一撃を腹部に受ける。空中で身を捻って着地する。ウタ姉自身はうまく受け流して軽傷みたいだ。だけど私はそうはいかない。私には、一昨日の戦闘での傷が残っているのだ。

 折れている肋骨にもろに衝撃が響き、息が止まる。


「――ッ! ――ッ!」


 一瞬世界が暗く遠のき、ぐわんと回る。

 痛みで平衡感覚が麻痺し、バランスを失って膝をつく。


 私のその様子に、姉さんたちが気を取られる。こちらに駆け寄るべきか、一瞬迷った様子を見せる。


「ダメッ……!」


 強力な呪いはその隙を逃さない。ウタ姉とカナデ姉を一気にまとめて茨で吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ、ウタ姉は背中を、カナデ姉は腹部を強く地面に打ち付ける。私は当然、両方の痛みを味わうことになる。


「カハッ……」


 立ち上がろうとしていたが、痛みのあまり意識が遠のきかける。地面に転がる。


「姉さんたちを……治さないと……」


 そう思うが、体が全く言うことを利かない。指先までじんじんと痺れ、うまく動かせない。

 姉さんたちも同じだ。地面に転がったまま、うまく動けていない。

 呪いは……幸いにして追撃してくる様子はない。余裕綽々といった感じで、悠然とこちらの動きを待ち構えている。


「律っ!」


 志穂が倒れた私に駆け寄ってくる。


「志……穂……来ちゃダメ、危ないから……」


「そんなボロボロの律に言われたくない!」


 志穂は私を支えて、上体を起こしてくれる。


「あの呪い、私から生まれたんでしょう!? 私のせいで律が傷ついてるんでしょう!? 見てられないわよ……!」


 志穂ははっきりと私の目を見ながら言う。


「私にできること、ほんとにないの? 危なくってもいい。律の力になりたい。自分のしたこと、ちゃんと責任を取りたいの」


 ないわけじゃ、ないけど……


「ほんとに、危ないよ……?」


「いい。言って」


 ああ、いつもの志穂だ。こうやって一度決めると、簡単には曲げない。意志の強い、大好きな私の幼馴染だ。


「わかった。なら姉さんたちを、私のところまで連れてきて。呪いを刺激しないように、そっとね」


「わかったわ」


 志穂はそろそろと忍び足でウタ姉のところまで移動し、姉さんを担ぎ上げる。ウタ姉はされるがままだ。そのままどうにか、私のところまで運んでくる。


「おろすわよ」


 私の横に、ウタ姉がそっとおろされる。私はウタ姉に触れる。触れた箇所から私の生命力がウタ姉に流れ込み、ウタ姉の傷が徐々に治っていく。私の方は、生命力を持っていかれてちょっとクラクラするけど、そんなの気にしていられない。


「カナデ姉も、お願い」


「ええ」


 志穂はウタ姉にしたのと同じように、カナデ姉も担ぎ上げて私の横に連れてくる。

 私も同様に、カナデ姉に触れて生命力を注ぎ込む。


 ウタ姉とカナデ姉は回復して、動けるようになる。私もどうにか、痛みを堪えながらなら、ほんとにどうにかだけど、志穂に支えながらなら立ち上がれるくらいにはなった。


「さて……ここからどうしようか」


 正直、もう一発重いのをもらったら、私はもう意識を保ってる自信がない。

 ウタ姉とカナデ姉も心配そうに私の足元にすり寄ってくる。もこもこして暖かい姉さんたちの体温が、今は心強い。

 私がどうすべきか考えていると、志穂が呪いを見ながらポツリと呟く。


「私は……私は、誰かを傷つけたかったわけじゃない」


 その言葉を受けて、呪いがギシッときしむように動きを鈍らせる。これ、もしかして……


「志穂、続けて」


 志穂は呪いをキッと睨み、はっきりと言葉にする。


「華さんのことを羨んだことはあっても、傷つけたいと思ったわけじゃない。私の気持ちで、誰かに迷惑をかけたくなかっただけ」


 その言葉を浴びて、はっきりわかるほど呪いが動きづらそうにしている。

 志穂もそれを見て取り、大きく息を吸い込んでから叫ぶ。


「私は……私は、ただ律が好き! 好きで仕方ない! 昔から好きだった! 律を独り占めしたい! ずっと一緒にいたい! 律に触れたいし、触れられたい!

 ――だけどその想いで、誰かを傷つけたいわけじゃない! あなたなんて、お呼びじゃないのよ!」


 志穂がビシッと指を突きつけながらそういうと、呪いは痺れたように動きを止める。


「――まだ行けるよね? ウタ姉、カナデ姉」


 私は姉さんたちの首筋を撫でて、私に残った活力を注ぎ込む。

 姉さんたちが駆け出す。動きを止めた呪いの茨に食いつき、噛みちぎる。噛みちぎる。噛みちぎる。

 怒涛の勢いで呪いを解体していく。痺れから回復した呪いが動き出すが、もう遅い。すでに茨は三本しか残っておらず、その程度ではウタ姉とカナデ姉の動きを止めることはできない。食らいつき、噛みちぎる。


 そしてついに、本体であるバラの花に到達する。左側からウタ姉が、右側からカナデ姉が食らいつき、引きちぎって解体していく。呪いが金切り声のような不気味な音を立てるが、姉さんたちは止まらない。そのまま最後まで食いちぎり、呪いを祓う。


 細かくちぎられた呪いは、そのまま小さな粒子になって霧散していく。


 ウタ姉とカナデ姉が私の方に寄ってくるので、ワシャワシャと撫でてやる。


「これで、おしまい。もうぼろぼろだよ……」


 体中切り傷だらけだし、あちこち強く打ち付けたからどっかまた骨にヒビくらい入ってるかもしれない。


「ごめんなさい、律、私のせいで……」


 志穂が申し訳無さそうに頭を下げてくる。


「いいよ、とは言えない。知らずにとはいえ、志穂がやったことって結構とんでもないことだから。華は実際にそれで死にかけたわけだし。だけど無事に解決したから、それは安心して?」


「……ありがとう、律」


「それと、志穂が私を好きって言ってくれたことの方だけど」


 志穂はビクリと身をこわばらせる。


「ごめんだけど、私は志穂のこと、そういう目では見られない」


「うん、わかってる。ごめんね……」


 志穂が泣きそうな顔で、でも涙を流すまいとこらえる。だから私はそれを遮るように続ける。


「だからさ、私のこと、志穂に惚れさせてみせてよ。私にも志穂のこと、そういう目で見れるように、私を志穂に夢中にさせて?」


 志穂は目を見開き、その目から涙が溢れる。


「ずるい……ずるいわよ、律。そんなこと言われたら、もっともっと好きになる」


 コツンと額を合わせながら、私達は笑い合う。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ