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蔵品怪談奇談  作者: 蔵品大樹
普通のお話
8/43

プロレスラーと賄賂

奇妙な世界へ……………

 俺は猪原裕平。今の時代を彩るプロレスラーだ。

 俺はリングという名の舞台の上では、『死神の猪原』と呼ばれている。特に俺のハイキックは、『悪夢の鎌』と呼ばれていて、それを食らった途端、相手はひとたまりもなく倒れるのだ。これが死神の猪原と言われる由縁だ。

 そして、俺はあるものが嫌いだった。それは賄賂だ。何故なら、たった数十万で勝敗が決まるのが嫌なのだ。それには理由がある。

 それは数年前の事。俺の師匠であった、山岡力がよく賄賂を貰っていたからだ。しかも何回も貰い、貰った賄賂の数は尋常じゃない。そして、バチが当たったのか、山岡は、彼のアンチと名乗る男に殺されてしまった。

 山岡の葬式に出たときは全然悲しくなかった。というより、葬式に来たのは、山岡の遺族と俺だけだった。

 俺は、山岡の二の舞にならないように、俺はどんな奴でも賄賂は貰わないようにしている。していたのだが………




 とある日、俺の家にある客人が来た。その男は何故かジュラルミンケースを持っていた。

 「はい」

 「どうも、どうも、猪原さん。私、デスナックル御子柴こと、御子柴智司の付き人、磯島遼と、申します」

 デスナックル御子柴というと、俺が次の試合で戦う相手の名ではないか。その付き人が一体なんのようであろうか?

 「あの…どんなご要件で?」

 「はい。その前に、リビングに入ってもよろしいでしょうか?」

 「……………わかりました」

 嫌な気がするも、俺は磯島をリビングに入れた。

 「にしても、大きなお家ですねぇ…」

 「はは、自分、息子が結構お転婆で…」

 「そうですか………じゃあ、本題に移りましょうか」

 すると、磯島は手に持っていたジュラルミンケースをテーブルの上に置き、それを開けた。

 「これは…」

 「一応、一億はありますが……………」

 一瞬、まさかな…と思いつつも、俺は磯島に質問した。

 「あの…これって…」

 「はい。賄賂です」

 そう、まさかだったのだ。俺はテーブルに拳を打ち付けた。

 「磯島さん!俺は賄賂を貰うつもりなんかありませんよ!」

 「えぇ、私の方も承知しています。ですが、どうかこれを受け取ってください」

 「あの…」

 「何でしょう?」

 「この事を御子柴は承諾しているんですか?」

 「……………」

 「違うんですか?」

 「……………実は………」

 「実は?」

 「実は、御子柴の家族が、拉致されてしまって……………」

 「ら、拉致!?」

 「はい。そして、そして、御子柴の家族を攫った奴らのリーダーが、結構な御子柴のファンで、次の試合である、貴方との試合で、御子柴が勝ったら家族を返すと言っているんです!どうか、この通り!」

 すると、磯島は、地面に額を付け、土下座をした。

 「お願いします!これを貰ってもらわないと、あの人達は、殺されてしまうんです!お願いします!」

 「…………………………」

 俺の頭の中では天使と悪魔が戦っていた。天使は『賄賂を貰っちゃいけません!どんなことであろうと、貴方は勝つのです!』悪魔は『貰っちまえよ、あの家族が死んでいいのか?』と言っている。

 数分による審議の結果、最終的に悪魔が勝ってしまった。

 「……………わかりました…磯島さん…これを受け取ります…」

 「いいのですか?」

 「はい…その代わり、マスコミにこの事を言わないでくださいね」

 「わかってます…では…」

 そして、磯島は家から出た。

 家に残されたのは1億もの大金と、俺だけだった。

 「あぁ、受け取ってしまった。山岡さん、あなたもこんな感じで賄賂を貰っていたのか…」




 10日後、試合は始まった。

 「赤コーナーーーー!猪原裕平!」

 俺はリングに上がると、両手を上げた。

 「青コーナーーーー!御子柴智司!」

 御子柴がリングに上がり、俺を睨みつけた。

 「両者がリングに上がりました!さあ、死神とデスナックル!どっちが勝つのでしょうか!?」

 そして、ゴングが響いた。

 まず、御子柴が張り手をかましてきた。それをくらい、俺はわざとらしく倒れた。

 「おっと?猪原、倒れたぞぉ!」

 「1…2…3…4…5…6…7…8…9…10!」

 「なんと、死神!デスナックルの張り手に敗れたぞ!」

 「おい!猪原どうした?」

 付き人の関が問い詰めてくる。

 「関さん、たまたまですよ…」

 「だからって…」

 そして、ラウンド2が始まった。

 次に御子柴は、タックルをしてきた。勿論、俺はそれを食らい、また倒れた。

 ジャッジが1から10を数え、ゴングが響いた。

 「なんと、死神、悪夢の鎌を出す間もなく試合が終わってしまった!」

 そして、俺はまた、関に心配された。

 「お前、今日調子がおかしいぞ!?」

 「いえいえ、大丈夫ですよ。次の試合で勝てば良いんですから」




 ある日の夜、俺は人気の無い道で思い詰めていた。すると、後ろから声をかけられた。

 「猪原さん。あなた…何で負けてしまうんですか……」

 その男は何故か泣いていた。

 「へっ、チャンプだって、負けるときがあるさ」

 「ですか、私は悲しいですよ!でも、こうすれば、二度とあなたの失態は晒されない!」

 すると、男はナイフを出すと、俺の腹に刺した。

 「うっ…」

 「これで、これでいいんだぁ!アッハハハ!」

 男はナイフを刺したまま、そこを去った。

 雨が降ってきた。

 「あぁ、山岡さん、今すぐそっちに行きます」

 俺は倒れた。あの時のように、倒れた。




 御子柴は家で飲んでいた。すると、客人が来た。

 「はい…」

 「御子柴さん、一緒に飲みませんか?」

 客人は付き人の磯島だった。

 「にしても、あんな結末(ラスト)で良かったんですか?」

 「あぁ、良かった。あのホラを吹かなかったら、奴は金を受け取らなかった。まぁ、最終的に奴は死んだから、あの事がバレることがない。デスナックル御子柴は、永遠だ!ってね」

 「……………」

 御子柴は、哀しく酒をあおった。

読んでいただきありがとうございました……………

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