価値
奇妙な世界へ……………
俺は城秀仁。とてつもないことに驚いている素人の画家だ。
俺の夢は、幼い頃から、画家だった。
絵を描くのが好きで、今まで何千枚ほどの絵を描いてきた。
そして、一年前、美術を専門とする大学を卒業し、今では、『画家の城』として、活躍する……………はずだった。
俺は絵の才能が微塵もなく、大学を卒業できたのも、まさに奇跡としか言いようがなかった。
だがしかし、俺は諦めない。たとえ、俺の持つ筆が折れようとしても、俺は描き続けるのだから。
そんなある日の事、俺はいつものように公園で風景画を書いていた。
絵を描く俺に子供が近づいてくるが、そんなのお構いなし。アツアツのカップルが物珍しそうに写真を取りSNSに上げようが、そんなのお構いなし。
俺はなんにも気にせず、絵を描き続けた。
そして、午後2時になる頃に、朝から描いていた風景画は完成した。
すると、隣に一人の老人が近寄ってきた。
「兄ちゃんの絵、もの凄く美しいのぉ」
「いやいや、それ程でも」
すると、老人が奇妙なことを言い出した。
「そうだ、この絵を譲ってもらえないか?」
「えっ?別に良いですけど」
「フフフ。ありがとうな………アンタの目、画家の魂がこもっている。絵を何枚かくれないか?」
「えっ?いいんですか?」
「勿論、タダでとは言わんよ。取り敢えず………これを」
老人は、ワニ皮の財布を取り出すと、5枚の一万円札を取り出した。
「!?」
「いやいや、これだけとは言わん。後日、アンタの家に金を送らせてもらうよ」
「あ、ありがとうございます!なんと言えばいいか……」
「そうだ、名前を聞いていなかったな」
「えっと、城秀仁と申します」
「私は日下部光吾郎。では、この絵を貰っていくとしよう」
そして、日下部は、俺の絵を持ってその場を去った。
(日下部光吾郎……なんかどっかで見たことあるんだよなぁ)
そんなモヤモヤを持ちつつ、俺は家に帰った。
その後、日下部の執事と名乗る男が家にやってきて、約50枚ものの絵を持っていった。
「日下部さん。物好きな人なんだな」
それから数日後、また公園で絵を描いていると、サイン用色紙を持った男がこちらにやってきた。
「あ、あの………」
「な、なんですか?」
「あ、あ、あ、貴方、城秀仁さんですか?」
「そうですけど」
「で!でしたら!サインを!」
そう言って、男を色紙を差し出した。
「オイオイ、俺と同姓同名の奴と間違えているんじゃないか?」
「いえ、あなたが、あの有名画家、日下部光吾郎の持っている、『風景』の作者なんだろう」
「…………あぁ!」
その瞬間、頭の中である一人の存在を思い出した。
日下部光吾郎。老人でありながらも現代アーティストで、様々な美しい作品を出してきた。さらに、塾もやっており、そこからは沢山の現代アーティストを輩出してきた。
そう。日下部は、自分の持っている審美眼で、俺の絵を買い取ったに違いない。
「あの…サインは?」
「あぁ、今します」
俺は男の色紙にサインを書くと、男は嬉しがった。
「ありがとうございます!このサインは家宝にします!」
男はそれだけ言うと、そこを去った。
(にしても………まさかあの日下部が俺の絵を買い取るなんて…夢にも思わなかった…ケケケケッ)
俺は心の中で狂喜した。
さらに数日後、ニュースを見ていると、ある絵画のオークションがなされたというニュースが流れた。
その絵画は、俺の絵だった。
「はぁ!?」
俺は驚きすぎて、そんな言葉しか出なかった。
そして、買い取られた額は、まさかの1000億。どうやら、その1000億は、俺に支払われるのだとか。
その途端、俺は夢を見ているのかと思っていた。
それから数日後、通帳に書いてある1000億という数字を見ていると、家のインターホンが鳴り、俺は玄関に向かった。
そこには、見たことがある顔がいた。
「よう、秀仁」
「お前……徹か?」
そう、この男こそ、俺の友人、岩松徹である。
「にしてもどうしたんだ?急にウチに来るなんて」
「話は後だ、取り敢えずお邪魔させてくれ」
「あ、あぁ」
岩松は、何か焦っているようだった。
すると、外から怒号が聞こえた。
「ゴラァ!あの野郎!どこじゃァ!」
その怒号は何かを探しているようだった。
リビングに岩松を通すと、彼は話し始めた。
「直球に言うけどさ、俺、借金作ったんだよ」
「借金!?」
「あぁ。その額なんと一億」
「一億!?なんでそんな額を」
「それは…………俺はギャンブルにハマった。ただそれだけのことだ」
「じゃあ、ギャンブルで借金を」
「そうだよ。最初はちゃんとした金融機関で借りてたんだけど、最終的に闇金に手を出してしまったんだ。それで、この間、その闇金から『金を返さねぇと、マグロ漁船に送るぞ』と言われて……」
「それは………お前の自業自得じゃ…」
「それは分かっている。でも、金だけは返したいんだ!もしマグロ漁船に送られたら、死ぬかもしれない……だから……俺の命の為だ!金をくれぇぇぇ!」
すると岩松はポケットから小刀を取り出した。
「お、お前!」
「俺だってなぁ…こんなことをしたくないんだ!だから、今すぐに金を……」
すると、インターホンがなった。
「何だぁ?こんな時に…」
岩松が玄関に向かうと、俺も気になってそこに向かった。
そして、岩松が扉を開けると、そこには、サングラスをかけた金髪のスーツを着た男がいた。
「あ…えっと………」
「おう…岩松。こんなナイフを持ちやがって。色々と豪勢だなぁ!この野郎!」
「す、すいません!マグロ漁船だけは!マグロ漁船だけは!」
「へっ、わかったよこの野郎。じゃあ、タコ部屋送りだよ」
「え………」
「じゃあ、行こうか」
「ちょっ、やめ」
その男は、岩松を連れて、家を出た。
「……助かった…」
そうホッとしていると、急に恐怖感にいざなわれた。
(もしかして……かつての友人が金のために俺の元を訪れるのか!?)
そう考え、俺はできる限りの食料、金、通帳、印鑑、スマホを持っていって、家を出た。
(俺にはできるのは皆が知らない町に行くだけだ。できれば他県に……)
そう思っていると、後ろから肩を叩かれた。
「なんですか?」
そこには、見たくもなかった顔があった。
「久しぶりだな、城」
「貴方は…室瀬先輩」
この男は室瀬貴。俺が通っていた高校の先輩である。
室瀬は、絵の才能が無かった俺をいびりにいびり、一時期不登校にさせた、思い出したくもない男である。
「なぁ、助けてくれ。金を恵んでくれ」
「な、なんで貴方が俺を頼るんですか?」
「俺さ、いまホームレスなんだよ」
「な、何故?」
「俺は大学を卒業したあと、とある大企業に入社した。でも、その会社がすぐに潰れたんだ。だから、その次に色んな中小企業に入り続けた。しかし、どれもこれも俺に合わず全部やめた。そして、今は一文無しさ」
「そ、それがどうしたんですか」
「この通り、金を恵んでくれ!」
すると、室瀬は、土下座をして、俺に頼み込んだ。しかし、この男は自分をいびった男。今更助けてくれなんて虫が良すぎる。
「だめです」
「なら………殺してまでもぉぉぉぉぉ!」
すると、室瀬が俺の首を締めてきた。
「ぐぅ…」
「お前の噂は知っている。なんせ、1000億持ってるんだからなぁ!」
このまま息絶えようとした時、どこからか声がした。
「何をしているんだ!」
「くっ…」
その声を聞いた途端、室瀬は逃げ出した。そして、一人の青年が駆けつけた。
「大丈夫ですか?」
「す、すいません。助けてもらって」
すると、青年は、俺の顔を見ると、ニヤリと笑った。
「貴方…日下部の持っていた『風景』の作者の城か?」
「えっと……」
その瞬間、青年が叫んだ。
「ここだ!ここに城がいるぞ!」
青年の叫びで多くの人々が駆けつけた。
(マジかよ……逃げないと)
俺はすぐに逃げた。しかし、人々はやってくる。
「待て!待って!城!」
「なんで俺は他人からも追われなきゃいけないんだよ〜!」
俺は曲がり角に入ると、追手を撒いた。
俺は考えた。何故友人知人他人から追われなくちゃならないのか。そして、一つの真相に辿り着いた。
それは、売られた絵である『風景』の価値と、俺の価値が同等という事。
あの日下部が持っていたという価値が『風景』に付けられた事により、実質、作者である俺に1000億の価値が付いたのだ。
そして、俺を捕まえれば、1000億という莫大な金を得られるということになる。
俺はすぐに逃げ出そうとした。しかし、それはある一つの車に止められた。そして、その車から一人の紳士が現れた。
「どうも、城さん」
「貴方は、日下部さん」
そう、全ての元凶、日下部光吾郎だった。
「貴方の…貴方のおかげで…俺は何故か追われる身になったんだ!どうしてくれるんだ!」
「ま、待て!これには理由があるんだ」
「理由?」
そう言うと、日下部は語り始めた。
日下部は、画家でありながら、色んな作品を集める趣味があった。
しかし、日下部の住む豪邸のキャパシティが耐えきれず、もう絵を飾れなくなったのだ。
そして、集めた絵を売ろうとして、たまたま選んだのが、俺から貰った絵なのだそうだ。
「そんな理由が……」
「あぁ、私には影響力がある。私の一言で、皆はこのことを止めるだろう」
「わかりました。にしても何故オークションで支払われた金を俺に?」
「貴方への恩返しだよ」
「そうでしたか」
「じゃあ、私は皆を止めるとするよ。では」
それだけ言うと、日下部は去った。
それから数日後、金のために俺に来る者はいなくなった。
なので、安全に家にいられるのだ。
「全く。1000億の為だけに、人は狂うもんだね」
頭を掻きながら、SNSを見ていると、一つの呟きに俺は目を丸くした。
『日下部光吾郎、また城作の絵をオークションで売ったぞ!その額1兆!しかもその金は城に支払われる!』
その途端、家のドアが叩かれる音がした。
「城!いるんだろ!城〜!」
「まずい!」
そう口にした瞬間、ドアが破られた。そして、俺に1兆円の価値が付いた。
「や、やめろォ!ウワァァァァァァァァァ!」
俺は一斉に来た者達に飲み込まれた。
読んでいただきありがとうございました……………




