恨み日記 前編
今回の話は前後編に別れています。お先にこちらをお読みください。
奇妙な世界へ……………
俺は加納昌則。息子の遺品を片付けている男だ。
俺には、芳宏という息子がいた。
芳宏は、目に入れても痛くないくらい可愛く、大人になっても親に親孝行をしてくれる、良い息子だった。
凶報が訪れたのは春の終わり頃だった。
俺の元に電話が掛かってきた。
「はい、加納ですが」
「えぇと、芳宏さんのお父様でしょうか」
「はい。そうですけど」
「警察の者ですが…実を言いますと、芳宏さんは…お亡くなりになられました……」
「へ……」
その瞬間、頭の中と視界が真っ白になった。
その後、警察署に向かい、慰安室に入ると、そこには芳宏と思われる死体が横たわっていた。
「どうやら、暴行を受けていたようで、家でお亡くなりになられていました」
「そうですか……」
俺は、何も感じさえいなかった。
それから数週間後、親族のみで葬式を行った。
「兄貴……」
「あぁ、アイツが亡くなってから数ヶ月経つというのに、神様は俺のことを見放したのか……」
そう、数ヶ月前に妻の理紗子は癌で亡くなっているのだ。
「あぁ、俺はこれからどう暮せばいいんだろうか」
数日後、俺は芳宏の遺品整理を行っていた。
すると、白いノートを見つけた。そこには、明朝体で、『恨み日記』と書かれていた。
「何だこれは?」
俺はノートを開けると、そこに『九条敬輔』と書かれていた。
九条敬輔という名は、見覚えがあった。芳宏の高校の時のクラスメートで、『有限会社クジョウ』の取締役でもある男だ。何故芳宏はこの男の名を書いたのだろうか。
そして、ページを開けると、そこには唾棄すべき内容が書かれていた。
『また九条にやられた。いつも怪我が目立たないようなところにやってくるので、本当に苦しい』
『九条にやられるたびに、俺の傷は増えていく。まるでタトゥーみたいだ。ハハハ…笑えないが』
『あんな男はいつも死んでしまえと思ってしまう。だが、アイツが死んで俺が何か得れるだろうか』
『いったい、学校に言ったほうがいいのか。父に言ったほうがいいのか。しかし、家族に迷惑を掛けたくない。とはいえ、教員に言っても無駄だ。アイツの親父、金が力だし』
など、胸糞悪い内容が書かれていた。
そして、最後の方のページに行くと、こう書かれていた。
『今日は芝実高校の同窓会だった。憎きアイツに会うと、奴は謝らなかった。というより、笑って自分の武勇伝にしていた。取締役にもなっていて、何故神様は天罰を悪い人間に与えないのだろうか』
『夜、後ろから九条に会った。そしたら、ぶん殴られた。理由はうざいからと言っていた。そして、馬乗りされて、何発も何発も何発も何発も。もう苦しい。あぁ、神様、憎き男、九条敬輔に天罰を』
そして、文の最後には、血が付いていた。
「まさか……あの男が……」
俺はすぐに警察署に行き、この事を伝えた。しかし警察は、『そんな事あるわけ無い』と言った。
その帰りの事だった。
「くっ………なんで……なんで…俺は息子のいじめに気付いてやれなかったんだろうか。俺は父親失格だ」
そう絶望していると、男と肩がぶつかった。
「すいません……」
「いや、良いのですよ。そして、息子さんの恨みは、すぐに晴らされます」
それだけ言うと、男はそこを去った。
「何だったんだ…今の?」
それから数日後、昼休みに部下が話しかけてきた。
「部長、部長!」
「どうした?」
「ライバル企業の有限会社クジョウが潰れました」
「何?それは本当か?」
「はい。どうやら、取締役の九条敬輔が、顔がわからない程暴行を受けて、その後亡くなったそうです。そして、次期社長が決まらずに、そのまま…」
「そうか……」
俺は頭の中で、この間聞いた言葉を思い出した。
『息子さんの恨みは、すぐに晴らされます』
もしかして、あの恨み日記とやらは、人の恨みを晴らすものだろうか。
後編に続く。




