治験
奇妙な世界へ………………
俺は室戸知彦。金が無いことを困っているフリーターだ。
俺は元々大企業の社長の息子として生まれた。
金持ちの息子、それは所謂ボンボンであり、俺は金を使い皆を屈服させていた。
しかし、それに怒ったパパが、大学生の俺を勘当した。冬の事だった。
それから俺は親に頼らずに、一人暮らしをすることを余儀なくされた。
その時俺は、心から親を恨んだ。家から追い出され、一人で生きていかなければいけないのだ。
そのため、俺はまだフリーターであるものの、親に対する憎悪だけが溜まっていた。
そんなある日のこと。俺に電話が掛かってきた。相手は不明だった。
「はい。室戸ですが…」
「どうも、私、シバカワ薬品のCEOの三原修哉と申します」
「あのう、ご要件は?」
「はい。実は、我社の方で、治験の募集をしておりまして…」
「治験ですか…」
治験と聞くと、何か怖いイメージがある。薬の副作用で死んでしまったケースもあるため、最初は断ろうとした。
「いや…俺はいいです…」
「そうですか……勿体ない」
「な、何が、勿体ないのです?」
「実は、今回の治験の報酬、ここだけの話、100、いや、500なんですよ」
「ご、500!?」
その途端、俺はこの治験に参加しようと決意した。
「それでもやらないと言いますと…」
「いやいや、やりますやります!どんなものでもやってくださいよ」
「さっ、さっきと違いますね。わかりました。では、7月29日に、職員の者が送迎をさせていただきますので。では」
電話が切れ、俺は狂乱した。
そして、きたる7月29日。家の前に出ると、そこには黒服の男と、リムジンがあった。
「(オイオイ、治験でこんなクルマ使うか?)おはようございます…」
「どうも、シバカワ薬品の者です。では、行きましょうか」
俺はリムジンに乗せられると、もう一人中年の男がいた。
「どうも、兄ちゃん」
「ど、どうも」
「名前は?」
「む、室戸知彦です…」
「俺は池端貴成。金が無い、馬鹿者さ。アンタも金を得るために治験かい?」
「は、はい…」
「俺はこの間、リストラされて、妻と離婚。今では妻と息子に生活費を送る日々さ。だから、俺の生活費はカツカツさ」
「そうですか……まぁ、俺のほうが酷いですよ。元々大企業の息子、所謂ボンボンに生まれて、金を湯水の如く使い続けた結果、金が無いフリーターですよ」
「そうか……」
無言の空気が続くと、急にリムジンが止まった。
「着きましたよ」
社員の無機質な声がリムジンにこだました。
リムジンから出ると、そこには電話の男、三原修哉が出迎えてくれた。
「やぁやぁ、お二人共、待っていましたよ。では、治験室に行きましょう」
そして、俺達は広い部屋に着いた。ただ単にパイプ椅子と長いテーブルしかなかった。
「では、そこの椅子に座って待っててください」
そして、また二人にされた。
「………正直、リスクとか考えてます?」
ここに着いた途端、急に怖くなってきたのだ。金を得れる代わりに死が待っているんじゃないのか。俺は体を小刻みに震わせることしか出来なかった。
「いや、俺は別にそういうのは考えてません」
「そうですか」
「俺はリストラされ離婚された身。失うものなんて、何もないんですよ。死んでも、妻は悲しまないでしょうね」
彼からは、何か悲哀を感じられた。
それからまた数分後、三原が何かを持って、戻ってきた。
「まず最初に、この薬を飲んでもらいます」
「これは?」
「これは酒の酔い醒ましの薬。飲んだ途端、スッキリしますよ」
そして、薬の隣にビールを置いた。
「池端さん。酒の方は?」
「結構弱いね。というより、一口飲んだだけで酔っちまう」
「室戸さんは?」
「結構強い方だぜ。ビール一杯だけじゃ、酔わないな」
「じゃあ、室戸さんは後にして、池端さん。先にやっといてください」
「はい」
池端がビールを一口飲むと、顔が赤くなり始め、頭を抑え始めた。
「ぐっ…頭痛が…」
「だ、大丈夫か?」
「く…」
そして、薬を飲むと、池端の顔は元に戻り、手を頭から放した。
「本当だ。スッキリする」
「す、凄い!」
それと同時に、何かがテーブルに置かれた。
「三原さん。これは?」
「これは、96%のアルコールです」
「96……96!?」
俺は度数の数字に驚いた。
「では、効果をお見せください」
「は、はい」
俺はそれが入ったコップを持ち上げ、飲んだ。その途端、口の中でアルコールが蒸発し、喉が痛くなった。
「ぐっ……」
俺はすかさず、薬を飲んだ。すると、喉の痛みが無くなった。
「す、凄い!一級の酔い醒ましだ!」
「そうでしょう。そうでしょう。では、ここまでが茶番です。次からが本題です。そのための薬を持ってきます」
そして、三原は部屋を出た。
「いや〜これなら次の薬もイケる気がするなぁ」
「あのさ……俺、嫌な気がするんだよ」
「嫌な気?」
「あぁ、もしかして、次の薬は、強烈な物ではないかと」
その時、三原が帰ってきた。
「お待たせしました」
そして、テーブルに二粒の薬を置いた。
「では、この薬を飲んでみて下さい」
そして、薬を飲んだ。
しかし、数分経っても、効果は表れなかった。すると、池端が三原に質問した。
「あのぅ…これはどんな薬ですか?」
「これは…劇薬です」
「劇薬!?」
その途端。急に死にたくないという、意思表示か、暴れだした。
「嫌だ!嫌だ!死にたくない!」
「…………元気に暮らしてくれよ………」
そして、俺達は意識を失った。
三原が部屋を出ると、そこには室戸知彦の父、吾郎がやって来た。
「吾郎さん。終わりましたよ」
「三原。お疲れ様」
「にしても、急になんで実の息子と元社員の人間を消したいと」
「ククク、知彦は、邪魔だった」
「邪魔?」
「あぁ、アイツが居ることにより、私はイライラしていた。そのため、アイツが消えることによって、ストレスは解消さ」
「元社員の池端の方は?」
「三原よ、君もご存知の通り、私は金を横領した。その事をたまたま池端が知っていたというわけだ。念の為に、会社を辞めさせてから出ないと、私の地位が崩れる可能性があるからな」
「にしても、アイツ等はアホだ」
「君からアホという言葉が出るなんて、珍しいな」
「えぇ、毒入りの酔い醒ましの薬をなんの疑いも無く飲むなんてな」
「そうだな。ハッハッハ」
「劇薬と言った薬はただのラムネ菓子だ!ハッハッハ!」
二人は笑いながら雑談を続けた。
読んでいただきありがとうございました…………




