喋る実験台
奇妙な世界へ………………
俺は篠口洸真。東京都の研究所で働く若き研究員だ。
俺は今、とある実験をしている。
遡ること数時間前、俺は所長である荒川慎介に呼ばれた。
「所長、用は何でしょうか?」
「篠口くん。実は君にとある実験の担当をしてもらおうと思ってね」
「なんの実験でしょうか?」
「実は、厚労省が秘密裏に進めている実験があるんだ」
「秘密裏に進めている実験と言いますと?」
「それは、動物、特に人間以外の哺乳類が人間の言葉を話す実験だ」
「はぁ…なんと言いますか…狂っていますね」
「フフフ、研究は少しばかり狂っている方が素晴らしいのだ」
荒川所長は顎髭を少しばかりいじった。
「では、どうやって、その動物に人語を話させることが出来るのでしょうか?」
「フフ、それはね、人間の脳の言語中枢の部分を、その動物の脳に入れるのだよ」
「それは…また狂ってますね…」
「まぁ、厚労省が秘密裏に進めている実験だからな。人様に見せるわけにいかんのよ。この実験だけはな」
「それで、私は何をすればいいでしょうか?」
「その動物と対話してくれればいい」
「期間は?」
「一週間くらいでいい」
「了解しました」
俺は所長室を出ると、俺の所属する部署の部長、相島茂人がいた。相島部長は塩酸の入ったビーカーを持っていた。すると、うっかりビーカーを落とした。右手には一粒の塩酸がかかり、俺は悶えた。
「ぐっ………」
「あぁ…すまない。篠口くん。いやいや、わざとじゃないんだ」
顔を上げると、そこには軽い笑みを浮かべた相島部長がいた。
「いえいえ…大丈夫です………」
俺はそこを去った。
それからして、俺は右手に包帯を巻き、例の動物がいる防音屋に向かった。
部屋に入ろうとすると、一人の研究員に止められた。
「篠口さん。この薬を」
「これは?」
「所長いわく、人語を話せる動物は、人間の脳が聞き取れないほどの音を発しているので、これを」
「効果は?」
「この薬は所謂ドーピングに近いもので、効果は、動物の話す人語を聞き取れる程度に脳の力を上げるものです」
「分かった」
俺はその薬を飲み、部屋に入った。
部屋に入ると、そこにはゲージに入ったチンチラがいた。
(うっ…よりによってチンチラかぁ……)
チンチラには苦い思い出がある。
子供の頃、婆ちゃんが飼っていたチンチラに指を噛まれたのだ。それが原因で、チンチラをはじめ、ネズミやハムスター等のげっ歯類の動物が苦手になったのだ。
しかし、これは研究。昔の思い出など決別し、そのチンチラの元に向かった。
「や、やぁ…」
俺はチンチラに話しかける。まぁ、事情を知らない一般人からしたら、おかしいと思うだろう。すると、チンチラが相槌をした。
「やぁ。アンタが篠口洸真だろう?」
「あ、あぁ…(ほ、本当に喋った……)」
俺はそのチンチラに会話を持ちかけた。
「なぁ、お前、名前は?」
「へっ、俺にだってあるっチューの!名前は、ゲイル。よろしくな」
ゲイルは名前を自慢するかのように前歯を見せた。
「ゲイルよぉ、お前はここにいて、寂しくないのか?」
「へっ、1日3回、餌をやりに研究員の奴らが来るからなぁ。寂しくないぜ」
「そうか。よかった」
「でもよ。チンチラだって大変じゃないんだぜ」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだとも。ゲージという名の箱庭の中で24時間いないといけないんだぜ。唯一の娯楽はこの回し車だけだ。見てみろよ。俺が乗って回転するだけなのに、人間様はかわいい〜って言うんだぜ。不思議だよなぁ〜」
そう言いつつ、ゲイルは回し車に乗って、回転していた。あまり満更でもなさそうだ。
「おっ、こんな時間か。じゃあ、また明日な。ゲイル」
「まぁ、これはあくまで実験。俺様はその実験台さ」
ゲイルが皮肉げに言うと、そのまま眠りについた。
部屋を出ると、所長が出迎えてくれた。
「どうだったか?」
「えぇ、問題無しです」
「そうか、それはよかった。じゃあらまた明日よろしく頼む」
それから一週間、ゲイルは俺の癒やしになった。
正直言って、人語を話せる動物なんて、インコくらいしかいなかったと思っていたが、この実験は成功だと思う。
そして、実験の最終日、俺は例の薬を飲み、ゲイルのいる部屋に入る。
しかし、ゲイルの声はいつもと違った。
「篠口くん。君なんか辞めてしまえ!」
なんと、頭の中に流れてきたのは所長の声だったのだ。立て続けに部長の声が流れる。
「篠口くん、君は役立たずだ!」
「うわぁ!」
「オイオイ!どうした!?」
唐突にゲイルの声が入り、俺は安心した。
「ゲイル…」
「どうした、篠口。どうかしたか?」
「俺は…俺は…部長と…所長にパワハラをされているんだ…」
「パワハラ?」
「あぁ…それは…俺がこの研究所の新人だった頃だ…」
5年前の事。俺は憧れであった、東京都政府研究所に入った。
俺の親父はここの研究所に入り、博士号を取った、憧れの人でもあった。
しかし、親父はとある事件を犯してしまう。
4年前、親父は万引きをしてしまったのだ。
理由は、ただ単に研究所でのストレスを貯めていたからだった。そして、そのストレスの原因は、当時、同期であった荒川慎介とその右腕の相島茂人によるパワハラだった。
無論、親父の博士号は取り消しになり、研究所から追い出されてしまった。しかし、その二人によるパワハラは報道されず、逆に二人は昇進していった。
そして、親父は自責の念で刑務所内で自殺してしまった。
勿論、俺は二人を追い詰めた。
「何故貴方達は罰せられずに、父さんだけが死んでしまったんですか!?」
「篠口くん。この世は弱肉強食だよ。弱いものはやられる。ただそれだけだよ」
俺はその理由に堪忍袋の緒が切れ、荒川に殴りかかろうとした。しかし、その隣にはビデオを撮っている相島がいた。
「はっ!」
「へっ、暴行映像ゲット〜」
「け、消してくれ!」
「フン、荒川さんに殴りかかろうとしたくせに、映像を消せだぁ?それはチョイと虫が良すぎるんじゃないかなぁ〜、篠口くん!」
相島は俺の腹を殴った。
「ぐっ…」
「この映像が晒されたくなかったら、荒川さんと俺の奴隷になるんだな!」
「ハッハッハッ!親子揃ってクズだなぁ!」
「ぐぅ…………」
「そうだ…俺はあの二人に両手では数え切れないほどのパワハラをされてきた…あいつらやっても…大丈夫だよなぁ…」
「あぁ!いいとも!やっちまえ!」
俺は部屋を出た。俺の顔には、鬼が宿っていた。
一方その頃、二人は廊下で話し合っていた。
「にしても、篠口の奴、自分が廃人になっているとも知らず、馬鹿ですねぇ」
「あぁ、本当にに動物が人語を話すなんて、馬鹿じゃないか!しかも、あの薬は脳の力を上げるのではなく、幻聴剤。あの薬の副作用は、毎日一週間使うと、廃人になるんだ!本当にアイツは一生奴隷だな!アッハッハッ!」
しかし、二人は知らない。そこにはビーカーに並々と入った塩酸を両手に持った、俺が居ることを。
二人を削除し、ゲイルのいる部屋に向かった。
「ゲイル!ゲイル!」
ゲイルを見つけ、話しかけた。
「ゲイル!俺…やったよ!」
しかし、ゲイルは、こう言い放った。
「チューチュー」
「ゲイル!おい!ゲイル!人語を話してくれ!ゲイル!ゲイル!ゲイル!ゲイル〜〜〜〜〜…………」
ゲージに手をやると、そのまま倒れた。
読んでいただきありがとうございました………………




