第14章、二つの噂と虐め⑤
どうしても遅刻しがち。
「“…いい加減にしてください。でたらめな作り話に踊らされるなんて、教師失格ですよ。”」
アガサスは自信たっぷりに告げる。
「ハッ、私は噂に踊らされてなんていませんよ。それに、教師失格はあなたの方でしょう?イヴァンシェ先生。…あなた、裏で貴族とプライベートな繋がりがありますよね?それも親密なようだ。なんせ、個人的なお願いを聞いたり、頼んだりするくらいなんですから。」
ルヴァンが何も口を挟まないのを見て、アガサスは畳みかける。
「そこの女生徒が連れている獣魔、その二匹は元々、あなたのものだったはずだ。証拠はある。数週間前に、あなたが所有する獣魔のうち二匹の所有権を手放した、という書類が学園に提出されました。そして、その直後、ある女生徒が二匹の獣魔の所有しているという書類も提出されました。…獣魔の特徴は、全て一致している。あなたがそこの女生徒に譲渡した、ということで間違いないでしょう。…そして、最も気になる点は、その譲渡が、襲撃事件からまもなく行われた点です!」
まるで推理小説かのように嬉々として説明するアガサス。
シェラトリスは何とか弁明・反論したかったが、フィルがルヴァンにこの場を任せている様子を見て、ぐっと堪えた。
肝心のヴァイルとチーナも黙っている。
(それにしても、提出した書類を見ているなんて…。一体、何のために? 噂で私たちのことを疑っているからとしか思えないわ!)
この学園では、獣魔を所有していて学園に連れ込む可能性がある場合、生徒であっても教師であっても、そのことを申告しなければならない。獣魔をきちんと管理できるかどうか、獣魔がもし問題を起こした場合、責任は誰にあるのかをはっきりさせるためである。もし、申告しなかった場合、ペナルティが課されることになっている。
そして、申告書は、申告時に担当の職員がチェックする他、問題が起きた場合に職員や教師がチェックする。つまり、普段、他者が気にするような書類ではないということだ。
それにも関わらず、アガサスがチェックしたということは、ルヴァンやシェラトリスの情報を把握しておきたかったということだ。
ルヴァンをはじめとして、誰一人、口を開かず押し黙っているため、アガサスは調子に乗ってベラベラと己の推測を語る。
「個人的なやり取りは、他にもある!あなた、〈書〉が上手く使えないという生徒のための課外授業として、ある女生徒と頻繁に会っていますね?」
勝ち誇ったような目がシェラトリスに向けられる。
「―――これらに関わっている女生徒というのは、その、シェラトリス・クロノタトンですよ!繋がりがないなんて言わせません!」
その場がしん…と静まり返った。
アガサスの主張が終わったところで、ルヴァンは口を開いた。
「“一つずつ説明させてもらおう。――まず、獣魔の件だ。私は確かに、この二匹の獣魔の元主だが、そもそもこの二匹とは仮契約で、気に入った者が現れるまでは、という条件で仮契約を結んだ。襲撃事件の後で譲渡になったのは、襲撃事件の日に初めてこの子たちが出会い、関わったからだ。経緯を詳しく語るならば、襲撃事件が起こった際に、アスカルト殿下をはじめとする私の担当する部活動に所属する生徒らを守るため、いち早く送った獣魔がこの二匹だったのだ。なぜ私が守る必要があったのかという質問はないな?アスカルト殿下は、私が受け持っている部活動の所属メンバーの一人であり、放課後という部活動の時間だったからだ。ローウェン先生には説明するまでもないだろうが、一応、生徒諸君らにも伝えると、教師はその授業時間によって受け持っている生徒の安全に責任がある。ゆえに、私は獣魔二匹を部活動に送り、その中で、部長であるシェラトリス・クロノタトンにも出会い、気が合ったことで、契約のために譲渡となったわけだ。」
「…では、なぜ、そう公言しなかったんですか?」
どこかからか生徒の質問が飛んできた。
ルヴァンは即答する。
「一教師から獣魔を引き継ぎ契約したとあっては、生徒に良からぬ噂が立つのではと心配したからだ。この二匹は滅多に人前に出ない者たちであったから、このまま静かに譲渡していれば、穏便に済むと思ったのだが、まさか私たちが提出した書類をいちいちチェックしている者がいるとは分からなかった。」
皮肉を込めた回答に、アガサスは不機嫌な表情を浮かべる。
しかし、ルヴァンは、アガサスにまだ口を挟ませない。
「二つ目は、クロノタトンに対する課外授業の件だったな。…知らない者もいると思うが、私もクロノタトンも、〈古書持ち〉だ。〈古書〉は〈書〉と基本的な扱い方は同じだが、使用に抵抗がある場合もある。何せ、別な持ち主が使っていた〈書〉だからな。…そして、〈古書持ち〉は数が圧倒的に少ないがゆえにコミュニティグループが作られている。だからもちろん、私以外にも教えられる者はいる。だが、同じ学園におり、私は彼女にとって部活動の顧問であるために、私が適任だという判断から、課外授業を担当させてもらっている。ついでに言えば、私だけでなく、図書館の〈番人〉らの手も借りている。二人きりで何か企んでいると考えているなら、そうではない、と神に誓って言おう。」
淀みない堂々とした回答に、アガサスは反論できない様子だ。いや、そもそもルヴァンの回答など頭に入っていない。ただルヴァンの態度が気に食わない様子で、アガサスは顔を真っ赤にさせて、ワナワナと震えている。
「うるさい、うるさい、うるさい!!正義面して言葉を並べて……悪党のくせに!悪党がなんで良い思いをして、俺たちみたいなのが苦労しなくちゃいけないんだ!いや、悪党だからか?!悪党がこの世界を牛耳っているからこそ、正しい者は悪としてみなされる…。そうだ、そうだ、そうだったのか!」
支離滅裂な発言に、周囲は引いて行く。
アガサスはそれにも気づかない様子で、ぶつぶつと何か呟きながら〈書〉を構え始めた。
「これ以上、悪党に良い思いをさせてたまるか!!!」
そう叫びながら、魔法を使い始めた。
(何、何が起こってるの…っ?)
シェラトリスは混乱しながら〈古書〉を構えた。
もう少しこの章は続きます。




