第14章、二つの噂と虐め②
「そろそろ教室に向かった方がいい。」
レノの言葉に、四人と二匹は部屋を出る。
〈扉の館〉を出る直前に、シェラトリスは気付いた。
「…うっかりしていました。お二人も、私たちと表立って関わっては、ご迷惑がかかるのでは…?」
シェラトリスの心配の声に、ルチルは微笑み、レノは首を横に振った。
「私たちの心配はしなくていい。私たちは、大切な仲間のために動いているだけだからね。」
「…俺たちは、あんたを…、あんたたちを、守るために傍にいたいだけだ。」
シェラトリスは、レノの言い方に引っ掛かった。
「? フィルのご友人と伺いましたが…、フィルだけでなく、私たちまで守ろうとしてくださるなんて…。本当にありがとうございます。ですが、どうかご自身の身を一番にお考えくださいね。」
申し訳なさそうに告げるシェラトリスの言葉に、今度はルチルとレノがきょとんとして、それからチーナやヴァイルと顔を見合わせた。それから、ルチルは苦笑し、レノは依然としてきょとんとした顔、チーナとヴァイルはやれやれといった様子を見せた。
「いや、俺たちは―――んぐっ?」
「馬鹿! お前、何を言う気だ。」
レノが何か言いかけたが、そこをルチルが妨げた。
「ど、どうなさいました…??」
困惑するシェラトリスに対し、ルチルは安心させるように取り繕った笑みを浮かべる。
「いや、気にしないでくれ。こいつは、少々…、いや、だいぶ、素直なもので…。相手に伝わる言葉で伝えるのが下手なんだ。そのせいで、相手を困らせるのが得意でね…。」
「……ふまない(:すまない)。」
少々 不服そうながらも、反省する点があったのか、レノはすぐに謝罪の言葉を口にした。
そして、口を塞ぐ手を払って、レノは真剣な目でシェラトリスに告げる。
「…俺たちの家は、白黒どちらの主義にも関係ない中立の家だが、王家への忠誠が強い。そして、同じく王家に忠誠を強く誓う精神が強い家は、仲間だと考えている。――オルヴェーヌ家は、クロノタトン家の味方だ。」
「っ、クロノタトンを信じてくれるのですか。〈白ノ魔女〉一族で、こんなに悪い噂の絶えない家だというのに。」
二人は力強く頷く。
「もちろんだ。」「もちろんさ」
「クロノタトン家は、悪い家じゃない。むしろ、影で王家に尽くし、表でも国に尽くし、弱き者を守る、善き家だろう。」
「それだけじゃない。家なんて関係なく、私たちは、何があっても君たちを助けたいと思う気持ちがあるんだ。」
(ああ…!なんて、なんて優しい人たちなんでしょう…っ!)
クロノタトンに味方するメリットはない。それどころか、デメリットしかないだろう。それなのに、無条件で味方をするというその言葉をかけてくれる、その真摯な優しさが、シェラトリスの心を温めた。
「言ったはずだ、必ず助けになると。」
「迷惑がかかる、なんて気にしなくていい。私たちは、他者からの目なんて気にしないのだから。」
力強い言葉に、シェラトリスは泣きそうな目をしながら感謝の言葉を伝える。
「ありがとうございます…!」
そして、それぞれの校舎が近付いたところで、先輩の二人は別れて行った。
「…オルヴェーヌ家ほどの方々が、堂々と味方になると言って下さるなんて、心強いですね、シェラトリス様!」
エルルフが感動した様子でそう語り出した。シェラトリスは「ええ」と頷く。
「それにしても…、シェラトリス様は、本当にすごい方々をお引き寄せしますね。」
エルルフは不思議そうに首を傾げる。
「最近 会う方々みーんなが、シェラトリス様に優しいじゃないですか。性別も種族も関係なく、初対面であの入れ込みよう…はっきり言って、異常です! …あ、最近と言わず、昔からフィルがそうですけど。フィルも…、普段はあんな突拍子もなくて、おかしなことばかりする困った奴ですが…それでもやっぱり、王立研究院に所属するくらい賢くてすごい奴ですし。」
その言い方から、エルルフがフィルを普段は“すごい奴”ではなく“困った奴”と認識していることが分かり、シェラトリスはこっそり苦笑した。
(いつもご苦労様…エルルフ。)
フィルによって厄介ごとに巻き込まれがちなエルルフを、シェラトリスは心の中で労った。
思えば、最初はシェラトリスの前ではガチガチに固まっていたエルルフも、今ではすっかり打ち解けたようで、変な緊張もしなくなり、リラックスした雰囲気を出すようになった。それでも使用人上がりの感覚は残っているようで、へりくだった態度は崩さない。だが、いい加減に、下位の家柄の者がいても自分が一番下というような立ち回りの仕方はやめた方がいい。
シェラトリスは、襲撃事件の際のエルルフの立ち回りを思い出して、それを指摘しようかと思ったが、率先して動けるというのは、エルルフの美点でもあると考え直し、それを口にしなかった。きっとエルルフも自覚しており、自分の立ち位置を模索中なのだ。
「私が引き寄せているのかしら? …いいえ、きっと偶々よ。本当に…人に恵まれているわ。」
「いえいえ、何を仰るんですか。会う方々ほぼ全員が、初対面なのに、シェラトリス様に会えて涙するほど喜んだり、傍にいたいと言っていたり…。こんなこと、普通じゃあり得ませんよ!絶対に、シェラトリス様には、他者を惹きつける力があるんですよ!」
エルルフがキラキラとした目でシェラトリスを見る。すごいすごいと褒められ、シェラトリスは少し頬を染めて肩をすくめる。
「恥ずかしいわ、エルルフ。本当に、私の力じゃないと思うの…。」
シェラトリスがそう言った直後、ずっと周囲を警戒していたヴァイルとチーナが大声で叫んだ。
「「危ない!!!!」」
咄嗟に自分の周りに防御魔法を展開したシェラトリスとエルルフだったが、その必要はなかった。一番外側に張られていた、チーナの強力な防御魔法によって守られたからだ。
「獣魔が二匹…。本当に、ルヴァン先生と懇意ですのね。」
二人と二匹は、警戒心を一層強め、攻撃してきた相手を見つめた。
そして、シェラトリスはその者の名を呟いた。
「―――リリシィ・ラトクルフ様。」
数名の取り巻きを引き連れ、その令嬢は忌々し気に告げた。
「あなた方はこの学園に、この国に、相応しくありませんわ!!」
そして、堂々と宣戦布告をする。
「―――消えてくださいまし!!!!」




