第13章、増えた友人⑤
「シェラトリス様、待って。」
チーナが警戒の声でシェラトリスを呼んだ。
シェラトリスは、ドアノブを掴んだ手をそのままに、チーナに視線を向ける。
「…何か、ある?」
チーナは杖を取りだし、その先端でドアをチョンチョンと突く。すると、ドアの真ん中に顔一つ分の穴が開いた。しかし、その穴の中はゆらゆらと揺らめいていて、どこか現実感がない。それもそのはず、チーナの魔法でドアを透かして、その向こう側を見えるようにしているだけだ。
「…誰かいる?」
バッチを見るに上級生のようだ。それと、紳士服のようなものを着用しているが、体型的に女性だろう。
「ああ、あの二人か。」
チーナが穴をシェラトリスの目線より少し上に移動させ、顔を確認した。
案の定、ルチルとレノだった。
「大丈夫だね。」
ヴァイルがそう言ったのを合図に、チーナが魔法を解除した。そして、シェラトリスがドアを開ける。
そこは学園の廊下で、やはりルチルとレノが目の前に立っていた。一足早く到着していたらしいエルルフもいた。どうやら、先ほどの魔法で見えた視界の範囲外に立っていたようだ。
「皆さま、おはようございます。」
「「おはよう、シェラトリス様。」」
「おはようございます、シェラトリス様。」
シェラトリスが挨拶すると、二人の先輩はにこやかに挨拶を返した。エルルフも笑みを作ってはいるが、いくらか緊張したような不安げな表情だ。
(皆どうしたのかしら…。)
シェラトリスは「私に何かご用でしたか?」と訊ねた。
すると、三人は顔を見合わせ、どこか悩むような表情を浮かべた。そして、結局、年長のルチルが口を開いた。
「…よくない知らせがある。」
「…!」
ため息を吐いてルチルが言った言葉にシェラトリスは身構える。
「……今朝から、校内が騒がしいと思って耳を傾けていただが…、どうやら、クロノタトン家に関する悪い噂が流れているみたいだ。」
「えっ…?!」
シェラトリスは目を見開き、思わず驚きの声を上げた。
「心配に思って君の〈扉〉に向かえば…人が集まっていたから、蹴散らしたんだ。それからは牽制のためにここにいたんだが…次々と人が来る。何をするつもりだと問い詰めれば、君に真相を訊ねようと思っていたなどと言う。だが、はっきり言って、君を問い詰めるだけで終わるとは思えない。……俺たちが言うまでもないと思うが、…気を付けたまえ。」
ルチルがシェラトリスを心配している様子が伝わってきた。それはシェラトリスにとってとても嬉しいのだが、なぜクロノタトン家の悪い噂が流れているのか、どういった噂が流れているのか、気になることが多くて仕方ない。
「…! エルルフ、あなたは?大丈夫だった?!」
エルルフは慌てて手を振った。
「僕は大丈夫です! …実は今日は、フィルに言われて朝早くに学校に来て、研究室に籠っていたんです。そろそろシェラトリス様が来る時間だと思ってこちらへ来ようとしたら、人に絡まれてしまったんですが…すぐにこの方たちが助けて下さったので、特に問題はありませんでしたよ。」
「…ちょうどこちらへ来る途中で会ったんだ。危険な香りがしたために、声をかけさせてもらった。」
エルルフの説明の後、レノが淡々と補足説明した。
「まぁ…。ルチル様、レノ様、本当にありがとうございます。」
「礼には及ばないよ。…しかし、学園が通常運営になってすぐにまた不穏な空気になったな…。」
「授業がなく、生徒同士の交流も限られる中、ここまで広く噂が広がっているのはおかしい。―――きっとまだ、敵は潜んでいる。」
ルチルとレノの言葉に、シェラトリスは緊張感を高めた。エルルフも顔を真っ青にする。
「二人とも、一人で行動しないように。いいね?」
「…はい。」「はい…!」
「チーナ、ヴァイル、主をしっかりお守りするように。」
「「もちろん!」」
ルチルは頼もしく微笑む。
「ルヴァン先生やフィル、私たちが、敵に関する調査を進めたり、安全対策を講じたりしている。必要以上に不安に思うことはないからね。…ただ、」
そこで言葉を切り、ルチルは微笑みを消した。真面目な顔で、シェラトリスを見つめる。
「―――しばらくルヴァン先生には表立って関わらない方がいい。君にとっても、ルヴァン先生にとっても。」
(…え?)
驚き固まるシェラトリスに、レノが口を挟んだ。
「―――噂は、クロノタトン家だけでなく、ルヴァン先生に関しても流されている。」




