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古の魔法書と白ノ魔女  作者: 紀ノ貴 ユウア
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第13章、増えた友人④

 遅刻の常習犯になってしまっていますね…いつもすみません…。

「行ってきます。」

「「「行ってらっしゃいませ。」」」

 玄関(げんかん)ホールで整列し、騎士と使用人は(あるじ)を見送る。


 ここ最近までは、学園で襲撃事件が起こったことから、特別な許可を取って専属騎士が一人だけ護衛として付いて行っていた。しかし、本日から学園が通常運営になるため、シェラトリスは護衛なしで登校することに決めたようだ。なぜかというと、ただでさえ〈白ノ魔女〉として注目を浴びるというのに、護衛まで連れていたら悪目立ちしてしまうと思ったからだ。護衛騎士を連れて校内を歩き回っていたら、リリシィあたりが難癖(なんくせ)を付けてくるだろう。いや、そうに違いない。


 とは言え、シェラトリスは、先日の襲撃事件の(ねら)いの一人であったため、専属騎士としては、まだ(あるじ)(そば)にいて警護(けいご)したかったというのが本音である。

「…。」

 (あるじ)への心配から、ユアンが未練(みれん)がましそうにその背中を見る。彼は、専属騎士の中で一・二を争うほどシェラトリスへの忠誠心が高いと言っていい。ゆえに、誰よりもシェラトリスの安全を心配していた。


(…あ…!)


 人前で決して声を出さないユアンは、心の中で静かに反応した。

 シェラトリスの肩の上、そして(うで)の中から、騎士たちに向かって、軽く手を振ったり()き上げたりしている小さな存在を目にしたのだ。まるで「任せて」と安心させるようなジェスチャーである。

(大丈夫、だね。頼んだ、よ。)

 ユアンは緊張を()き、こちらを見る二匹に小さく(うなず)いて、それを返答とした。


「さあ、行くわよ。チーナ、ヴァイル。」

 シェラトリスに声をかけられ、専属騎士たちと無言の会話をしていた二匹は、シェラトリスへと視線を戻す。

「はぁい!」「うんー。」


 そしてシェラトリスは、〈(とびら)〉の向こうへと姿を消した。


 短い期間ですっかりシェラトリスに(なつ)いている様子の二匹の姿を見て、ユアンは、シェラトリスと二匹が獣魔契約をした日を思い出した―――。






 ―――それは、ユアンが、護衛騎士として初めて学園に付いて行った日の出来事だ。ユアンはその後、何回かシェラトリスの護衛のために共に学園に行ったが、その最初の日に、シェラトリスが初めて獣魔と契約するという貴重な場面に立ち会うことができた。


 シェラトリスの獣魔契約には、護衛のユアン、シェラトリスに契約をさせることを(たくら)んでいたフィル、シェラトリスと契約する獣魔の(もと)(あるじ)であるルヴァンが立ち会ったのは当然として、他に、なぜか面識(めんしき)のない二人の先輩が付き添った。ルチルとレノというその二人の女子生徒とフィルは知り合いで、シェラトリスに引き合わせたかったとフィルは言ったが、なぜその後の獣魔契約にまで連れてきたのか、ユアンには分からなかった。


 いや、フィルの思考はいつもユアンには分からない。フィルは、(あるじ)に害を()す者は近付くことも許さないというスタンスを取りながらも、その(あるじ)を自身の突飛(とっぴ)な発想・行動に巻き込み、驚かせることもある。ユアンは、その破天荒(はてんこう)さに警戒心を(いだ)くこともあるが、フィルは、仲間として一番信用している人物でもある。

 ユアンは、とても警戒心が強い。忍びの家系に生まれ、隠密業(おんみつぎょう)を小さな子供の頃から仕込まれたことが、直接 影響している。警戒心だけでなく、(かん)(するど)い。危機察知や気配を読むこと、表情や話し(かた)から性格・思考を読むことなどができなければ生きていけない世界にいたからだ。その能力を用いてフィルを見ると、思考は読めずとも、性格は(うかが)い知ることができた。

 そのユアンが思うに、フィルは相当な苦労をしてきたはずだ。もしかすると、虐待(ぎゃくたい)まがいの訓練を受けてきたユアン以上に、死地(しち)(くぐ)り抜けてきたのかもしれない。よくフィルを知らない者は、フィルのことを狂っていると言うが、確かにそういうところはあるものの、フィルはその狂気を上手く制御(コントロール)しているとユアンは見ている。何か恐ろしい体験で心を壊したが、それ以上に強い気持ちが心の支えとなって、理性や正気の形を(とど)めている、と。その“強い気持ち”というのは、当然、シェラトリスに関係しているだろう。フィルの行動原理を分析すると、自分を犠牲(ぎせい)にしてでも守りたい存在ということがひしひしと感じられる。

 傷付いた心が(あるじ)の存在によって支えられている、何があっても(あるじ)を必ず守りたい、ということは、とてもユアンに似ていた。ゆえに、ユアンは、フィルのことを信用しているのである。


 しかし、似ているとは思うものの、ユアンは、フィルが自分以上に使命に全力を注いでいることが気がかりであった。それをなぜか初対面で見抜き、「フィルに注意してあげなさい」「あの子はいつか使命のために燃え()きてしまうだろう」と予言めいた忠告をしてきた者がいた。そう、あの日、ルヴァンの助手と名乗った少年・レオンである。

 ユアンは、あの少年が只者(ただもの)ではないことを見抜いていた。子供の姿をしているが、本当はもっと大人だろう。油断(ゆだん)(すき)もない雰囲気があった。ユアンは唐突(とうとつ)に話しかけられた時、かなり警戒した。しかし、シェラトリスやその周囲に害を()意図(いと)はないだろう。フィルのことを忠告してくれたあたり、敵ではないと見ていいかもしれない。


 敵ではない、というと、あの姉妹もそうだ。初対面で獣魔契約という重要な場面に付き合うと聞いて、その距離の()(かた)に驚いたが、姉妹がシェラトリスにとって有益(ゆうえき)な情報を手に入れる可能性があると知り、確実にシェラトリスの味方かどうかを判別するのに、しばらく様子を見ようと考えた。しかし、シェラトリスと挨拶(あいさつ)した際の様子や、シェラトリスと二匹が契約を結ぶ際に見せた、そっと(かげ)から見守る保護者のような表情や雰囲気(ふんいき)を見て、フィルと同じようにシェラトリスに強く肩入れしているのを感じ、警戒を(ゆる)めた。


 さて、肝心(かんじん)のシェラトリスが契約した獣魔についてである。元はルヴァンの獣魔だったが、仮契約を()いて、出会って間もないシェラトリスと契約し直した、奇妙な経緯で仲間入りした獣魔たちである。動物であること、まだ会って少ししか日が()っていないことから、ユアンはまだこの二匹のことを分析しきれていないが、フィルと仲が良く、シェラトリスへの忠誠心も高そうで、きっと信用できるとユアンは考えている。何より、契約があるため、(あるじ)たるシェラトリスに不利益になるようなことはしないという安心感もある。それに加えて、二匹は仲間意識や協調意識が強いのか、シェラトリスの周囲の人間に対して積極的に親交を深めようとしているようで、可愛(かわい)がってくれるララノアや、話しやすいモーリスやルナナだけでなく、寡黙(かもく)なレナードや全く(しゃべ)れないユアンにまで、自然体で歩み寄りを見せる。その言動からは、純粋に仲良くなろうという気持ちが感じられ、ユアンは二匹を好ましく思い始めていた。



 だからユアンは、二匹を信頼してシェラトリスを学校に送り出した。



 ―――しかし、学園内は、予想していなかった悪い事態になっていた。

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