第13章、増えた友人③
お待たせしましたーーー!!
「えっ…?フィル、今…?」
狼狽えた様子のシェラトリスに、フィルは何でもないような表情で軽く首を傾げながら告げる。
「これからシェラトリスには獣魔契約してもらうんだよ。この二人はその付き添いに―――」
「待って、フィル。私、そんな話 聞いてないわ!」
「そう。直前に伝えた方がいいと思って言わなかったんだ。だって、シェラトリス、不安になって色々悪く考えちゃうだろうから。」
当たってはいる。当たってはいるのだが。
「そ、そんな重要なことは、前もって言ってくれないと困るわ!第一、私には契約するような獣魔なんていないじゃない!」
「いるよ。チーナとヴァイル。」
「チーナとヴァイルはルヴァン先生と契約してるでしょ!」
「契約は解除するって。というか、もう解いちゃってるんじゃない?」
「そ、そんな…!」
シェラトリスは青ざめ、ルヴァンを見る。視線を向けられたルヴァンは「落ち着け」とでも言うように、手をシェラトリスに向けてかざした。
「“元より、二匹が望む主に出会えるまでという約束で仮契約していただけだから、案ずるな。”」
「せ、先生! で…ですが、チーナとヴァイルだって…。」
「“問題ない。二匹も君を主にと、強く望んでいる。”」
「!!」
ルヴァンにきっぱりそう言われては、シェラトリスも反論の余地がない。
「~~~っ。」
しかし、あまりの重大事項にシェラトリスは何か言おうと口をパクパクさせる。
(なぜ、こんなことを急に?!)
「わ、私にはまだ、獣魔契約は必要ないと思います。それに、獣魔契約をしなければならないような状況でもないかと…!」
何とかそう語るも、ルヴァンもフィルも首を振る。
「“必要、不必要などではなく、あの二匹が望んだことだ。”」
「この前、初めて顔を合わせた時に一緒に戦ったでしょ?それで、シェラトリスの元に行きたいって思ったんだって。」
(二匹が望んだこと…。それなら、断ってはかわいそうよね…。)
獣魔契約を受け入れつつも、やはり躊躇いの残るシェラトリスを見かねて、ルチルとレノが口を挟む。
「…私たちは、チーナとヴァイルをよく知っているが、あの二匹は共にいて心が和む。それに実力もあるから、きっと君の助けになる。傍においてやったらどうかな…?」
「…心配はない。…どうか契約を結んでほしい。」
周囲は、シェラトリスに何とか二匹と獣魔契約を結んでほしいようだ。
その理由は分からないが、シェラトリスには獣魔契約を断るためのはっきりとした理由がないため、獣魔契約を受け入れるしかない。
「……分かりました。ですが、一度、チーナとヴァイルの話を聞いてから決めたいと思います。」
シェラトリスの言葉に、周囲がほっとしたのが分かる。
「“契約の儀をする部屋に移動しよう。そこでチーナとヴァイルを待たせている。”」
ルヴァンの言葉にシェラトリスは「はい」と頷く。
するとそこで、今まで静かにしていたレオンが一歩前に出た。
「…それでは、私はここで失礼します。フィルと交代で見回るよう言いつけられていましたので。」
そう言ってルヴァンをちらりと見上げた。
「“ああ、頼んだ。”」
レオンは頷いて、何もない空間から〈書〉を取り出し、ページを開く。
「またお会いしましょう、では失礼。」
自己紹介の時と同じように仰々しく礼をし、レオンは不敵な笑みを湛えたまま、パタンと〈書〉を閉じた。すると、それと同時にレオンの姿が消えた。
ルヴァンの助手を名乗るだけあって、年齢以上に魔法の腕が良いようだ。
「さ、行こ、行こ!」
フィルのかけ声により、皆は移動する。
「どこへ行くのでしょうか?」
「“図書館だ。ソフィニア様に話をしてある。”」
儀式というと、ホールを思い浮かべるが、今回は違うらしい。
「ホールだと他の人もいる可能性があるでしょ?人目に付くのもどうかと思って。」
これからシェラトリスが契約しようとしている二匹は、元はルヴァンの獣魔だ。それに、学生が一度に二匹も契約を結ぶなんてことは滅多にない。というか、前例を探す方が大変なくらい、そうないことだろう。確かに、人に見られてあれこれと騒がれたくはない。
道すがら、シェラトリスはルチルと他愛もない話をした。普段はどう過ごしているのか、とか、何が好きか、とか、フィルに困らせられていないか、とか。途中、フィルやレノが口を挟み、和やかに会話をしているところで、目的地に到着したようだ。
「おお、待っていたぞ。」
ソフィニアが大らかな笑顔でシェラトリスたちを出迎えた。
図書館の中には、ほとんど人がいなかったが、全くいないわけでもなかった。
「こっちだ。」
ソフィニアに案内され、図書館の奥に進み、とある一室に入る。
広々とした部屋の中央、テーブルクロスの敷かれた机の上に、例の二匹はいた。
「「こんにちは、シェラトリス様!」」
二匹はシェラトリスを見て嬉しそうに尻尾を振った。何の服飾品も身に付けておらず、ヴァイルに至っては、包帯も巻いていない。傷痕もないので、どうやら魔法で怪我を治してもらったらしい。
「シェラトリス様、あのね…。」
チーナが真剣な目でシェラトリスを見つめる。
「アタシたちと契約して、主になってほしいの!」
「…。」
「お願いします。ボクたち、シェラトリス様の傍にいて、シェラトリス様を守りたいんだ。」
前足をシェラトリスの手に重ね、じっと見つめる二匹。
シェラトリスは重々しく口を開いた。
「本当に、私と契約したいの…?」
二匹は力強く返事をする。
「「うん…!!」」
(どうしてそこまで、私に…。)
シェラトリスは、なぜ二匹がそこまで自分と契約したいのか分からない。フィルと出会った時も、レイラやヴィゼ、ルチルとレノに出会った時もそうだ。初対面、もしくは出会ってすぐに、彼らは皆、シェラトリスを見て何か運命を悟ったかのような顔をする。何か大きな感情を抱き、それを自分に向けてように思えてならない。だが、シェラトリスには分からない。そうされる所以が分からない。
だが。
(―――契約しましょう。)
シェラトリスは受け入れる。彼らの悲しみや喜びをごちゃ混ぜにしたような表情を見て、決意の目で見つめられて、そうせずにはいられないのだ。
「―――分かったわ。契約しましょう。」
説得の言葉を飲み込み、シェラトリスは折れる。
その言葉に、二匹の目は輝いた。
そして、ルヴァンとフィルに教わりながら、獣魔契約の儀を執り行う。
無事に契約が交わされ、飛びついたチーナとヴァイルを慌てて抱き留めるシェラトリスの姿に、どこか羨望するような眼差しで釘付けになっている者たちがいたことを、シェラトリス本人は知らなかった。




