第12章、綱渡り③
「え?ここでですか?」
「ああ。まぁ、報告会みたいなものだよ。アンドロは、あの日の話を知らないだろう?正式な部員になったことだし、やはり情報共有はしておくべきだと思うんだ。それに、それくらいは学校じゃなくてもできるからね。」
「なるほど、メンバーも揃っていることだし、私たちはこの状況でやれることも少ないし、それもいいかもしれないわね。」
そうして、シェラトリスの家で部活が始まった。それは、文献調査や議論が中心のいつもの活動とは違い、ティータイムと情報共有を兼ねたもので、メンバーはそのことを新鮮に感じながら代わる代わるメロディに説明して聞かせた。
第一に、公的書類保管庫での出来事について。
…資料読解を進める中、休憩としてロマやルースリーフ、王立研究院のレイラ、ヴィゼ、ローズマリンと共にティータイムを過ごすことになったこと。王立研究院から〈白歴史研究会〉へ、研究の協力が要請されたこと。
第二に、王立研究院が行ってきた魔女・魔力研究の実験について。
……黒ノ魔女が魔力を与えたり世話をしたりして関わった魔法生物の保有する瘴気は多くなること。反対に、白ノ魔女の場合は瘴気量が減ること。
第三に、事実が秘匿されてきた歴史について。
……ハーシュの時代にはすでに、魔法災害の原因が黒ノ魔女にあることが分かっていたこと。ハーシュの本当の名はシュア・キュロンターンと言い、シェラトリスの祖先に当たること。本当は、シュアは悪人などではなく、当時の王子の婚約者として国のために働いたが、世の流れのせいで悪役となってしまったこと。
第四に、〈古書〉の元の持ち主の記憶を見ることができることについて。
……〈古書持ち〉の中には、ルヴァンのように〈古書〉から記憶を見ることができる者がいるということ。シェラトリスの〈古書〉の元の持ち主は、ハーシュの混乱の当事者であり、シェラトリスが〈古書〉からその記憶を読み取ることができれば、謎の多い歴史の真実が見つけ出せるかもしれないということ。
メロディは、口を挟む回数は少なかったものの、表情をコロコロと変えながら聞いていた。
「じょ、情報量が多くて何が何だか…。」
混乱した様子のメロディは、自分がいなかった日の出来事を全て聞き終えると、そのような感想を零した。
「混乱するのも無理はありません。私なんて、とてもショックを受けましたもの。」
「シェ、シェラトリス様の祖先に当たる方…だったんですね。」
恐る恐るといった様子でシェラトリスに視線を向けるメロディ。
「そ、その…クロノタトン家にそれを裏付ける資料か物か、残ってないのでしょうか…?」
「それが…全く残っていないのです。」
シェラトリスは、記憶を巡らせる。
「調べたところ、キュロンターンという貴族家は確かに存在していたようですが、混乱期に滅んだようです。クロノタトン家はハーシュの混乱直後に、王家の信用があって侯爵と宰相の地位を得たようで、それ以前の記録…、キュロンターン家との繋がりを証明するものはありません。…そもそも、混乱期は滅んだ家も失われた記録も多く、その後の国家立て直しで、滅んだ家・生まれた家に一々(いちいち)注目する暇もなかったのか、詳しい情報がないんです。」
「王家やクロノタトン家どころか、他の家にも記録がないという報告だ。シュアとハーシュが同一人物であることを隠そうとして、王家やキュロンターン家が徹底的に記録を消した可能性が高いな。」
「そうですね…。ここまでハーシュの過去について情報がないと、やはり、事実を隠そうとした存在がいると思います。」
「そう言えば…クロノタトン家は、王家と親密な関係だと伺ったのですが…それはいつからなのでしょうか?」
それまで少し考え込むような様子を見せていたレイベルが口を開いた。
「クロノタトン家が生まれた時からずっと、だそうです。ハーシュの混乱を鎮める際に一役買ったとかで、最初からかなり親しかったようです。平和な時代ではそれほど手を取る機会もなく、親密さも薄れたようですが…昨今は…。」
「「「……。」」」
先ほどの襲撃を思い出し、皆黙った。平和な世ではないということを、身を持って知ったばかりだ。
(もう3時間は経つわね。)
疲れからか、もっと時間が経っているように感じたシェラトリス。メンバーの顔を見ても、やはり全員、疲れ切った顔をしている。
その時。
「しっつれいしまーす。」
気の抜けるような声がノックと同時に聞こえたと思うと、ヴァイルとチーナを抱えたフィルが入ってきた。続いて、肩にメアを乗せたルヴァンが「“失礼”」と一言 言って入ってきた。
「あっ、ルヴァン先生!」
生徒は一斉にルヴァンの元に駆け寄る。
「先生、大丈夫でしたか?」
「“ああ。私もフルーウさんも怪我はない。お前たちは無事だったか。”」
「フィル以外は大した怪我はしていないのですが…。申し訳ありません、ヴァイルが足を怪我してしまいました…。」
「ボクの怪我はボクが注意散漫だったせいだよ!気にしないで!」
シェラトリスが謝罪したため、慌ててヴァイルが弁明した。ルヴァンはヴァイルの頭を優しく撫でる。
「“分かっている。…ヴァイルのことは大丈夫だ。君たちは気にしなくていい。”」
そして、レイベルとメロディを見た。
「“ノーア、スティルグ、アンドロ。私が〈扉〉まで付いて行くから、お前たちは家に帰りなさい。”」
「は、はい。」「はい。」「わ、分かりました。」
呼ばれた三人は頷いた。
「先生、学校はどうなっていますか…。」
アスカルトがやや緊張した面持ちで尋ねた。
「“襲撃者は全て捕まえるか追い払った。今はもう安全だ。怪我をした者も治療を受けている。安心しなさい。”」
「ありがとうございます。」
「…“君たちには確認したいことがある。話はこの三人を送った後で。――ではひとまず失礼する。”」
ルヴァンはそう言うと、三人を連れて行ってしまった。ヴァイルとチーナはフィルの元に残されたままだ。




