第11章、きなくさい空気④
かなり長いです。
チーナを肩に乗せたフィルが先陣をきり、その後ろをシェラトリスらが付いていく。
部室のある研究棟を出ると、壁に沿って別な建物の影へと身を移す。食堂やカフェ、購買などが入った〈店の館〉だ。
(校庭は身を隠す場所が少ないから、選ばなかったんだな。)
アスカルトは、外に出たことで周囲への警戒を募らせながら、そう考えた。
このメンバーの中で、魔女だけに限定すれば、フィルが一番強い。魔法の知識、扱いの上手さだけでなく、頭の回転の早さや戦闘のスキルも飛びぬけて高いのだ。
その次は、シェラトリスとアスカルトだろう。アスカルトは命を狙われることが多いことから、シェラトリスは彼ら王族を守る臣下として、幼い頃から鍛えられてきたからだ。同じくクレーメンスも鍛えられているが、若さゆえにまだ二人には追い付かない。
レイベルの魔法の実力は未知数だが、トップの成績を誇る。しかし、どれだけ優秀でも、フィルを超すことはないだろう。
エルルフは、自己申告した通り、魔法の腕や戦闘はまだ未熟だ。クロノタトン家の使用人だった頃は、その身分相応の教育と自衛のためのある程度の戦闘指導は受けていたが、貴族の仲間入りをして、それに相応しいレベルには至れていない。
メロディは、魔法の実力は不明だが、病弱ゆえに走ることもままならず、戦闘力がゼロなのは明らかだ。
陣形は、この戦力を考慮してのことだろう。
(護衛対象の王子二人と主、弱い二人を守るように上手いこと配置したな。)
フィルの意図を、フルーウも悟っていた。その采配に、心の中で頷く。
(まあ、合格点じゃな。)
〈店の館〉を慎重かつ素早く壁沿いに進めば、一年生から四年生までが使う校舎――第一校舎に差し掛かった。
「―――。」
「――――。」
フィルとチーナが小声で何か話している。
その時、エルルフが叫んだ。
「伏せて!!!」
皆は咄嗟に身をかがめ、フィルとフルーウ、チーナとヴァイルが防御結界を張った。
次の瞬間、バチっと何かが結界に当たって爆ぜた音がした。煙が視界を塞ぐ。
「チッ…。」
フィルが舌打ちをした。
「皆、もっと固まって!」
ヴァイルが声を上げた。
フィルの元へと集まり、状況を確認する。
「誰かが爆弾を投げてきた。手榴弾系だと思う。」
「どうする?敵に居場所がバレているんじゃ?」
フィルがエルルフを見た。
「エルルフ、視える?」
エルルフは頷く。
「空を飛んでいるやつがいる。爆弾はそいつに落とされたんじゃないかな。あと、少し離れたところに…あ、いや、あれは図書館か…。―――あっ!!!」
目をキョロキョロと動かし、どこか遠くを見渡すエルルフ。いきなり叫び声を上げた。
「校庭から〈扉の館〉に近付いて来るやつがいる!!」
「なに、どちらの館かね。」
フルーウが据わった目でエルルフに問いかけた。
〈扉の館〉は、職員用と学生用に二つある。
「ええと…職員用ですね。あ、誰か追いかけて…。」
「…仲間だよ。」
通信していたヴァイルが顔を向けた。耳がすまなそうに後ろに倒れている。
「寮から来た侵入者の一部が、なだれ込んでいるみたい。ごめんね、ルヴァンと仲間たちだけでは人数が多すぎて少し逃がしちゃったみたい。」
「あいつが取りこぼすなんて珍しい。」
フィルがそうポツリと言った。が、誰かがツッコむ前に次の言葉を発する。
「このまま学生用の館まで行くよ。エルルフ、館を守護しているヒトがいるでしょ?」
「えっと…そうだね。あのおばあさんが…起きて、戦ってる…。」
どんな光景を見ているのか、エルルフが目や口を開けて驚いている。
「ああ、きっとそれは〈番人〉のステファニーだ。」
どこか誇らしそうにフルーウが言う。
「どれ、では君たちを館に入れた後、吾輩は彼女に加勢するとしよう。さぁ君たち、今度は吾輩の後ろをついてきたまえ、裏口から入れてしんぜよう。フィル君、チーナ君、ヴァイル君、君たちはもう少しの間、結界を張っていなさい。」
フィルたちが頷いた。それを合図に再び陣形を組み直す。フルーウは最前列に、フィルはチーナをシェラトリスに預けると、最後尾に回った。
煙が晴れる。爆弾を投げてきた襲撃者の位置が分かった。
もちろん、敵もこちらの位置が分かっている。
「さぁ、付いて来なさい!!」
フルーウが猫とは思えぬ早さで走り出した。皆、全速力でその後を追う。
魔力の籠った弾丸が降り注ぐ。三重にかけられた防御結界が、傘となってその下にいる者たちを守る。
ダダダダダダッッ……と、弾をはじく凄まじい音が響く。
「これでもくらえ~っ!!」
シェラトリスの肩にいたチーナが、ずっと斜め掛けに背負っていた自分の身長ほどもある杖を構え、頭上の敵に向かって魔力光線を放った。
それは見事に三重の結界を“破壊することなく突き抜けて”敵の身体を貫いた。こんな高等な魔法はなかなかできない。チーナが持つ杖の性能か、フィルの芸当か。一体どんな魔法なのだろうか。
威力の強い魔力光線を放つ反動で傾ぐ小さな小さな身体を、シェラトリスは片手でそっと包み、支える。
(さすが、ルヴァン先生の使い魔ね…。)
とんでもない武器を持っている。
「さぁ、こちらだ!」
フルーウが、学生用の〈扉の館〉の正面入口から見て左側面の奥に行き、壁に手を付いた。
「ここを通り抜ければ非常用階段がある。それを使って上に行き、好きな〈扉〉に入りなさい。」
フルーウが手を付いたところに、ぽっかりと穴が開いた。
「ありがとうございます、フルーウさん―――」
シェラトリスがお礼を言いながらくぐろうとしたその時。
「奥を見て!!」
再びエルルフの叫び。
正面口の裏手側…シェラトリスたちが進んできた反対方向から、誰かが回り込んできた。ぶかぶかのマントで全身を覆い、頭には仮面を付けている。侵入者だ。それも三人。それぞれの手には〈書〉が抱えられている。
侵入者は、学生と獣魔の集団に気付くと、〈書〉を構えた。ひとりでにパラパラとページがめくられている。
「……っ!!」
シェラトリスは一歩前に出て〈古書〉を構えた。その身を盾にしてでも、クレーメンスやアスカルトを守らねばならない。
敵が雷を降らせてきた。一瞬だけ遅れて、シェラトリスが火の球を次々と敵に向かって放ち、チーナがその腕の上で魔力光線を放つ。
「シェラトリス様!」
クレイが声を上げる。自分も〈書〉を構えてシェラトリスの援護に回ろうとしている。
「先に行って!」
シェラトリスは振り返らず、後ろにいる仲間に声をかけた。
「でも…!」
「クレイ、早く入れ!」
アスカルトに促され、クレーメンスははっと気付いた。ここで時間をかけてしまえば、よりシェラトリスを危険に晒すのだと。
「すみませんでした…!」
クレーメンスが留まるのを諦めたことを察し、ヴァイルとレイベルが先に穴に入る。間髪入れずにクレーメンス、アスカルトが穴に入り、その後をメロディを背負ったエルルフが入る。
「さあ、後は私に任せて、君たちも行きなさい!!」
フルーウが壁に手をついたまま叫ぶ。
「っ…。」
シェラトリスは早くアスカルトたちを追いかけねばと分かっていたが、敵の絶え間ない攻撃に、自分はいつ攻撃をやめればいいのかタイミングを掴めずにいた。
「シェラトリス。」
声と同時に、シェラトリスの腰に手が添えられた。フィルだ。
「いっせーので攻撃をやめて、穴に入って。その後、フィルも結界を閉じて行くから。」
「分かったわ。」
シェラトリスは、フィルへの信頼感を込めて返事をした。
「3…、2…、1…、い―――」
フィルが「いっせーの」を言い切る前に、氷の槍が頭上から降り注いできた。
「チッ…。」
フィルが舌打ちをする。シェラトリスも攻撃を続けた。
(どうしましょう。これじゃ、どんどん危険になるだけだわ…。)
一刻も早く、アスカルトらを追いかけなければ。そう思って焦り始めたその時。
「行け!!」
頼もしい声が聞こえた。刹那、シェラトリスとフィルの横を、様々な動物が凄まじいスピードで駆けて行った。
「“お前たち、大丈夫か?”」
背後の声に、シェラトリスは顔を向けた。
「ルヴァン先生…!」
シェラトリスは安心して攻撃をやめた。フィルも防御結界を閉じる。
「遅い。」
悪態をついたフィル。ルヴァンは「“すまない”」と謝罪する。
「“侵入者は思っていた以上の人数と手練れだ。だが、すぐに片付ける。フルーウさんを借りたいから、早く行きなさい。”」
「あとは大丈夫だから、君たちも早く!」
フルーウも、こちらを見て急かしている。
「せーの!!」
合図を告げるフィルと共に穴に入り込むシェラトリス。穴の先、階段を数段上ったところで、身をかがめて仲間が待っているのを視界に入れる。すぐに振り向けば、閉じていく穴の先で、フルーウの身体がみるみる大きくなっていくのが一瞬だけ見えた。
「シェラトリス様!」
自分を呼ぶ声に、シェラトリスは仲間の方を振り向いた。
「ええ…!!」
シェラトリスは、階段を駆け上がり、レイベルの隣に並んだ。
「行きましょう!!」
申し訳ありませんが、しばらくは投稿できない日も出てきそうです。ご了承ください。




