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古の魔法書と白ノ魔女  作者: 紀ノ貴 ユウア
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第11章、きなくさい空気➀

 午前中の授業が終わり、昼休みに入った時間。

 偶然ぐうぜんにもメロディと会い、シェラトリスは声をかける。

「ごきげんよう、メロディ様。お身体の調子(ちょうし)(もど)られましたでしょうか?」

「ごきげんよう、シェラトリス様…。」


 先日、資料庫での調査に、メロディは参加しなかった。いや、参加できなかった。本人は参加に乗り気だったのだが、前日に体調を(くず)し、大事(だいじ)を取って欠席することになったのだ。


「だいぶ調子(ちょうし)が良くなってきたので、登校できました…。先日はすみませんでした。」

 申し訳ないという気持ちが前面に出た表情と態度で、メロディは謝罪の言葉を口にした。

「いえ、お身体の具合が悪かったのですから仕方(しかた)ないことでしょう。」

「ワタシ…いつも、いつも突然(とつぜん)このように休んでしまって…。たぶんきっと、これからも迷惑(めいわく)をかけてしまうと思うのです…。ですから…。」

「そんな時はどうぞご無理むりなさらず…。前回のように、学外での調査の時は、私かクレイ…あとは、エルルフやフィルでも(かま)いませんから、ご連絡くだされば大丈夫ですよ。」

 シェラトリスは、連絡用に、自分と、その他すぐに連絡が取れる身内の名を挙げた。本当はアスカルトもすぐに連絡が取れるが、王家とクロノタトン家が親しいことは知られていないため、候補こうほに入れるわけにはいかない。

「え…。」

 メロディは軽く目を見開いた。

「ワタシ…まだ、研究会にいてもいいんですか…?」

「? ええ、もちろん。…そうだわ、正式に入部してくださいますか?部員でないと、一緒に行動するにも許可と手続きが大変で…。」

 シェラトリスは苦笑した。先日の調査の許可取りの際、メロディだけ正式な部員でなかったため、面倒(めんどう)な手続きを踏んだのだ。それも徒労(とろう)に終わってしまったが。

 メロディは目を(うる)ませた。

「い、いいんですか?ワタシ、ほとんど部活に行けないかもしれないですよ…?」

「ええ、体調が良い時だけでも来てくだされば。」

「お役に立つどころか、ご迷惑めいわくをかけるかもしれないです…。」

「そんなことはないですよ。――実は、私の〈古書〉が…どうやら特殊(とくしゅ)な事情のある(かた)の〈書〉だったようで…。他の〈古書持ち〉の(かた)のお話を聞きたいと思っているんです。それに相談したいこともあって…。年齢(とし)の近い(かた)なら、お話ししやすいでしょう?同じ学園に通っていることですし。」

 メロディは何やら引け目を感じているようだ。シェラトリスは、貴重な〈古書持ち〉仲間を(のが)したくはないと、熱心に勧誘(かんゆう)する。

「それに、欠席が多いことで遠慮(えんりょ)なさっているなら、ご心配なさらないで。フィルなんて、好きな時に来て、いつの間にか消えていますから。」

「ですがそれは、王立研究院のお仕事があるからでは…。」

「それは確かにそうですが…。かけなくていい迷惑(めいわく)をかけていることは、ご(ぞん)じでしょう…。」

「…。」

 メロディの回答に困った様子(ようす)が、全てを物語っている。


 メロディが直接 被害(ひがい)にあったことはない。しかし、男子組…特にエルルフとルヴァンが、フィルの実験という名の悪戯(いたずら)やお遊びによく巻き込まれているのを見ている。王子であるアスカルトや年の(はな)れたクレイが巻き込まれていることもあり、それを目撃(もくげき)した時は、メロディは冷や汗が止まらなかった。


「…入部するには、どうすればいいでしょうか…?」

 メロディがおずおずと切り出した。それを聞いて、シェラトリスはにっこり笑った。

「放課後、部室に来てください。入部届を用意してお待ちしております。」

「はい…!」

 メロディの白い頬に、赤みが差した。




 メロディと別れ、シェラトリスは図書館へと移動する。

 いつもはこの時間、クレーメンスやエルルフを始めとする、研究会メンバーと共にゆっくりと昼食を取るのだが、今日は(ちが)った。

 今日は、ルヴァンとソフィニアに〈古書〉を使うためのサポートを受けることになっている。以前、宮殿でレイラ、ヴィゼ、ローズマリンの三人を紹介してもらった際に、個人指導すると言われ、その後、ルヴァンと日時を調整し、今日に(いた)ったのである。

(確か…ソフィニア様に声をかければいいのよね。)

 図書館に入って正面奥、大きなカウンターに目当ての人物はいた。

 シェラトリスがそこへ近付く途中(とちゅう)、相手は気付いたようだ。梯子(はしご)から飛び降り、ふわりとドレスやローブの(すそ)(ひるがえ)し着地する。分厚(ぶあつ)絨毯(じゅうたん)()いてあるとはいえ、成人男性ほどもある高さから飛び降りればかなりの音がなるはずだったが、全くの無音だった。

「待っていたぞ。さあ、こっちへ。」

 カウンターの内外を(へだ)てるゲートを開け、ソフィニアは手招(てまね)きした。


「宮殿の資料庫はどうだった?王立研究院にも行ったんだろう?」

 図書館職員、教師、図書委員と思わしき生徒が()()うバックヤードで、ソフィニアはシェラトリスに(たず)ねた。

「資料庫は図書館とはまた(ちが)った雰囲気(ふんいき)で驚きました。それに、興味深い資料がたくさんありました。ですが、やはり専門的なものばかりで…読み解くのに難しいところもありました。」

「その顔を見るに、有意義(ゆういぎ)な時間を過ごせたようだな。」

 ソフィニアはニヤリと笑った。

「はい。」

 シェラトリスは即答(そくとう)した。

「王立研究院の方々(かたがた)を(しょう)(かい)して(いただ)いて、研究に関して重要なお話も聞けましたし…。それに、」

 シェラトリスは胸の前で自身の両手をぎゅっと(にぎ)った。


「〈古書〉を使いこなすための、明確な目的も(しめ)して(いただ)きました。」


 今までシェラトリスは、〈古書〉を使うのが(こわ)くて(こば)んでいた。もちろん、ハーシュの〈書〉であることに起因(きいん)する。この〈古書〉を使うことでハーシュという悪人の思考・精神に引っ()られ、自分の手が悪に染まるのではという気持ちがあったのだ。

 しかし、ハーシュは本当は大罪人などではなく、当時の王子の婚約者――シュアという名のクロノタトンの先祖(せんぞ)だと聞き、考えが変わった。王家(くに)を救おうとして悪役にならざるを得なかったご先祖様は、一体何を思ってその役を(えん)じていたのだろうか。それも、もし言い伝えられているハーシュの最期(さいご)が真実だった場合……彼女は…。

 ―――婚約者とその側近(そっきん)に、()ち取られたはずだ。


(歴史の真実を…確かめなきゃ。)

 シェラトリスにはそれができる。

 ルヴァンが言うには、〈古書持ち〉は前の持ち主の記憶きおくを見ることができるのだから。



「―――それは良かった。」

 ソフィニアはとても優しい表情を浮かべた。いつも(りん)としている彼女には(めずら)しい顔だ。

「そなたは、〈古書〉で魔法を使うことに前向きな気持ちを持つことができるようになったみたいだな。」

 その言葉からは、シェラトリスを気に()けているソフィニアの気持ちがまざまざと感じられた。

「…はい。」

 シェラトリスは照れくささを(まじ)えて返事をした。

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