第10章、危険な秘密⑥
こちら、涼しい日が多くなってきました。皆さまの住んでいらっしゃる地域はどうでしょうか?
「“王家が危機感を抱きながら敵勢力への対策を考え、ささやかな抵抗をしている中、とうとう事件が勃発した。先ほどノーアとスティルグに答えてもらった、二つの襲撃騒動だ。国はたちまち混乱し、王家はキュロンターンの家に避難した。そして、国のため、王子やシュアは、密かに首謀者の居場所を突き止めて粛正することを決めたのだ。”」
王族の非難先。シェラトリスとクレーメンス、アスカルトの三人は、心当たりのある話にどきりとした。
「“正体を隠すため、偽の人物を作り上げた。シュアの場合、それがハーシュだ。彼女は誰よりも活躍したために、その偽名が広がってしまった。”」
(ハーシュというのは偽名だったのね…。)
「“偽名で方々(ほうぼう)を駆け回り、敵勢力を次々と弱体化させることに成功したが、そのうち、敵勢力が起こした事件もハーシュのせいになってしまった。王子側も随分 手荒な真似をして敵勢力を削いでいたためだ…。第三者側からは、敵勢力と王家陣営が起こした事件に、大して差などなかったのだろうが…。そのせいで、シュアは大罪人というレッテルを貼られてしまった。”」
「なぜ…なぜ、撤回しなかったのですか。」
シェラトリスは、か細い声で質問した。先ほど泣いたせいで、声がしゃがれているのだ。
ルヴァンは軽く頭を垂れた。
「“…敵の目を欺くため、何も知らぬ国民を守るため、偽名を使って敵と戦い始めたのは良かったものの、その架空の人物の物語は一人歩きを始めてしまった。‘全ての問題はハーシュという魔女によって引き起こされたもの’だと、人々の怒りの矛先になってしまったのだ。…もちろん、途中で訂正することを王子たちは考えた。真実を暴露することも。だが、国を立て直し平和な世をもたらす、という一番の目的のためには、王家や貴族社会にさらに不信感を募らせるようなことはどうしても避けなければならなかった。王位継承が問題で王族・貴族が分裂していると知られれば、国民まで争い始めるかもしれない…。ゆえに、一人の悪人のせいで国が乱れているということにした方が、王家にとって都合が良かったのだ…。敵も、自分たち以外の誰かに注目が集まる方が都合が良かった。―――これで分かっただろう。‘大罪人・ハーシュ’とそれにまつわる歴史は全て偽りだと。”」
そして、ルヴァンは一呼吸おいて、これまでの話を一言でまとめた。
「つまり…シュアは…、王家の威信を取り戻すため、平和な世を築くため、犠牲になってしまったのだ。”」
重い沈黙。
誰も言葉を発せられぬ中、シェラトリスは、静けさを打ち破る。
「…では、本人は…、シュアは、自分が悪役になることについてどう思っていたのでしょう…?」
「“…自ら進んで悪役を引き受けたようだが、彼女の本当の心の内は分からない。…これは、ヴァリオ王子の〈書〉だからな。私は…、それから記憶を見ているに過ぎない。”」
(そう、よね。他人の心のことが覗けるわけではないもの…。いくら彼女の婚約者でも、本心なんて分からない…、わ…よね…?)
何かが心の中で引っ掛かった。
(今…先生は、何ておっしゃった?)
“他者の心は分からない。”
そして、
“〈古書〉からヴァリオ王子の記憶を見た。”
つまり。
「私に…〈古書〉で…元の持ち主の記憶を見ろと…?」
「“…そうだ。”」
シェラトリスに強い衝撃が走った。
「“全員がそうというわけではない。が、稀に、前の持ち主との親和性や〈古書〉に込められた魔力との共鳴などによって、〈古書〉に刻まれた記憶や思いを見ることができる。”」
(なら…私は、シュアの記憶を見ることで…シュアが何を思って悪役になったか知ることができるかもしれない…?!失われた歴史の真実を知ることができるかもしれないわ…!)
シェラトリスの目の色が変わったのを見て、ルヴァンは彼女が何を考えているか分かったようだ。
「“クロノタトン嬢、君の〈古書〉の持ち主は……私と同じ、ハーシュの混乱の当事者だ。”」
ルヴァンは、シェラトリスの〈古書〉の元の持ち主がハーシュもといシュアだったことを濁した。それは、未だシェラトリスの〈古書〉が誰のものだったか知らない者がいることからの配慮だった。
「“分かるね?君は、その人物の記憶から、謎多き歴史を紐解くことができる数少ない人物だ。”」
「…はい。」
シェラトリスはゆっくりと立ち上がる。周囲に支えられて。
「―――私が、歴史の真実を見つけ出します。」
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