第2章、おかしな休日①
「「「行ってまいります!」」」
「三人とも楽しんでらっしゃい。」
シェラトリスは、馬の上から手を振った。ナルフェーリヤも、笑顔で三人に手を振った。
馬を走らせたアスカルトの後ろを、シェラトリスとクレーメンス、三人のお付きの者たちが続く。
向かう先は〈月の林〉である。空から見た時、月の形に木々が茂り、その中心を通るように長い川が存在することから、その名が付いた。この時期、暖かな日差しと様々な花の匂いが最高に心地良いのだ。
数十分走らせ林に着いたところで、川に沿って歩き出した。
「見て、あそこ。魚がたくさんいるみたい!」
少し開けた場所に馬を木に繋いでいる最中で、シェラトリスが声を上げた。
「よし、ここで魚捕りをしよう。」
「勝負をしましょう!」
アスカルトは腕まくりをし、クレーメンスは帽子を脱いだ。
「制限は?」
「そうだな…。僕とシェラトリスは水魔法と風魔法の二つのみ、クレーメンスはその二つに加えて土魔法もあり、と言うのはどうかな?」
魔法で魚捕りの勝負を始めるにあたってルールを決め、それぞれ離れた位置に移動した。
「誰か、時間を計ってくれ。」
アスカルトはお付きの者に声を掛けた。
「分かりました。十分経ちましたら、お知らせいたします。」
アスカルトの護衛に付いてきた騎士の一人が、名乗りを上げた。
「それでは…スタート!」
クレーメンスの合図で三人は一斉に魚を捕り始めた。
「シェラトリス様、頑張ってください!」
「ええ、ララノア。…だけど、場所が悪かったみたい。魔法を使いやすい所になかなか魚が来ないわ。」
「大きいのを狙いましょう、総重量で勝敗を決めるのですから!」
「そうね!」
シェラトリスの傍で、付いてきたララノアが邪魔にならない程度に応援をしている。
シェラトリスは、大きな魚を引き寄せるように水魔法を操り始めた。
一方、クレーメンスは。
「う~ん…一つ魔法を使うと、もう一つがおろそかになってしまう…。」
思うように魔法を使えず、苦戦していた。
「クレーメンス様、狙う魚によって、同時に使う魔法の数を減らしても良いと思います。ほら、先程の魚は大した大きさも強さもないので、水魔法だけで捕れますよ。」
「あ、あの魚は見かけによらず、なかなか手強いですよ。始めに土魔法で逃げ場をなくしてから、水魔法か風魔法で一気に地上に上げてしまった方が良いですね。」
隣から、クレーメンスの騎士二人がそれぞれアドバイスをした。
「なるほど…。」
クレーメンスはシェラトリスとアスカルトの方をそれぞれ見た。二人は巧みに魔法を使いこなしているようだ。
「私はまだまだだね…。」
クレーメンス付きの使用人が近寄り、会話に混ざった。
「今までは全魔法を使用して良いことになっていたではありませんか。制限を設けたということは、クレーメンス様の魔法が上達なさったとアスカルト殿下がお思いになったに違いありません。見込みがあると考えなければ、選択肢を減らすようなことはしませんよ。」
そもそもクレーメンスの魔法の腕は、決して悪くない。むしろ魔法の上達は早く、同年代の他の子と比べて、習得の勢いが凄まじい。
しかし、クレーメンスのすぐ傍に、さらに上をいく者がいるせいで、当の本人は己の腕の良さを理解できていなかった。
(お兄様は、私に期待してくださっているのかな…。)
「そうだね、私もお二人に追いつけるよう頑張るよ…!」
そう意気込んで土魔法を放った。
「今です、風魔法を!」
クレーメンスは、周りの者たちの知恵を借りて、順調に魚を捕り続ける。
また、アスカルトは。
「魚が捕れすぎて、面白みがなくなるな…。」
誰よりも魚を捕っていた。一匹一匹はそれほど大きくないが、数が尋常じゃない。
「場所が良かったのでしょう。クレーメンス殿下とシェラトリス嬢は少し手こずっているご様子……大人気ないですよ、アスカルト様。」
クレーメンスとシェラトリスに残り時間が半分であることを伝えに行っていたアスカルトの騎士が、戻ってくるなり口を挟んだ。
「一人は同い年だ…。まあ確かに、こんなハイスピードで捕れていたら、勝負の面白みがない。よし、ここからは、種類を限定して捕るか。」
「余裕ですねぇ?調子に乗って負けても、知りませんよ。」
「お前は誰の味方なんだ…。」
怖いもの知らずの騎士の軽口に邪魔されつつ、アスカルトは魚捕りを楽しんでいる。
現実では、こんなにホイホイ魚は釣れませんね。ダンジョンに湧く魔物をイメージして書きました。
〈追記 2021年11月7日〉
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