第10章、危険な秘密②
「白歴史研究会の皆さんは、歴史を研究するために、その前提として魔女比較の研究をなさっているのですよね?」
ある程度ティータイムを楽しんだ頃、ロマがにこやかにそう切り出した。
「ええ。」
「調査は進みましたか?」
クレーメンスがティーカップを置いた。
「全国の領土のデータを限りなく集めて比較したところ、やはり白髪の魔女が多く住む土地では、そうではない土地に比べて、魔法災害の数が少ない傾向にあることが分かりました。」
「そして、すでにこのことに気付いていた研究者たちによって、白髪の魔女と黒髪の魔女の魔力の性質の違いについて研究がされていたことも知りましたね。」
「それと、魔力が魔法生物に及ぼす影響についての研究では、白髪の魔女と黒髪の魔女がそれぞれ管理した魔法生物で違いが見られた、という実験があったとか…。」
クレーメンスに続き、レイベルとエルルフが補足説明をした。
会話にうんうんと頷くローズマリン。
「それで、考察は?」
シェラトリスが答える。
「やはり、魔法災害の原因は黒髪の魔女の魔力にある、もしくは、白髪の魔女の魔力が魔法災害の抑制に繋がる、と考えられるかと。」
「黒髪の魔女と白髪の魔女で、魔力の性質にこんなに差があるとは…と言うより、すでにそれに目を付けて研究をしていた者がこれほど多くいるとは思わなかったな。なぜ、こんなに重要なことが大々的に研究されていないのだろうか?」
アスカルトがそう発言した。
「「「…。」」」
〈番人〉たちとルヴァンが意味深に視線を交わした。フィルは無関係かのようにクッキーを口に放り込んでいるが、誰とも目を合わそうとしない。
「それはだな…。」
ルースリーフがやや重苦しそうに口を開きかけた。しかし、彼が言葉を紡ぐ前にローズマリンが真剣な目で口を挟む。
「―――研究はしていました。」
大人たちが語るのを躊躇う中、ローズマリンは、淀みなく説明する。
「何百年も昔から、魔女の魔力のせいしつについて、ひそかに研究はされていました。でも、その研究内容や研究成果が発表されることはさけられました。そうしなければならなかった理由は、黒しじょうしゅぎしゃのせいです。」
シェラトリスたちの目の色が変わった。
「一部のかげきな黒しじょうしゅぎしゃは、黒髪である自分たちの立場がおびやかされるのをおそれたのか、それとも、それまで低くみていた白髪の魔女のひょうばんが上がるのをきらったのか…、ともかく、この研究を国家きかんなどの大きなそしきがやろうとしたり、こじんレベルで研究していた学者が公的な場で発表したりしようとすると、すぐにいやがらせや、ひどいぼうがいをするので、しだいに、魔力のせいしつにかんする魔女ひかくの研究にふれることはむずかしくなってしまったんです。」
「とくに近年は、黒至上主義者のうごきが“再び”活発化しているから、きけんだ。あまりこの研究に手をつけようとするするものはいないな。」
ヴィゼがそう付け加えた。
「ですが、昨今の王立研究院は違います。」
レイラがにっこりと告げた。その言葉に、ローズマリンとヴィゼは胸を張る。
「これまでもこっそり研究が進められていましたが、ルヴァン様やフィルが研究に加わってからは、飛躍的に進み、さらにローズマリンが研究院に入ってからは、堂々と研究できるようになったのです。」
「それは…なぜでしょう?」
レイベルが尋ねた。
「ルヴァン様やフィルに関する説明は後でなされるでしょうから、ローズマリンについてだけ軽く説明させていただくと、ローズマリンは、王族の血を引く子なのです。」
そこで皆がアスカルトに注目した。クレーメンスとヴィゼだけはローズマリンの様子を見ていた。
アスカルトは頷いた。
「遠い親戚ではあるけれど、彼女は確かに王族の血を引く者だよ。隔世遺伝か何かなんだろうね。」
「……。」
あまり快い話ではないのか、ローズマリンは眉を寄せ、唇を噛んで軽くうつむいている。
「…事情があって王家が保護しているよ。」
アスカルトは多くを説明しなかったが、ローズマリンの様子を見て考えるに、ローズマリンにとって何か良くないことが起きたことは容易に想像がついた。
「話を戻しますと、所長であるローズマリンが王族の血を引き、なおかつ王家の保護を受けているので、黒至上主義者たちも、なかなか正面から魔女比較の研究を中止させることはできないのです。」
「なるほど…。」
(王家の威光が弱くなっているとはいえ、さすがに連中も真正面から対立したいわけではないのだろうな。)
アスカルトは内心、苦笑した。
一同が納得したところで、ルヴァンが口を開いた。
「“ではそろそろ、その研究の真髄を見せよう。”」




