番外編2、フィルの過去と夢➀
先週は投稿できず、すみませんでした。
適当な部屋の中に入り、フィルは抱えていたヴィゼを下ろした。
“あいつ”の姿を見て動揺した姿をローズマリンとシェラトリスに見せないために、こっそり連れ出していた。
「フィル…あの方…あの方は、あるじさまの…。」
ヴィゼはぶつぶつと呟きながら、頭を押さえたり、顔を上げて“あるじさま”のいる方角を見たり。
「思い出した…そうだ、ぼくは…。…ということは、あの方は…ぼくらの…?」
こうなることは予感していた。なぜなら、フィルもそうだったから。
初めてシェラトリスと出会った時、色んな感情に襲われて、涙が出た。
夢の中の人が実在していた。生きていた。それだけで、苦しかった日々も報われる思いがした。
夢の中の人は、オレたちにいつも優しくて、可愛がってくれて、大切にしてくれた。シェラトリスは、容姿もさながら、掛けてくれる言葉や示してくれる態度の一つ一つが夢の中の人と重なった。間違いなくその人だと思った。
…でも、違うかも。
長く共に過ごすうちに、そう考えるようになった。今ではもう、確信に近い。
「フィル、フィルはあの方のことを言っていたのか…?フィルが言っていた、“夢の人”は、“あるじさま”のことだったのか…?フィルは、前のきおくをいつから―――。」
「ヴィゼ、違う。」
ヴィゼの言葉の途中で、フィルは言った。
「フィルの “夢の人”は、シェラトリスじゃないかも。なんか…なんか違う。」
“夢の人”は、とても強い人だった。いつもはっきりとした“自分の考え”を持っていて、一度決めたら絶対に揺るがない人だった。決断力と行動力のある、立派な先導者だった。
でも、シェラトリスは違う。
シェラトリスは、自分の考えにいつも不安を感じている。だから、周りに支えられて動いている。そして、それを微かに自覚していて、仲間の存在を頼りに行動する。無茶をすることもあるけど、自分一人で全てを背負おうとはしない。
そこが、あの方と違う。
フィルは、この国で生まれた者ではない。
ずっと昔、まだ幼かった頃に、保護されてこの大陸にやって来た。
あの頃は、いつも夢を見ていた。“夢の人”の元で、幸せに平穏に暮らす希望。
あの頃は、よく夢を見ていた。知らない世界と、経験したはずのない生活。
楽しい幸せな夢と、苦しくて悲しい夢。
夢の中のフィルは、犬だった。銀毛と赤い目を持つ大きな犬の獣魔だった。主は、白髪と紺目の少女。シュアという名の娘だった。
フィルは、いつもシュアの傍にいた。一緒に屋敷の庭を走ったり、拙者の背中に乗せて狩りに出たりした。毎日ごはんやおやつの時間を共にしたし、たまに学校に付いて行ったりした。シュアはたくさんの獣魔がいたから、拙者は仲間とも遊んだりケンカしたり働いたりして、とても充実していた。
…それなのに、世の中は真っ暗で、シュアもその婚約者の王子も、いつも命の危険にさらされていた。シュアの飲み物に毒が入っていることもあったし、王子の側近に成りすました暗殺者がいたこともあった。フィルたちは、王子の獣魔たちと協力して、いつも二人を守っていた。
シュアたちは、世の中を変えようと頑張っていた。それでも、一向に世界は明るくならなかった。皆がどれだけ頑張っても、世界は危険で溢れていった。王族や貴族の中にいた王位簒奪を企む者のせいで、シュアたちはどんどん追い詰められた。
―――だから、大罪人は生まれた。
フィルは全て知っている。夢の中の出来事は、いくつか現実とリンクしている。そして、夢と歴史では大きく異なる点がある。フィルは分かる。夢を見て、知ってしまった。“歴史”はきっと、作られたものだと。




