第9章、それぞれの調査⑤
「えっ…ヴァリオさん…?」
すぐ傍にヴァリオが立っていた。
いつの間に部屋に入っていたのか。いや、違う。
「ルヴァン先生…?」
ヴァリオをよく見ると、その身にまとう衣服は、紛れもなくルヴァンのものだ。
シェラトリスは、はっと気付いた。
(部屋に入った時、ルヴァン先生は今いるヴァリオさんのところに立っていた…。)
―――ということは、つまり。
「今まで隠していてすまなかった。私はルヴァンであり、ヴァリオなんだ。」
「そ、そうだったのですね…。」
シェラトリスは驚き、つい他の者の反応を見た。
しかし、シェラトリス以外は知っていたようで、フィルでさえも驚いた様子はなかった。むしろ、フィルとレイラはシェラトリスに注目していたようだ。視線がばっちり合った。
「??」
シェラトリスが困惑していると、レイラが口を開いた。
「ローズマリン、例の物をルヴァン様に。ヴィゼ、準備を。」
「はーい。」
ローズマリンが、自らの肩に下げていたポシェットから小瓶を取り出すと、ルヴァンに手渡した。
一方、ヴィゼは、どこからか手鏡を出現させ、ルヴァンの正面に立った。それは、子供が持つには少し大きく、両面に鏡が付いているという変わったもので、それがヴィゼの魔法道具なのだろうとシェラトリスは察した。また、ルヴァンも自らの〈古書〉を手に、ヴィゼと向き合った。
そこでフィルがシェラトリスの肩を掴み、ルヴァンとヴィゼから引き離す。シェラトリスは、今からこの三人が何をするのか見当もつかないが、他の皆は分かっているようだ。
「よろしくお願いするよ、ローズマリンさん、ヴィゼ。」
「はーい!」
「りょうかい、した!」
二人の返事を合図に、ルヴァンは片手で〈古書〉を開き、もう片方の手で小瓶を〈古書〉にかざした。
「髪と目の色がこの〈書〉の人に変わるお薬になーれ!」
ローズマリンの呪文に、一瞬で小瓶の中の液体の色が変わった。
ルヴァンは、〈古書〉を閉じて小脇に抱えると、小瓶のふたを取り、中の液体を飲み干した。
すると、すかさずヴィゼが手鏡を両手で掲げるようにしてルヴァンに向け、ルヴァンの顔を鏡に映した。
「変身、許可!」
すると、鏡から強い光が放たれ、ルヴァンを包んだ。しかし、瞬きをする間にその光は収まり、シェラトリスはルヴァンを見つめた。
何と、ルヴァンが黒髪と金色の目になっていた。その色の組み合わせは、皇族のものである。
「…クロノタトン嬢、この姿に見覚えはないだろうか。」
真剣な顔で、ルヴァンはシェラトリスに問うた。
「皇族、の色ですね。」
「…この顔に、見覚えは?」
「ええと……その、ほんの少し…雰囲気がアスカルト殿下に、似ているような…?」
何と答えればよいのか分からず、シェラトリスはまごついた。
そんなシェラトリスの顔を、ルヴァンはしばらく、ただじっと見つめていた。
(私…何か試されているのかしら?)
シェラトリスは一生懸命、記憶の中を探るが、やはりこの色をまとうルヴァンの顔、もしくは近い顔に覚えはない。
(ヴァリオさんが、ルヴァン先生だったなんて…。)
性格があまりにも違って見えていたが、どちらが本当の“彼”なのか。
シェラトリスはふと、この親しみやすい穏やかな “ヴァリオ”の顔で、“ルヴァン”の厳しい物言いをする姿を想像し、思わず苦笑いを浮かべた。
(なんだかしっくりこないわね。同一人物だなんて、やっぱり信じられないわ…。)
シェラトリスが一人心の中で問答していたところで、ルヴァンが呟いた。
「…そうか。」
ルヴァンは、シェラトリスに向かって安心させるように微笑んだ。その顔に一瞬、複雑な感情が浮かんだようにシェラトリスには見えた。が、シェラトリスが口を挟む間もなく、話は進んでいく。
「急にこんなことを聞いて申し訳ない。驚かせてしまっただろう。」
「え、ええ…。」
「実は、〈古書〉の持ち主は、前の持ち主の記憶を垣間見ることがあるんだ。とても稀なことではあるが。そこで、君も“彼女”の記憶を見ることはあるか、知りたかったんだ。試すようなことをして悪かった。」
この章は、⑥まであります。




