第9章、それぞれの調査④
こっちばかり話が進む。『魔女の敵』の続きも考えてま…すよ。
一方、部屋を飛び出て行ったフィルをルヴァンと共に追いかけたシェラトリスは、どこを歩いているのかも分からず、ただフィルを追いかけていた。
「フィル、どこに行けばいいのか分かっているのよね?」
「…。」
シェラトリスが話しかけるも、数歩前を早歩きで進むフィルは言葉を返さない。
「もう…。」
「“フィル、そこの角を右だ。”」
「…分かってる。」
ルヴァンの言葉に、突き放すような冷たい声色でフィルは答えた。いつの間にか、重苦しい雰囲気が漂っている。
教師に対するあからさまな反抗的態度に、シェラトリスはぎょっとする。
「こ、こら、フィル。」
「…。」
シェラトリスの言葉には、やはり無言である。
(どうしたのかしら…。)
フィルは機嫌が悪そうだ。しかし、それはシェラトリスに対してではない。
フィルは、ルヴァンに対してのみ、いつも反抗的である。なぜかはシェラトリスにも分からない。
「申し訳ありません、ルヴァン先生。」
ひとまず、シェラトリスはフィルの態度について謝った。しかし、ルヴァンは意外にも気に留めていないようだった。
「“君が気にすることではない。…それに、‘僕’は彼に嫌われても仕方のないことをした。”」
(えっ…。)
シェラトリスはこの時、二つのことに驚いた。
まず一つは、ルヴァンがいつもの「私」ではなく「僕」と自身を称したからだ。
そして二つ目は、ルヴァンがフィルに嫌われることをしたと告白したからだ。
シェラトリスは、秘密の多いルヴァンの内面を見たと感じた。
「―――ここだよ。」
フィルがある部屋の前で泊まり、そのドアをノックした。
「フィル・エモー、只今、シェラトリスとルヴァンを連れてきました。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
フィルがいつになく丁寧な口調で部屋の中にいる者と言葉を交わし、部屋に入った。
「“失礼します。”」
「…失礼します。」
フィルに続いてルヴァンが入り、シェラトリスは戸惑いながらも部屋の中に入った。
(あら…?)
中はさほど広くない、休憩室のような小さく簡素な部屋だった。そして、そこにいたのは、二人の小さな子供と、一人の大人だった。子供の片方と大人は、髪色からして〈番人〉である。
全員、フィルと同じ紋章の付いた白衣に身を包んでいる。
(この方たちは…王立研究院の?)
「こんにちは!」
「こんにちは!」
二人の子供が屈託のない笑顔を浮かべて、シェラトリスとルヴァンに向かって挨拶をする。
「こんにちは。」
「ええ、こんにちは…。」
状況が読めず、シェラトリスはややぎこちなく挨拶を返した。
「まぁ…本当に…。」
誰かが呟く声が聞こえ、シェラトリスが声のする方を見ると、銀髪、そして、青と紫のオッドアイを持つ美しい女性がシェラトリスを見つめていた。瞳がうるうると濡れているように見える。
「??」
シェラトリスと目が合うと、その女性は涙目で慈しむように微笑んだ。
「失礼しました。私、王立研究院の番人をしております、レイラでございます。」
目元を拭い、自己紹介をして優雅に一礼した。
(綺麗な方…。)
レイラの姿や所作は、同性でも思わず惚れ惚れするような美しさを持っている。
「さぁ、貴方たちも。」
レイラに促され、二人の子供が前に出る。
「ぼくは、レイラと同じく王立研究院の番人、ヴィゼだよ!いご、お見知りおきを、だ!」
最初に、青い髪と緑色の目をした少年がはきはきと自己紹介をした。
「わたしの名前はローズマリン、です!」
次に、黒髪と金色の目の少女が、明るく名乗った。どこかクレーメンスと似ている顔立ちだ。
「一応、王立研究院の所長、です!」
(ええ?!!)
シェラトリスは驚いて、思わずその少女を凝視した。
(こんなに小さな子が?!)
ローズマリンは、王立研究院の制服を着ていること以外、どう見ても普通の少女である。
年齢は10歳にも満たなさそうだ。
「王立研究院は能力主義なんだよ。ローズマリンが研究院で一番頭いいし、成果を挙げているんだよね。」
フィルがシェラトリスに対し、分かりやすいように説明した。
「フィルだってすごいのに、ちゃんと仕事しないから~。」
「ちがうよ、フィルは正式なしょくいんじゃないからだよ!」
ローズマリンとヴィゼが、フィルを囲む。
「それ抜きにしても、ローズマリンが一番なのは変わらないですぅ~。」
「当たり前ですぅ~。わたしは天才だもん~。」
「何にしても、フィルはもう少し真面目に仕事をするべきだぞ!」
「イヤでーす!」
随分と楽しそうな会話を三人はしていたが、突如、フィルが口を閉じ、背筋を伸ばした。
「…。」
レイラが固い笑顔を浮かべてフィルを見つめていたからである。
フィルとレイラの様子に気付き、子供二人も察して黙った。
「…シェラトリス様は何も説明されずここに連れて来られたのですよ、可哀そうだと思いませんか?フィル。」
「…はい。」
フィルにしては珍しくしおらしい態度だ。基本的に、シェラトリス以外の他人の言葉に耳を貸さないのだが。
(良かった。私以外にも心を開いている人がいるのね。)
シェラトリスはほっとした。
その時。
「…では、本題に入りましょう。」
シェラトリスの後方から、聞き馴染みのある声がした。




