第9章、それぞれの調査③
先週は休ませて頂きました。すみません。
「あらあら、ふふふっ。」
ロマが楽しそうに笑い、手を叩いた。
「飲み物はあちらの方々に任せて、こちらはお部屋の模様替えをしましょう。」
そして、ロマはルースリーフと顔を合わせた。
「ルースリーフ、楽しい雰囲気のお部屋にしてください。」
「任された。」
ルースリーフは、にやりと笑いながら、ロマに向かって仰々しく頭を下げた。
「皆、俺から少し離れていてくれ。」
そう言うと、ルースリーフは、何もない空間からペンを取り出した。ペンを指先でくるくると回しながら周りに尋ねる。
「皆、何色が好きかい?」
ロマが挙手をして即答する。
「ロマは青が好きですよ!」
「もちろん知ってるよ。」
「僕は金色だな。」
「私は灰色です。」
ロマに続き、アスカルトとクレーメンスが答えた。その流れに乗って、レイベル、エルルフも答えていく。
「私は黄緑です。」
「私は赤です。」
ルースリーフは、うんうんと頷き、訊ねる。
「誰か、出て行ってしまわれたお三方の好きな色をご存じかな?ものでも良いのだが。」
アスカルトはシェラトリスの好むものを知っていたが、わざと首を振った。付き合いの短いレイベルも首を振る。
「シェラトリス様は…たぶん緑がお好きですね。リラックスできる森が思い浮かぶそうで。」
クレーメンスが少し思案してそう答え、
「フィルさんは、白がお好きだそうです。前に聞きました。」
エルルフが自信をもって答えた。
(なんせ、シェラトリス様の色だから…。)
いつぞや、誕生日のお祝いに何が欲しいかとシェラトリスに聞かれたフィルが、シェラトリスの髪が欲しいと答えるという一騒動があった。大人たちがフィルに詰め寄る中、困惑したシェラトリスは、なぜ私の髪が欲しいのかと聞いた。すると、フィルは、シェラトリスの髪をお守りにしたいからだと答えたのだ。
その頃のフィルは、まだシェラトリス以外を寄せ付けておらず、本来なら身分差のある立場にも関わらず二人が気安すぎることを危惧した周囲が、フィルをシェラトリスから引き離そうとすることを考えていた。それを聞いたのか、シェラトリスから離されることを恐れる気持ちから、シェラトリスの髪をお守りにしたいなどと言い出したのだろう。大人たちとシェラトリスは納得し、シェラトリスは少しだけならと許可した。
話し合いの末、シェラトリスは、片方の横髪を少し切ることにしたのだが、片方だけではバランスが悪いと言い、結局、もう片方の横髪も切り、その髪型をシェラトリス本人が気に入ったことで、その髪型を保ち続けている。
また、シェラトリスの切った髪をもらえたフィルは、泣いて喜び、お礼にとシェラトリスに守護魔法を掛けた。その守護魔法はあまりに強力なもので、そもそも守護魔法自体が難しいのにも関わらず、いとも簡単に、それもほとんど教育を受けてこなかったであろう子供が使ったものだから、これまた大騒ぎとなった。クロノタトン家お抱えの研究者になったが、あまりにも優秀であることから、その噂を聞き付けた王宮研究院からスカウトが…と、色々あって今に至る。
そんなこんなで、フィルはシェラトリスの髪をペンダントに入れて、今も大事にしているのだが、もらった直後は、「綺麗な白だよね、ね?」とそれはもううるさかった。世間一般的に白髪はネガティブなイメージが強く、白髪の者は白を好まない傾向が強い中、手放しに白髪を綺麗だと言って喜ぶフィルを理解できず、不思議がったエルルフは、白が好きなのかと訊ねた。フィルは、瞳をうるうるとさせて、もちろんと答えた。その様子から見るに、フィルは相当、白髪、ひいては白色に思い入れがあるようだ。
「ルヴァン先生は…どうだろう。色どころか、何が好きか聞いたことがないし、あまり分からないな…。」
アスカルトが呟いた。
ルヴァンは謎が多い。特にプライベートについては一切聞かない。
「いつも仕事をされていてお忙しそう、というのは分かりますけど…。」
クレーメンスもそう呟いた。他二人も同意するように頷く。
「主様は、人の笑顔がお好きです。」
唐突に、メルーンが口を挟んだ。
「皆様が楽しそうにしていらっしゃれば、主様もきっとお喜びになるでしょう。」
目を細めながら語るメルーン。
「…分かりました。では、俺は、楽しい空間に仕上げることに努めよう。」
そう言って、空中でペンを走らせ始める。光のような線の文字や陣が空中に留まり続けている。
「さぁ、愉快なお茶会の始まりだ。」
その言葉を合図に、魔法陣が光となって床や壁、天井に飛び散った。
その眩しさに皆が目を瞑ると、目を開けた次の瞬間には部屋が変わっていた。
壁は立体的な森の絵が描かれた壁紙になり、天井から壁に向かって色とりどりのガーランドやテープがぶら下がっており、小さな風船がぷかぷかと浮いている。それらは、先ほどルースリーフが訊ね聞いた皆の好みの色と一致している。
本や書類が所狭しと置かれていたテーブルやブックカート、重厚な椅子は、いつの間にかどこかへと消え、代わりに、パーティーでよく使用されるようなクロスが敷かれたテーブルセットが用意されている。また、高級そうな調度品も姿を消し、華やかで可愛らしい装飾品が登場している。
「すてき!」
ロマが手を叩いた。
「お気に召したようで何よりだ。」
そう言ってルースリーフはペンを消した。
「俺たち〈番人〉は、管轄の場所を自由に模様替えすることができる。これくらいは簡単さ。」
驚いた顔で部屋を見回す者たちに向かってそう告げた。
「さぁ、好きな席に座り給え。」




