第8章、魔法研究会の調査⑤
今回も「魔女の敵」の更新はありません。
「あ…それはフィルが…。」
シェラトリスはフィルに視線を向けた。
「そうだった。はい、これ。」
フィルは紙鳥をルースリーフに手渡した。
ルースリーフが紙鳥に息を吹きかけると、それは元の書類の形に戻った。それに目を通しながら、ルースリーフはフィルに声を掛けた。
「そうだ、フィル。」
「何~?」
「あなたに頼まれていたものはすでにあちらに用意してあるよ。俺は少しやることがあるから、それまで案内を代わってくれ。」
「オッケー。任せて~。」
フィルに鍵を預けたルースリーフが去り、一同はフィルに視線を向けた。
「はいはい、ちゅうもーっく。」
「もう注目してるって。」
エルルフのツッコミに、フィルはにやりと笑う。
「いいねいいね、元気があるね、エルルフさま!」
「うわ、嫌な予感しかしない。」
フィルにすっと近寄られ、さらには手を握られ、身構えるエルルフ。
「はい、ここに立って。」
「電気ですか、水ですか?」
「やだなぁ、そんなの宮殿に仕掛けられるわけないでしょ。」
「はいはい、爆発ね…。」
「何だか、奇妙なことに巻き込まれ慣れているような口ぶりだな…。」
悲壮感と諦めの混じったエルルフに、レイベルはぼそりとツッコミを入れた。
「安心しろ、エルルフ。不審者対策用の罠が発動しない限り、そんなことは起こらないだろう。」
明るく笑って、アスカルトが到底フォローとは思えぬフォローを入れた。
「なるほど…じゃあ、それを発動させる気ですね…。」
「おっと…余計に不安にさせたようだ。」
(何を言ってもダメね…。)
エルルフのネガティブさに、シェラトリスは心の中でツッコミを入れた。
(それにしても…フィルは一体どれだけエルルフにイタズラを仕掛けているのかしら。)
哀れなエルルフの様子に、シェラトリスは気の毒に思った。
「フィル、エルルフを困らせないで。」
「やだなぁ、シェラトリスまで。何も仕掛けてないって。…本当だよ!?」
「「「…。」」」
全員に疑いの目を向けられ、フィルはおどけて見せる。
「ひどーい。ならいいよ、自分でやるから。」
フィルは唇を尖らせ、エルルフを手で追い払うと、ドアに向かって腕を伸ばした。その手には鍵が握られている。
魔力を注いでいるようで、両開きのドアに描かれた魔法陣が白色に輝き始める。徐々にその光は広がり、シェラトリスら一人一人の足元にも魔法陣が出現する。
「―――“繋げ”。」
フィルの言葉を合図に、ドアはぐにゃりと歪んだ。
渦を巻き、魔法陣が変わる。先程までの魔法陣とはすっかり変わると、フィルは振り返った。
「さぁどうぞ?」
勧められるままに、シェラトリスはドアの魔法陣に触れる。
不思議な感覚と共に、手がドアをすり抜けた。
「…。」
吸い付くような、圧迫されているような感覚。しかし、それはほんの僅かな時間で、奇妙な空間を通り抜けると正常に戻った。
「あら…?」
向こう側は、教室や研究室のような部屋だった。資料庫というには小さすぎで、置いてある資料らしきものも少ない。
「あ、あれ?」
「あれ、ここは…。」
続々と入って来たメンバーも首を傾げる。と言っても、アスカルトとルヴァンはここがどこだか分かっているようだ。
「どうしたんだい、フィル。ここは閲覧室だろう?」
アスカルトが言うと、
「資料庫ではないのですか?」
クレーメンスが尋ねた。
どうやらクレーメンスも知らない場所らしい。
「いいや、資料庫だよ。資料庫の中に、いくつかこのような部屋があるんだ。資料を閲覧するための小部屋だよ。僕たちのように、話し合いをしながら資料を広げたい団体利用者の場合、他の利用者の邪魔になることもあるからね。それを避けるために設けられたんだ。」
「そう。すでに資料の目星を付けて、ここに運んで置いたんだ。シェラトリスの探す手間が省けたでしょ?」
えっへんと胸を反らすフィル。
シェラトリスは驚きを隠さず、フィルを見る。
「ええ?!すでに見つけておいてくれたの?!」
「そう。」
「ありがとう…でもいつの間に?研究院の仕事もあるでしょうに…。」
「まぁ、その仕事の合間に。」
「ありがとう…。でも無理しないで。」
「無理なんかしてないよ。」
頭を撫でられ、子供のように無邪気な笑顔を見せるフィルだったが、その目元には濃い隈ができている。しかも、以前よりもさらに濃くなったようだ。顔色も悪い。
「…ちゃんと休むのよ。」
「…今は少し忙しいだけだよ。」
はぐらかすような言葉。しかし、その微妙に変わった声色を聞くに、疲れて少し弱っているようだった。長い付き合いのあるシェラトリスにしか分からないような、ほんの些細な違いだったが。それを逃さなかったシェラトリスは、フィルに言葉を掛けようとしたが…
「さーて、そろそろ行かなきゃ!!」
…急にいつもの調子に戻るフィルに遮られた。
第8章はもう少し続きます。
今年はあまり更新できず、すみませんでした。しかし、来年はもっと忙しいので、さらに遅いペースでの更新になるかもしれません…。本当に申し訳ありませんが、気長にお付き合いいただけると幸いです。
それでは皆様、よいお年をお迎え下さい。




