第8章、魔法研究会の調査④
メリークリスマス! お久しぶりです。
今回、「魔女の敵」の更新はありません。
「お帰りなさいませ、アスカルト殿下。」
近くにいた者がアスカルトに声を掛けてきた。
「ああ。彼女らの受付を頼む。」
「かしこまりました。どうぞこちらへ。」
案内されたのは、受付をしていなかった机だ。王子を待たせるわけにはいかないと、特別に通してくれたのだろう。
「こんにちは、どちらからいらっしゃいましたか?代表者のお名前、登城人数、目的をどうぞ。」
以前も聞いた受付の挨拶を聞く。それに答えるのはシェラトリスだ。
「こんにちは、貴族学校『黒白薔薇学園』の〈白歴史研究会〉です。私が部長のシェラトリス・クロノタトンで―――」
「シェラトリスさーま!!」
「っ!?」
後方から急に肩を叩いてきたのは、白髪・赤目の青年―――フィルだ。
「待ってたよ~。」
「フィル…。」
悪戯が成功した子供のようなにっこり笑顔に、シェラトリスはむっとする。
フィルは王立研究院の者として、常時、宮殿の資料を閲覧できる資格を持っているため、先に宮殿で待っていた。ちなみに、アスカルトも王子という立場であるため、もちろん同じ資格を持っているが、研究会のメンバーと親交を深めるために会話をしたいという理由で一度学園に登校するという手間を掛けた。
さて、フィルはすでに目的の場所に行っていると思っていたシェラトリスは、説教したくとも受付中のため後回しにすることにした。
「ええと…」
一歩間違えれば不審者に間違われそうな状況に、どう弁明しようかと言葉を探すシェラトリス。
「ああ、王立研究院のフィル様ですね。お疲れ様です。」
顔と名が知られていたようで、不審者ではないと判断されたようだ。
(悪い意味で覚えられていないでしょうね…。)
フィルは高い功績を誇りながらも、奔放な性格の方が注目されることが多いのだ。
心の中でため息を吐きながら、シェラトリスは余所行きの笑みを浮かべ、努めて平静を装う。
「ええと…どこまで言ったかしら…。」
「登城人数からです。」
こそっとクレーメンスが伝えてくれたため、シェラトリスは「ありがとう」と小声で返した。
「登城人数はルヴァン先生を含めて6人です。公的書類保管庫の利用が目的です。」
「概ね申請通り…ですが、」
そこでちらっとアスカルトに目が向けられた。
「失礼ですが、アスカルト殿下が抱えてらっしゃる猫は…?」
アスカルトがすっと前に出た。シェラトリスの代わりにアスカルトが答えてくれるようだ。
「学園の〈扉の館〉を管理している婦人の猫だ。連れて行ってほしいと図書館の番人のソフィニア様に言われてね。」
「なるほど…。」
一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに目線をアスカルトに戻した。
「申し訳ありませんが、私には猫の入室について判断しかねます。お手数をお掛けしますが、保管庫番人のルースリーフ様にお聞きください。」
「分かった。」
そしてシェラトリスに視線が向けられた。
「では、皆さんはこちらを胸にお付けください。もちろん、アスカルト様とフィル様は結構です。」
渡されたのは、以前も受け取った羽飾りだ。
「こちら、登城者の証となりますので必ず身に付けてくださいね。返却は帰る際にお願いします。」
丁寧な説明も終わり、一同は移動する。
「みーんな拙者に付いて来たまえ~。」
フィルが先頭になって、目的地に向かう。フィルが持っている紙で作られた鳥は、案内用に折られた書類だ。
飛んでいこうとしたところでフィルが掴み、「案内役は譲らなーい」と言って静止させたのだ。
「ね、王子様、その猫どうしたの?」
くるっと振り向き、後ろ向きに歩きながらフィルは尋ねた。値踏みをするように凝視している。
「僕たちに付いて行きたいらしい。知ってるだろう?君も利用している、学園の〈扉の館〉の猫だ。」
「んー、あまり。いつも逃げられているから。」
フィルはふと立ち止まり、アスカルトの腕の中にいるフルーウに目線を合わせた。
フルーウは心なしか警戒しているようだ。じっとフィルを見つめ返している。
「「…。」
無言でしばし見つめ合った後、フィルはにっこり笑った。
「こんなに見たのは初めてだったから気付かなかった。なるほどなるほど。」
そして、また正面を向いて歩き出した。
(何だか…ご機嫌ね??)
フィルの様子を見てシェラトリスはそう思った。
「その猫、特別だよ。」
フィルが言った言葉に、シェラトリスが聞き返す。
「特別?」
「“―――そうだな。ここにいる者の年齢を合わせても足りないくらい、長生きしている。”」
今まで黙っていたルヴァンが口を開いた。フィルはそんなルヴァンをちらりと見てから、シェラトリスに笑顔を向けた。
「そういうこと!」
信じられないものを見る目で、皆はフルーウに注目した。
「…にゃ。」
ごまかすような声だった。
「はい、到着。」
それなりに歩いたところで、フィルはあるドアの前で立ち止まった。
「やっほ~。」
軽い調子でフィルは入室するフィル。
続いてシェラトリスたちも部屋に入る。
「こんにちは。」
入って左、管理人に声を掛けられる。
「「「こんにちは。」」」
一同が挨拶を返す。
「ルースリーフどこ~?」
カウンターに身を乗り出してきょろきょろするフィル。
「フィル、ここだよ。」
フィルの声に答え、奥からやってきたのは、深緑色のおかっぱ頭と片眼鏡が特徴的な青年だ。髪色から魔女ではない。つまり、彼がここの番人ということだ。
「来たようだね。」
「ほら早く!」
青年はフィルと親し気に言葉を交わす。
カウンターを出てその姿を現した青年―――ルースリーフは優雅に一礼して自己紹介を始める。
「ごきげんよう、諸君。俺は宮殿にて書類を守り管理する者、番人のルースリーフだ。以後、お見知りおきを。」
大仰な話し方と仕草だが、随分と板についている。
「おや、アスカルト殿下。」
「ルースリーフ様、この間ぶりですね。」
「ええ。…っと、そちらは…。」
少し驚いたように目を開くルースリーフ。
「ニャー!」
「えっと…この猫…さん、入ってもいいかな?」
アスカルトは先程のことで、すっかり猫に「さん」付けをしている。
「もちろんですよ、殿下。…お久しぶりですね、フルーウさん。」
「にゃ。」
「お疲れでしょう、殿下。後は俺が足になりますから、その猫をどうぞこちらへ。」
「にゃ!」
ルースリーフが手を伸ばすと、フルーウは勢いよく飛んだ。ルースリーフはしっかりキャッチし、胸に抱いた。
「ご案内の前に、確認が…。」
きょろきょろと辺りを見渡すルースリーフ。
「紙鳥がいませんね?」
しばらくは投稿できそうです。




