第8章、魔法研究会の調査②
今回「魔女の敵」はお休みです。
全員の手に渡ったのを見て、シェラトリスは話を始める。
「一枚目から三枚目は、我がクロノタトンと親戚のノーア家における魔法災害に関するデータをまとめた資料です。四枚目以降は全国平均やその他の魔法災害が多い土地のデータを得ました。」
「この二領は他より魔法生物の災害件数が少ないようだね。」
アスカルトがページをめくって確認しながら口を挟む。
「はい。」
シェラトリスが頷く。
「このことから私たちは、白髪の者と黒髪の者では魔力の性質が異なるのではと推測しました。」
「でも、これだけじゃ何とも言えないね。実験で検証するにしても、もっとデータを集めてきちんと仮説を立ててからでなきゃ。」
フィルが真面目に意見を述べる。研究者モードになったようだ。
「“…それなら、宮殿に行った方がいいな。”」
ルヴァンが唐突に口を挟んだ。
「あそこなら全ての領地の情報が集まっている。」
「そうですね…。」
シェラトリスは考える。
元々、宮殿に行こうとは考えていた。しかし、宮殿に申請して許可をもらわねばならず、それについて少し心配事があったため、いずれ…と予定していた。
その心配事とはもちろん、許可が下りるかどうかである。〈白歴史研究会〉は立ち上げてからまだ日が浅く、当然、何の成果も出していない。また、学生で構成された団体であることから、優先順位が低いとも思われる。そのため、もし許可が下りるとしても、宮殿に入れるのに時間が掛かる可能性があるのだ。
「調査のための申請が必要になりますね。」
「なら、僕がやろう。」
クレーメンスの言葉に、アスカルトが名乗りを挙げた。皆の視線がアスカルトに集まる。
(そうね、その手があったわね。)
「僕が代表者となれば、許可が下りるのがスムーズになるだろうからね。」
何のこともないといった様子で言ってのけたアスカルトに、レイベルが少し不安げな様子で意見を言う。
「よろしいのですか…?」
権力の乱用に思われないかと遠まわしに告げられたが、アスカルトは笑って返した。
「問題ないよ。王子の僕でも、在籍している研究会のために何かしたいと思っても不思議ではないし、それに関して強引に権力を使うつもりはないからね。せいぜい無碍にされないように名を使うくらいさ。まあ、この研究会の掲げる理念は国にとって有益だから、いずれ許可は下りるだろうけど、早く調査できるに越したことはないだろう?」
「そうですね。」
「“安心しろ、スティルグ。私やエモーの名を出せばいい、波風を立てずに済む。”」
ルヴァンやフィルは研究者の肩書を持つ。彼らの名前を出せば、何も問題が起きずに済むだろう。
「ではアスカルト様、よろしくお願いします。」
クレーメンスがまとめると、シェラトリスがお開きの言葉を告げる。
「それでは皆様、申請が通り次第、宮殿に登城したいと思いますので、できるだけ休日は空けておいてください。なお、登城の日までは学園の図書館で歴史調査を行うつもりです。参加できる日があれば、放課後にこの部屋に集まってください。欠席する場合、どんな手段でもいいので私かクレイに連絡をお願いします。」
こうして一同は解散した。
「―――シェラトリスは帰ってて。」
長い時間黙って席に座っていたフィルが、唐突に口を開いたかと思うと、そんなことを言い出した。
「ええ。いいけど、今日は我が家に帰って来るのよね?」
「うん。でも遅くなるかもしれないから、今夜は顔を合わせる時間はないかも。」
「…そう…。」
少し不健康そうな顔を見てシェラトリスは心配になった。
(最近は我が家に帰らずに研究院に泊まっているようだから、やっと休めるだろうと思っていたのに…大丈夫かしら。)
フィルは不眠症だ。シェラトリスが近くにいないと熟睡することができない。何らかのトラウマを抱えているようで、それを癒すのにシェラトリスが鍵となっているのだ。
シェラトリスは長いことフィルの眠れない体質を気にしている。
「…大丈夫だよ。」
シェラトリスが伸ばした手を自らの頬に当て、フィルは穏やかな顔をする。
「…必ず十分な休息を取りなさい。」
「はーい。」
フィルはいつもの調子で返事をすると、すっと表情を変えた。
「―――行こう。」
ぶっきらぼうに言葉を掛けられた相手は、すでにドアの前で待機していた。
「―――ああ。」
シェラトリスがフィルの態度を咎める間もなく、さっさとフィルとルヴァンは行ってしまった。
「…私たちも帰りましょうか。」
クレーメンスがそう切り出し、シェラトリスはクレーメンスとともに研究室を出た。




