第7章、仲間を求める④
お久しぶりです。
年に一・二度あるかないかの激やば体調不良に陥りましたが、その後ケロッとしてます。こんな感じで頻繁に更新を休んでいますが、それでも読んでくださる方はいるもので、それがとても励みになっています。本当にありがとうございます。
「シェラトリス~!」
突如、学校の廊下に響き渡った明るい声。呼ばれた本人は、ため息と共に驚きで強張った肩を下ろした。
声のする方へ振り向けば、一人の学生が大きく手を振りながら笑顔で駆け寄って来る。かなりの注目度だ。
「シェラトリス~!」
「分かったから、静かに来てちょうだい。」
そうたしなめるが、相手は周りの視線を気にせずドタドタと走って来る。体当たりする勢いだったが、シェラトリスの目の前でピタッと止まった。そして間髪入れずにシェラトリスの手を取り、包み込むようにぎゅっと握った。急停止した弾みで、白くてさらさらな髪とローブの裾がふわりとなびく。ローブの紋章を見る限り、これは明らかに学校のものではない。
「シェラトリス、ごきげんよう!」
「ごきげんよう、フィル。」
「シェラトリス、シェラトリス殿が研究室を立ち上げると言うから、オレ、一番良い研究室を確保しておいたよ!シェラトリス殿が申請していた部屋じゃあまりに狭いし設備も整っていないからさ! だめだよ、そういうことはこのオレに言ってくれなきゃ!ボクが誰だか分かってる? ボクは偉大で天才な学者、フィル・エモー☆なんだからさ、研究のことなら何だって拙者にお任せを~。ってことで、今から研究室にご案内~。」
「え、」
「さ、さ、こっち!」
相手は何か重要なことをさらりと告げていた気がするが、早口に付いて行けず固まるシェラトリス。それを無視して青年はぐいぐいと肩を押す。名門の貴族令嬢に対してあまりに気安い態度である。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
呆気に取られていたクレーメンスは、どこかへと連れて行かれそうなシェラトリスを見て、はっと現実に戻った。
「シェラトリス様をどこへ連れて行くんです?! フィルさん!!」
クレーメンスが追いかけ、その腕を掴む。
「だ~か~らぁ~、ボクが申請した研究室。アナタも来る?」
へらへらと笑いながら、より一層楽し気な声で言葉を返していたが、その青年の目は据わっている。赤い虹彩と黒い瞳孔、そして不健康そうな隈が、彼の不気味さを増している。
「…っ。」
一番上の兄と同じ空気を感じて一歩後退ったクレーメンスだったが、黙ったままこくこくと頷いた。
「二名様ご案内~。」
大声で貴族令嬢を連れ去る変人に、周囲の者は関わり合いを避けるように道を空けた。
「ここだよ~ん。」
途中、シェラトリスを探しに来たエルルフを巻き込み、騒々しいながらも到着。そこは学校にある研究棟の一角、研究室らしい立派な設備が整った広い区画だった。
シェラトリスが研究室立ち上げを申請し、それに伴って用意された部屋とは明らかに異なる。遥かにグレードアップされた場所だ。それこそルヴァンのような、研究職にも就いている教師たちが使うような…。
(この前確認した部屋とは全く違うのだけれど…。)
申請してすぐに案内された部屋はもっと簡素で、少人数が集まって話し合いができる程度の小会議部屋だった。と言っても、貴族のための学校であるため、調度品はどれも高級なもので広さも申し分ないものなのだが。
だが、このフィルという青年に案内された場所は、用途に合わせて使い分けられる複数の部屋を持つフロア。会議部屋、資料保管部屋、実験室、衣装部屋、デスクワーク部屋、キッチン、訓練場、檻などなど…。
「空間拡張と防音、侵入防止、衝撃緩和、その他諸々…魔法が掛かっているよ!でも、ちょ~っと弱そうだったからフィルが壊して新たに掛け直した! あ、あと、ついでに空気清浄と自動清掃の魔法機械を入れておいたよ!フィル特製、侵入者撃退機能付き!」
さらりと笑顔で言っているが、それら全て、断じて初級魔法ではない。もちろん、他者が掛けた魔法を破壊できる者はまずほとんどいない。
「えっと…最初から説明してくれるかしら、フィル。」
口をぽかんと開けたまま突っ立っている二人を余所に、シェラトリスは、きらきらとした目で褒められるのを待っている犬のような青年を見た。
この青年の名はフィル・エモー。クロノタトン家で雇われている研究者であり、王立研究院に勤めている、若き天才魔法学者である。年齢はシェラトリスの二歳上、十八歳だが、二年遅れて学校に入学した挙げ句、研究に熱中するあまり進級試験を欠席するという事態が二度もあり、学年はシェラトリスよりも四つ下である。現在もほとんど授業に出席せず、自身の研究に明け暮れているが、本来は試験など余裕で満点を取ることができる優秀な人物なのである。




