第7章、仲間を求める①
お久しぶりです。お待たせしました。
今日は「魔女の敵」の更新はありません。
「〈月の林〉の調査で、奇妙なことが発覚した。」
エングレンの言葉に、一同は真剣な表情を浮かべた。
今は休日の朝。シルバーベルズ城へ第一王子を護送した日から、ほんの数日後である。
「まず一つ、林へ何者かが立ち入っていた痕跡が発見された。」
〈月の林〉の所有者は、エングレンの弟が当主のノーア侯爵家である。クロノタトン家の土地とノーア家の土地の狭間にあり、クロノタトン本邸から数十分、ノーア本邸から数時間のところにある。所有者はノーア家だが日頃の管理は主にクロノタトン家が行っており、ノーア家もクロノタトン家なら自由に出入りして良いと約束している。
ちなみに、ノーア家に所有権があるにも関わらずクロノタトン家が管理しているのは、単に親戚仲が良いという理由だけでなく、クロノタトン家の所有する土地が非常に狭く資源に乏しいという理由もある。代々、宰相の座に就いているクロノタトン家は、“治める領地”とそこに住む“領民”というのがいない。権力の集中による権力者の暴走を防ぐため、クロノタトン家から輩出された最初の宰相がそう申し出た時から、今日まで続いている。ゆえにクロノタトン家はクロノタトン一族とその使用人、さらにその使用人家族が生活するだけの土地しか持たない。平民から見れば広大な土地だが、貴族の中で見ると最も狭小である。クロノタトンの土地にも商人の町はあるものの規模は小さく、最低限のものしか扱っていないため、大抵はノーア領から買い取っている。〈月の林〉をクロノタトン家が自由に利用できるのも、水や木を得るためである。
こうして、ノーア家は領地を持たないクロノタトン家を補助する役目を担っており、もしクロノタトン直系の血筋が絶えた場合は、ノーア家の者がクロノタトン家に養子入りし宰相の座を引き継ぐことになっている。
話を戻すと、エングレンが言う〈何者か〉は、この二家以外の侵入者ということになる。
ピリピリとした空気の中、エングレンは話を続ける。
「そしてもう一つ、〈月の林〉の魔法生物の出現率が前例にないほど急増していたことが分かった。」
そうだろう、今まで〈月の林〉であれほど大量に魔法生物が出現したことはない。ノーア領でもそうだ。
シェラトリスはクロノタトン家の一人娘として、将来は宰相になることが決まっている。それゆえ、幼少期から他の貴族に比べて、より高度な教育を受けてきた。この国の大きな問題の一つである魔法生物についても、現実を知るために魔法生物討伐の実戦を積んできた。クロノタトンの土地は狭く、滅多に出現しないため、ノーア領で訓練することが多かったことから、魔法生物の出現率について把握していた。
「そして最後、クロノタトンとノーアでは、そもそも魔法生物の出現率が他の領地に比べて低いことが分かった。」
これは皆、初耳だった。薄々察していたのか、あまり驚いた様子のない者もいた。しかし、若いほど目を丸くしている者が多い。シェラトリスもその一人だ。
(今まで私たちの土地は魔法生物が少ないなんて考えたこともなかったわ。)
「それは、全ての年代において…ということですか。」
会議に参加していたアスカルトがエングレンに対し質問した。
「そうだね。」
「なら、他の土地との相違点は?」
シェラトリスも質問する。
「土地柄に関しては似たような領もあるから、地勢による差はあまり考えられないね。考えられるのは…我々、“白”が治めている点と、住んでいる者で“白”が多い点…かな。」
以下は裏設定です。
・ノーア侯爵夫妻はアスカルトら王子がクロノタトン家によく滞在していることは知っており、アスカルトとクレーメンスはシェラトリスと共に、教育の一環として魔法生物討伐を行うためにノーア領に訪れることもある。その際はシェラトリスの友人貴族として招かれ、お茶会をすることも。しかし、レイジオンの狂人的な振る舞いが演技であることはノーア夫妻は知らない。
・ノーア侯爵夫人が子供を産めない身体となって夫婦そろって落ち込んだ際、シェラトリスがしばらくノーア邸に滞在し、家族ごっこをして元気づけようとしたことから、ノーア夫妻はシェラトリスをより大切に思い溺愛している。エルルフを養子に取ってからは、エルルフを立派な貴族の子に育てようと教育熱心になっており、ノーア夫妻が自ら先生役としてマナーや剣術を指導することも。
・クロノタトンは、何らかの理由で他の土地で生活しにくい者たちを積極的に受け入れているが、雇いきれない人数はノーア領に斡旋している。




