第6章、用意されたアドリブ③
こちらでは久しぶりでしょうか。お待たせしました。
今回「魔女の敵」はお休みです。
(インパクトが強かったみたい、大成功ね。)
シェラトリスはクレーメンスの方を見て笑った。
クレーメンスはそんなシェラトリスに気付いて微笑み返した。
(金髪が似合うわね、クレーメンス。)
クレーメンスの髪色は、魔法で変えたものではない。染料で染めたものである。
魔法で変えなかったのは、魔法探知に引っ掛からないようにするためであった。王宮や学校…その他、各要所にて設置されている魔法探知機は、犯罪者の越境などを防ぐために強力に作られており、どれほど強い魔女であってもその正体を見破れるように、特に変身魔法の感知に優れている。
こんなわけで、魔法なしで作られた特別な染料でクレーメンスの髪は金色になっている。専用の脱染料でなければ、決して色が落ちることがない。これほど優れたものをたった3年で作ってしまった“あの天才”が味方でなかったらと思うと、シェラトリスたちはぞっとする。
ちなみに、顔は魔法なしでは変えようがないため、認識阻害の魔法道具を身に付けている。さらに、万が一にもそれが解除された時の対処法として、化粧をしてある。顔を洗えば落ちてしまうが、やらないよりはマシだろう。
さて、こうまでしてクレーメンスが謎に満ちた〈番人〉のフリをするのは、“クレランスの死”に対する注目を分散させる目的があった。クレランスの死の偽装、引いてはクレランスの正体そのものが知られないよう、この話題から目を逸らせる必要があるからだ。“クレイ”がクロノタトン家に入ったのも同様の理由だが、それに加えて、王家がクロノタトン家を重用していることを世に知らしめる目的もある。
近年、白ノ魔女への差別が横行している。リリシィ・ラトクルフが身分が上のシェラトリスに嫌がらせを繰り返していることからも、社会秩序が失われつつあることが分かるだろう。特に平民の白ノ魔女への風当たりは強く、失業者が増えた。白ノ魔女である貴族や白擁護派の下へ保護を求める者が後を絶たない。それゆえ、王家は差別を止めさせるために自らが行動して見せたのだ。
「お二人は仲が良いのですね。」
レイベルがシェラトリスとクレーメンスを交互に見て言った。
「ええ、昔から交流があったので。」
「よくお茶をご一緒させていただきましたから。」
シェラトリスはクレーメンスを引き寄せ、仲良しアピールをした。
「それは良いですね。」
「そういえば、レイベル様にはご兄弟がいらっしゃるとか…。」
「ええ、よくご存じですね。弟が二人と妹が一人います。まだ幼いのでマナーがままならず、大人しくお菓子を食べることもできないのですが。」
そう言ってレイベルは苦笑した。先ほどとは違い、その目は温かいものだった。
しかし柔らかな表情から一変して、神妙な面持ちで正面を見据えた。
その視線の先には、厳重な警備体制の馬車だ。
「シェラトリス・クロノタトンです。レイジオン殿下にご挨拶をさせて頂きたいのですが。」
シェラトリスが傍にいるレイジオン専属騎士に声を掛けた。
「お待ちしておりました。」
騎士は軽く頭を下げると、複雑な顔をして口を開いた。
「ご存じとは思いますが、殿下は正気ではありません。そして非常に逃げ出すのが得意な方です。私がドアを開けましたら、すぐに乗り込んで下さい。」
「殿下が何か話しかけましてもどうか受け流して、殿下をシルバーベルズ城へ送り届けることだけを考えて下さい。そうしないと、ご令嬢方の精神がもちませんから。」
「……かしこまりました。」
シェラトリスたちは少し呆気にとられながらも、平静さを保って見せた。
(専属騎士は苦労しているのね。)
それはそうだ。レイジオンの演技は恐ろしいほど上手い。本当の狂人だと思うほどに。
3人は顔を見合わせ、気持ちを引き締める。
「ご準備はよろしいでしょうか、それでは開けます。」
騎士はノックすると、馬車のドアを開けた。
「レイジオン様、“ご友人”が到着され―――」
「わ~~~っ、天使さまだ!!!!」
騎士の言葉を遮り、勢いよく飛び出してきたレイジオンはクレーメンスに向かって一直線に手を伸ばした。
忙しい時期が終わったので、これからしばらくはほぼ毎週更新できるんじゃないかと思います。頑張ります。




