番外編1、複雑な立場①
今回も「魔女の敵」はお休みです。
5の倍数の章が終わる度に番外編を入れようと考えています。
本編では三人称視点ですが、番外編では一人称視点で、毎度、主人公を変えます。
今回の場合はクレーメンスの一人称視点です。この違いも楽しんで頂ければと思います。
「クレーメンス。」
お兄様の呼び掛けに、私は本から顔を上げた。
ここはクロノタトン邸のとある一室。クロノタトン家に用意された私の部屋。
連日、王宮騎士が屋敷を出入りしているため、私たちの存在が知られないようあらゆる魔法を駆使して、気配に気を付けながら生活していた。
「明後日のシェラトリスたちの〈古書の儀式〉を見に行かないか。」
「え、いいのですか?!」
それはぜひともそうしたい。しかし、命を狙われないために王宮を離れて極秘でクロノタトン家で過ごしている身で、〈古書の儀式〉を見るために王宮へ戻っていいのだろうか。
私はそう考えたが、お兄様は微笑んだ。
「〈古書の儀式〉は頻繁に行われるものじゃないからな。これを見れるのは王族(僕たち)の特権だぞ?…それに、友人の輝かしい場だ。ぜひ立ち合いたいじゃないか。」
お兄様はそう言ってにっこりと笑った。
「父上から許可はもらっている。物語も考えた。」
お兄様は私の向かいの席に座った。
「体の弱い王女はどうしても〈古書の儀式〉を見たいと思っていた。儀式当日、たまたま身体の調子が良かったため、付き添いの兄と共に見に行く。しかし、やはり無理のし過ぎで再び身体を壊し、長く寝込んでしまう。…どうだ、父上も納得の物語だ。」
“お父様も納得の物語”。ならば、それはきっとお父様の実体験なのだろう。
お父様にはかつて、病気のお姉様がいた。子供の頃から苦しい思いをなされていたようで、お父様をはじめ、家族はとても心配していたようだが、本人はいたって明るい性格をされていたとか。興奮するようなことは控えてと言われていたにも関わらず、楽しいことを求めては周りを心配させていたとか。だからきっと、お兄様が考えた物語と似た出来事があったに違いない。
私が性別を偽り、姫として存在しているのも、病弱として引き籠っているのも……全ては、若くして亡くなった伯母様をモデルに作られた設定だ。”王の病弱な姉が短命だったのだから、王の病弱な娘が短命であってもおかしくはない、ならば放っておいてもいつか死ぬのではないか”、…そんな思考を抱かせ、暗殺の回避を図っている。
確かに伯母様はお父様たちに比べて命を狙われることは少なかったらしいし、私もお兄様方に比べて危険な目に遭った回数は少ない。とは言っても、お父様たちの子供時代より今の方が危険な情勢だから、簡単に比較することはできないとか。以前、私が毒を盛られて危険だった時に聞いたことがある。
暗殺回避のために病弱だと偽っても、不自然じゃない。実際、私も生まれた時は体重が極端に軽い未熟児で、小さな頃は身体が弱かった。が、運よく生き延びることができ、今では少し小さいだけで健康だ。
しかし、何も、性別まで偽ることはなかったのではないかとも思う。正直言って、このまま偽り続ける難しい。なぜ病弱な王子ではなく王女にしたのかと、以前、お父様に尋ねたことがあった。すると、男より女の方が仮病を使ってもバレにくいからだと言われた。女性の方が体調不良になりやすく、また、具合が悪いと言えば他人を遠ざけることができるからだと。
…納得はするが、これからどうするのだろうか。限界がある。
それに、あの格好で居続けたら…ますます…。
「……はい、いいと思います。」
考えるのを止め、私はお兄様に返事をした。
「ドレスをロウランドに持って来させた。」
お兄様の後ろに立つロウランドに目を向けると、彼はすまし顔で礼をとった。
「シェラトリスには内緒だ。驚かせてやろう。」
お兄様がニヤリと笑った。
「また悪戯をお考えですか?お兄様。シェラトリス様に怒られるのではないですか?」
「自分を見に来たと知ればシェラトリスも怒らないだろう。良かったな、クレーメンス。〈古書の儀式〉が見れる“上”、久しぶりにシェラトリスに会えるぞ。」
私ははっとした。もしかしてお兄様は私が見たいと思っていたことに気付いて…。
「それじゃあ僕は自分の部屋に戻るよ。」
立ち上がり、私の頭をそっとなでたお兄様。
「ああそうだ。“王女が無茶のし過ぎで寝込んでいる”間、お前は当然クロノタトン家に避難だ。」
去り際に余計な一言。
「良かったな、クレーメンス。滞在期間が延びたぞ。」
「お、お、お兄様…!!」
「お休み。」
乳兄弟そっくりのすまし顔で去って行ったお兄様。やっぱり、バレて…!!
「うあああ…。」
私は顔を本に埋めた。
そこへ、誰かがやって来た。
「クレーメンス様?どうかされましたか?」
使用人のメイラだ。お兄様が入室された時に席を外していたが、戻って来たようだ。
「な、何でもないよ…。」
急いで顔を上げた。
「お顔が赤いようですが…熱を?」
「ち、違う。明後日の〈古書の儀式〉に参加させてもらえると聞いて嬉しくて…。」
メイラは微笑んだ。
「そうでしたか。実は先ほど、アスカルト殿下から変装用のドレスを受け取りました。」
「分かった。」
私はドレスの確認をした。それは、王宮に置いているものの一つだった。
(シェラトリス様に会えるのは楽しみだけど、王女姿かぁ…。)
ドレスの裾を掴み、私はそっとため息を吐いた。




