第5章、再び王宮へ③
「あの部屋か…。」
アスカルトはララノアとレナードを見た。
「あ、私の騎士たちには話してあるの。」
シェラトリスは、あの部屋に何か秘密があることを察していたが、あえて自分の騎士に話した。シェラトリスが登城するとなったらどうせ騎士も付いてくることになる上、城で何かあった場合に遠慮なく自分の騎士を使ってほしい…そうシェラトリスは考え、早くに秘密を共有した。
…それほどまでに、今、城で働く者たちには信用がない。
「…あまりクロノタトンを巻き込みたくなかったが…。」
「お兄様。」
「…シェラトリスは当事者になってしまったんだ、クレーメンス。警護する者も知っておかなければ。」
アスカルトはシェラトリスと目を合わせた。シェラトリスは頷き、ララノアに命じる。
「騎士を全員呼んできてちょうだい。」
「かしこまりました。」
全員が呼び出され、アスカルトは話し始める。
「まずは誓ってくれ。この話題について一切他言しないと、必要な時以外は話題にしないと。…これは王子としての命令でもある。」
「「「かしこまりました。」」」
全員の返事に頷き、アスカルトは胸から一枚のカードを取り出す。
「これは僕らも行った、極秘事項に対する誓約書だ。」
カードをテーブルの中央に置き、トントンと突いた。
カードから文字があふれ出す。アスカルトはぐるぐるとかき混ぜる仕草をすると、それらは列をなし、文章となった。
「君たち、主従契約は交わしているね?なら、代表としてシェラトリスだけでいい。」
王族や名門貴族は、自分の専属となる騎士・メイドに主従契約を交わすことを求める。裏切りを起こさないための強い効力を持つ契約だ。これは一方的に結ぶことはできず、主人が従者を裏切る行為を行っても、制裁が発動する。
裏切りには死を。主従契約は決して破ることが許されない。ゆえに、その契約は信頼される。
もちろん、アスカルトはシェラトリスらクロノタトン家が裏切るとは全く考えていない。しかし、念には念をという王族の鉄則がある。それは貴族だって同じである。シェラトリスも名門貴族の娘として、その守秘義務の契約を甘んじて受ける。
アスカルトは、ロウランドが差し出した短剣で自分の指の腹を切る。カードに血を垂らし、契約の文言を唱える。
「〈我、これより《禁書》に関する秘密を開示する。これについて他者に語るは、契約違反。無闇に口にすることも許されぬ。これを犯せば、直ちにその身は切り裂かれ、同血者に禍が降りかかるだろう。汝よ誓え、何があろうと必ず守秘を貫くと。〉」
続けてシェラトリスがララノアからナイフを受け取り、同じ手順を踏む。
「〈誓う。我、シェラトリス・クロノタトンは、この契約に従う。〉」
カードの上で握手を交わせば、契約完了だ。
「さて、では手当をしてから話そう。」
アスカルトが、短剣で傷付けた方の手をひらひらと振って告げた。
「まず、あのエリアについてだ。〈古書〉が置かれているエリアと正反対に位置するあの地下には、普通は立ち入りが禁じられている。」
「目くらましの魔法が掛けてあるんです。あのエリアに続く道は、探す意思が明確にない限り、見つからないようになっています。」
クレーメンスの補足に、アスカルトは頷く。
「あのエリアの中で、〈書〉が置かれているのは一つの部屋だけ。しかも移動式だ。不規則に〈書〉を置く部屋が変わる。その部屋には必ず一人の特別司書が付いていて、それがメイシー様だ。ちなみに、〈古書〉エリアの番人であるロマ様のご姉妹だ。」
赤と青、二人の少女をシェラトリスは思い浮かべる。第一印象で判断するに、彼女らは髪色だけでなく、性格も真反対のようだったと改めて思う。
(ああでも、黒い目はそっくりだったわね。)
シェラトリスは心の中でくすりと笑った。
そんな回想をするシェラトリスをよそに、アスカルトは話をどんどん進める。
「メイシー様が守っていらっしゃるあの部屋は―――〈禁書〉が集められた部屋だ。」
聞き捨てならない単語に、シェラトリスは一瞬で思考が戻る。
(あの部屋にある〈書〉が〈禁書〉?)
〈禁書〉とは、犯罪者や危険思想保持者の〈古書〉だ。危険な魔法が込められていたり、危険な魔法について綴られていたりするため、厳重に管理されている代物だ。
紙飛行機は確かにあの部屋の前で留まり、再び飛ばした際には部屋に吸い込まれていった。まさか自分は、〈禁書〉を手にするのではなかろうか。シェラトリスは少し不安になった。
「ああ、でも早とちりしないでほしい。非常に珍しいことではあるけど、長い歴史の中、今まで〈禁書〉を手にした魔女がいなかったわけじゃない。その魔女たちは立派な志の持ち主だったという記録があるよ。ある魔女なんて、〈禁書〉に記された内容を利用して、有効な防犯魔法や反撃魔法を生み出したそうだよ。記録は王族と限られた〈古書持ち〉しか見られないようになっているけど、シェラトリスは許可されるだろうね。参考にするといいよ。」
シェラトリスはほっと胸を下ろした。
(〈古書〉に振り回されないよう、しっかり気を保たねば。)
ソフィニアも儀式の際に言っていた。〈書〉を表面的に考えてはいけない。
シェラトリスは前向きな姿勢を心掛けようと胸に誓った。
しかしその決意は、敢え無く崩される。
今年の春から更新を休む日が続いてますが、夏休みに入るまで忙しいようです。なにとぞご容赦ください…。




