第5章、再び王宮へ①
「おかえりなさいませ、シェラトリス様。」
出迎えた者たちは、シェラトリスに頭を下げる。ほとんどがシェラトリス専属の騎士や使用人だ。
「…部屋に来てちょうだい。」
シェラトリスがそう言うと、ララノアやユアンなどの限られたメンバーが付いてくる。
部屋に着くと、シェラトリスは防音魔法をかけた。
「…さっき、いるはずのない人物が宮殿にいたのだけれど。」
「“クレランス殿下”、ですか?」
シェラトリスよりも少し若い少女騎士が答えた。白い髪の彼女は、平民の黒髪の家族から生まれ、家族の中で疫病神扱いされて生きてきた。耐えきれず家出し、クロノタトンの元へたどり着いた。まだ若くて年齢より身体が小さいゆえに、一時はメイドになるべく見習いとして働いていたが、その類まれなるパワーを見出され、クロノタトン家史上、最短で騎士となった。
「…そうよ、ルナナ。」
名を呼ばれた少女は楽しそうに笑った。
「シェラトリス様が〈古書の儀式〉を受けるところをぜひ見たいと申されておりましたので、こっそり準備を。」
「ちょうど昨夜、王宮騎士の方々が拠点を移されましたので、屋敷内を移動するのにも問題はないかと。」
モーリスが補足する。
「だからと言って…。」
「たまには元気な王女殿下の姿を周囲に見せないと。…って、ロウランド様もノリノリで。」
「…。」
シェラトリスはため息を吐く。
「…アスカルトは何て言ったの?」
「まあいいんじゃないか、と。僕も見たいし、とエスコートされて。」
「…。」
会いたい・話したいという言葉には〈古書の儀式〉を見たいという言葉が隠されていると思ったが、やはり当たっていたようだ。
「〈古書持ち〉を把握する仕事というより、完全に個人的な興味で来たわね。」
「旦那様や奥様がいらっしゃらなかったこともあって、ほとんど誰も止めませんでした。皆、〈古書の儀式〉知りたさで。」
「お父様たちがいないばかりに…。…レナードも止めなかったの?」
シェラトリス専属騎士の隊長は、いつもの無表情で答える。
「はい。」
「なぜ?」
この男は合理的・論理的に判断する騎士だ。このような場合、クレーメンスが無闇に人前に出ないよう進言するはずだが。
「私も〈古書〉や〈古書の儀式〉に興味があったので。」
「珍しいですね、レナードさんが何かに興味を示すなんて。」
ララノアが少し意外そうに言葉を挟んだ。
クロノタトンに来る以前―――レナードがどこで生まれ、どうやって生きてきたかを知る者は誰もいない。突然クロノタトンにやって来たかと思うと、騎士にしてほしいと頼み込んできたのだ。
経歴はともかく、素性すら明かさないレナードをクロノタトンで雇うのは難しいと大人たちは告げたが、熱心に頼み込む姿勢とシェラトリスが誘拐されかけた際に役に立ったことが関係して、騎士になることができた。シェラトリスは助けてくれたお礼として、自分の騎士とし、周りの騎士からの反発を防いだ。
そんな彼は、自分の話を一切しないことで有名だ。好き嫌いも趣味も、何もかもが不明。人間じゃないみたいだと気味悪がられることもあるくらいだ。
「さすがに〈古書〉には興味が湧く。ましてや自分の主に関係することだ。」
淡々とした様子だが、シェラトリスへの忠誠心が見える。
「…そのことなんだけど…。」
「どうかされたんですか?」
〈追記〉
シェラトリスの騎士の一人の名前を変更しました。理由は、第一王子(アスカルトやクレーメンスの兄)のレイジオンと名前が非常に近く、混乱する恐れがあると気付いたためです。申し訳ありません。
レジオン → レナード




