第4章、王宮にて④
お久しぶりです、すみません。
「取り乱してしもうたな、すまぬ。時計が壊れていて時間に気付かんかったのじゃ。急いで走ってきたが、そこでつまづいてしまったのでな。驚かせたろう、申し訳ない。」
先ほどまでのキレっぷりはどこへやら。穏やかな話し方だ。
「さてさて、今年は…3人か。ふむ。」
しわしわの紙―――鳥の形に折られた書類だったものを読みながら、眼鏡を触ろうとして、ふと眼鏡がないことに気付くアーリン。頭をぺたぺたと触るも、そこに眼鏡はない。バサバサと服を叩くも、落ちてはこない。
「アーリン…。」
ロマが呆れた声で扉の方を指差した。
そこには、フレームがぐにゃぐにゃと曲がった、あられもない姿の眼鏡が。
「“アーリン様、もう少しお気を付けください。”」
メアががたがたになった眼鏡を飛んで拾うと、ルヴァンの元へ。
ルヴァンがあっという間に魔法で眼鏡を直した。
「…すまぬな。」
何とも複雑そうな顔でアーリンは眼鏡を受け取り、改めて書類に目を通す。
「わしの名はアーリン。宮殿図書館の〈番人〉じゃ。ロマのような特別司書のまとめ役もしておる。」
「お世話は私たちの方がしてますけど。」
「うるさいぞ、ロマ。」
アーリンはぎろりとロマを見たが、ロマはにこにこと笑顔を絶やさない。
(二人はとても仲が良いのね。)
シェラトリスは、アーリンとロマを、うっかり者なおじいちゃんとそれに付き合う孫のようだと、和んだ。
「わしらのことはどうでもいいんじゃ。大事なのは〈古書の儀式〉じゃ。」
アーリンは書類をロマに手渡した。そして祭壇のような場所へ移動する。
「さあさあ、お前さんたちもこちらへ。」
空中に現れた巨大な本。それがどっかりと書見台の上に落ちて来た。
その本を一枚一枚丁寧にめくりながら、アーリンは生徒三人に手招きする。
「まずは…シェラトリス・クロノタトンのお嬢さんじゃな。」
名を呼ばれ、アーリンの前へ。
「ここにお名前をお書きくださいね。」
ロマに渡された紙は、不思議な魔法陣が描かれていた。その中央の空白に名前を記入し、返却する。
「ここへ手を。」
アーリンに促されるまま、アーリンの〈書〉に手を置く。そのページには、名前を書いた紙と同じ魔法陣が。
アーリンは反対側の、文字が書かれたページに手を置いた。
「こちらにも手を。」
ロマがシェラトリスのもう片方の手を取る。ロマのもう片方の手には、名を書いた紙が。
「「〈汝の生涯の相棒をここに〉」」
二人の言葉と共に風が巻き起こる。
「〈ロマの名において、許可〉。」
まばゆい光が三人を包む。魔法陣が浮かび上がる紙を持つ手を、アーリンの〈書〉にロマが重ねる。よく見ると、ロマの青い指輪からも魔法陣が浮かび上がっており、二重の魔法陣が強烈な光を放っている。
「〈アーリンの名において、承認〉。」
その瞬間、光が一気に集まった。ロマの手の中、シェラトリスが名前を書いたその紙へと。
ロマが紙を手離した。宙に浮かぶその紙は、紙飛行機へと形が変わる。
「さあ、探すのじゃ!」
アーリンの言葉に、紙飛行機はどこかへ飛んでいく。
「追いかけて!」
ロマがシェラトリスの背を押した。
「ええ?!」
訳も分からず、シェラトリスは走り出す。
「〈古書〉が見つかったら、ここに戻って来てくださいねー!」
見失わないようにと、ひたすら前を向くシェラトリスの背に、ロマは手を振って声をかけた。




