第4章、王宮にて③
首を動かす度に、短い赤髪がふわふわと揺れる。
特別な髪色に、思わず生徒三人は目が釘付けになる。
「もう…。」
ロマは紙の鳥を飛ばした。鳥は来た道を辿るようにどこかへ向かった。
「今のうちに、少しだけ説明をしますね。」
ロマはにこりと笑った。
「今通って来た道は、宮殿図書館の職員用通路です。今回、一般図書には用がないため、そちらを使いました。一般図書は利用されたことがありますか?そちらは事前許可さえ取得すれば利用できますよ。もちろん、身元がはっきりしている方のみですが。蔵書数は国で二番目ですが、どこよりも貴重な書物を数多くそろえているのですよ。」
国が運営している図書館は全部で三つある。一番規模が大きく本の数が多いのは、〈王立研究図書館〉というところで、宮殿図書館はその次だ。ちなみに、シェラトリスたちの学校〈黒白薔薇学園〉の図書館が残りの国営図書館である。いずれも、古いものから最新のものまであらゆる書物が豊富に揃えられている。
また国営図書館の他にも、私営の図書館が存在するが、そちらは学術的な書物に乏しく、娯楽や実用といったものが多い。
「それに、ここにしかないものがありますよ。この〈古書〉のエリアがそうです。〈古書〉は全てここに集められ、厳重に保管されます。ここへ入れるのはごく僅かで、王族、特別司書と〈番人〉、特別な権利を持つ研究者がそうですよ。―――あ、ルヴァン様もその権限を持っていますね。」
ロマの言葉に、ルヴァンは頷く。
「あとは、〈古書〉を持つ方々ですね。整備や研究のためだけではないですよ。警備も兼ねているんです。知っている者の数は少なければ少ないほど、安全性は高まりますから。」
そこで、ルヴァンが口を挟む。
「“お前たちはただ〈古書〉を手にするのではない。その責任と義務を負うんだ。とは言え、最初から重い義務を背負うわけではない。まずは使い方を学び、この場所に慣れ、少しずつ仕事を教わる必要がある。仕事は多岐にわたるが、一人でこなすのではない。決して多くはないが、すでに〈古書〉持ちとなった者がいるのだ。無茶をせず、必ず誰かに頼りなさい。私でもいい、学校という同じ場所にいるのだから。”」
その言葉に、レイベルがすかさず質問をする。
「ルヴァン先生も〈古書持ち〉だと聞きました。どのような方の物だったのでしょうか。」
ルヴァンはゆっくりとした造作で手を出すと〈書〉が現れた。
表表紙は真っ黒で、紺色の宝石と白いリボンが付いている。裏表紙は真っ白で、黄色の宝石と黒いリボンが付いている。表と裏で対照的な色の組み合わせだ。背表紙は灰色、赤黒い色で何か文字が刺繍されている。
「……ハーシュの時代に生きた王族が遺した物だ。」
三人は驚いた。ハーシュの時代に生きた、ということは即ちハーシュの起こした厄災に巻き込まれた者の〈書〉のはずだ。それも王族となるとより貴重なものだ。
「〈古書持ち〉の〈古書〉は、魔女さんとの親和性の高さで選ばれます。使い方さえ注意すれば、高度な魔法が使えるかも―――」
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
ロマが話す途中、大きな声と音と共にドアを開けて入って来た者がいた。勢いが強すぎたのか、盛大に転んで顔を伏している。
「……アーリン、静かに入ってきてください。驚きますよ。」
ロマは少し呆れたように、転んだままの老人に注意した。
「紙鳥の知らせで走って来たんじゃ!そしたら扉の前でこの忌々しいローブを踏むし、閉まってると思って手をついた扉は鍵がかかっとらんし!そりゃ派手に転ぶわい!!!」
ロマの手を借りて立ち上がる老人。
「そもそもこの時計のせいじゃ!!急に壊れよって!!」
懐から懐中時計を取り出し、力いっぱい握りしめるアーリン。
はいはいと慣れた様子で老人の背をなでるロマ。さっと懐中時計を取り上げ、破壊を阻止する。
ふと顔を上げたアーリン。その視線の先、茫然と立ち尽くす少年少女を見て、アーリンは咳払いをして空気を変えようとした。
遅れました、すみません(土下座)。
よく15:00に全文アップできず、申し訳ないです。
自分は心身ともに強くないのでペースが遅いのです。なにとぞご容赦ください…。今後、急に更新を休む日が出てくるかもしれませんが、その時はご容赦ください。
〈追記(2022年4月10日)〉
閲覧者数がのべ500人を超えました。ありがとうございます!これからも頑張りますので、ぜひ見て頂けると嬉しいです。