第4章、王宮にて②
「揃ったな。では行こう。」
普段より一層 静かな図書館。朝一番に図書館へ来たことがなかったシェラトリスは新鮮に感じていた。
ほとんど人のいない図書館に集まったのは、メアを連れたルヴァン、シェラトリス、レイベル、メロディの四人。
そして、彼らを図書館の中に引き入れたのは、図書館の〈番人〉であるソフィニアだ。フロアに全員が集まったのを確認すると、普段は生徒が立ち入らないような裏側へと案内を始めた。
「ほれ、ここだ。」
地下深くへと進み、ソフィニアが指差した場所……そこには、いくつものドアが存在する不思議な空間があった。全て同じデザインであるが、ドアは地に着いている物ばかりではない。宙を飛んで移動する物や、床や天井に張り付く物まである。
「この中で一つだけ、宮殿と通じる〈扉〉がある。答えを知るのは、〈番人〉たるわらわだけだ。」
そう言って、ソフィニアは服の中から鍵束を出した。これも同じデザインで、見分けがつかない。
「この鍵も然り。ただ人には違いが分かるまい。」
鍵束から一つを選ぶと、大した助走もなしに跳躍し、飛んでいた〈扉〉の一つを掴んで地に下ろした。掴んだ取っ手を離さぬまま素早く鍵穴に差し込み、〈扉〉を開ける。
「さあ、進め。」
ソフィニアに会釈して〈扉〉をくぐるルヴァンに続き、生徒三人は恐る恐る足を運ぶ。
〈扉〉の先は、荘厳華麗な装飾が施された空間だった。どうやら登城者用の広間のようだ。来訪者が短い列を作り、警備の騎士が見守る中、職員が受付作業をこなしている。
「わらわはこちらで待っている。良き報告を楽しみにしているぞ。」
大人の余裕を感じる不敵な笑みで手を振るソフィニア。そうして〈扉〉は閉められ、ドアが消えた。
「“―――付いて来い。”」
歩き出したルヴァンの後を追うと、今しがた人がいなくなった受付に並んだ。
「どちらの〈扉〉からいらっしゃいましたか?登城人数と代表者のお名前、目的をどうぞ。」
「“貴族学校『黒白薔薇学園』から、四人だ。私は引率教師のルヴァン・イヴァンシェ。生徒三名が〈古書持ち〉だと判明したため参上した。”」
男性職員は手元の書類を見て頷いた。
「事前申請通りですね。」
職員は書類を机に置くとそれをトントンと突いた。紙はひとりでに折り畳まれ、鳥のような形となって飛び去った。
「では、隣の待合室でお待ちください。」
椅子とテーブルがあるだけの小さな部屋に進む。
そこでくつろぐ間もなく、人がやって来た。
「『黒白薔薇学園』のみなさんですね。宮殿図書館の特別司書、ロマですよ。わたしに付いて来てくださいね。」
クレーメンスくらいの年齢の少女。髪の色が黒でも白でも灰色でもないため、魔女ではなさそうだ。〈扉の館〉の老婆やソフィニア同様、〈番人〉の任に就いている者なのだろう。
「ふふふっ。」
自分の周りを紙の鳥が飛ぶのを見て楽しむロマ。その姿は、クレーメンスより幼いように見えた。
「みなさんは〈古書〉の儀を受けるため、一般図書のエリアには寄らず、〈古書〉を保管している場所に直接 向かいますね。一般の方は滅多に入れない、特別な場所ですよ。ラッキーですね!」
ロマは説明しながらドアを開けた。
「こちらが職員用通路ですよ。さあ、どうぞ。」
絨毯の敷かれた長い廊下。いくつものドアを無視してどんどん進んでいく。
「さあ、これに乗ってくださいな。」
〈鉄の箱〉と呼ばれる、階層移動用の機械に乗り、上へ上と昇っていく。
〈鉄の箱〉を出て少し歩いた先、ロマはあるドアの前で立ち止まった。袖を上げ、隠れ気味だった小さな手をドアに突き出す。中指に青い指輪がはめられているのが見える。
「〈ロマの名において、解錠〉。」
鍵穴も鍵もないのにカシャンと音がした。ロマはドアを開いて四人を中に入れると、同じようにして今度は施錠した。
「このエリアでは、たくさんの〈古書〉を保管していますよ。〈古書〉を遺した魔女が亡くなった時代に分けています。」
そう言うと、きょろきょろと辺りを見回した。
「…あらら?アーリンはまだ?」
学校の設定にブレが生じていたため、第1章③にて文章を一部変更しました。シェラトリスの学校は基本、貴族のみ(例外あり)が通っています。